Feature #02

密着レポート
調査のスペシャリスト集団
「レファレンス・ライブラリアン」
を辿る!

竹田 華子/大城 伊織

みなさんは、レファレンス・サービスという言葉を知っていますか? 言葉は耳にしたことがある、という方は、サービス内容を知っていますか?自分のリサーチクエスチョンを明らかにしていく際(つまり、研究や学修を深めるプロセス)に必要となる「先行研究調査」「参考文献検索」といった作業。これをサポートしてくれるサービスです。参考文献検索や先行研究調査は地道で時間を要する作業ですし、どこから検索にかかればよいか、探し方がわからなかったり、あと一歩のところで、どうしても最後の扉が見つからないといった時。そこを研究者や学修者とともに調査のサポートを担うのが、「レファレンス・ライブラリアン」です。

今回は、2名のレファレンス・ライブラリアンに密着し、情報にたどり着くプロセスをドキュメンタリーでリポートします。

竹田 華子

STORY #01

「宇宙食のカロリー」が載った
文献を探し出す

竹田 華子

OICライブラリー レファレンス・ライブラリアン

目的の資料にたどり着く道筋を
ナビゲートする。
それがライブラリアンの役割

「宇宙食について調べたいんですけど。明日のお昼までに何か文献を見つけられるでしょうか」。

大阪いばらきキャンパス(OIC)のOICライブラリー。カウンターに座るライブラリアンの竹田華子のもとに学生がやってきたのは、ある日の昼休みのことだった。「おそらくレポートの課題なのだろうと想像しましたが、『宇宙食』というだけでは漠然とし過ぎていて、どのような文献を探せばいいのか見当をつけられません。まずは学生さんに何について調べているのか、もう少し詳しく話を聞く必要がありました」と竹田は振り返る。

ライブラリーのカウンターには、日々さまざまな問い合わせが寄せられる。教員や大学院生から研究分野に関する論文や文献を入手したいという依頼もあれば、一般書籍にはない極めて限定的なテーマや事柄に関する資料、新聞記事・特定の統計データを探したいといった要望もある。大学の図書館や一般の書店にはない文献や、教員や学生が調べても見つけられない情報を専門的な知識や手段を駆使して探し出すのが、ライブラリアンの役割だ。一方で、「調べ方」がわからないために資料を見つけられないという学生も少なくない。そうした学生にどうしたら求める資料にたどり着けるのか、その道筋をナビゲートするのも自身の役割だと竹田は任じている。

「それ以前に、そもそも自分が何を研究・調査したいのか、はっきり決めないまま闇雲に文献を探そうとする学生さんも少なくありません」と竹田は言う。ライブラリアンに詳しく研究内容を説明するうちに、漠然としていた研究のテーマや方向性が明確になってくることもあるという。

この日も竹田は、研究内容を絞り込むために「いつ、どこの宇宙食の情報がほしいのか」、「時間」と「場所」を限定するよう尋ねた。「学生さんの答えは、現代の宇宙食ではなく、マーキュリー計画時代(1958年~1963年)、ジェミニ計画(1961年~1966年)時代、アポロ計画時代(1961年~1972年)といった宇宙開発黎明期の各時代の宇宙食について知りたいというものでした。メニューの種類に加えて、カロリー数値が分かればなお良いとのこと。話を聞いてみると、ある程度明確な構想があるのだということがわかってきました。それなら、この3つの時代のアメリカ・NASAにおける宇宙食について調べましょうと話しました」と竹田。時代と場所をある程度特定したところで、調査を開始した。

スペシャリストの着眼点で
データベースから情報を絞り込む

ライブラリアンは、立命館大学が所蔵する書籍・雑誌・論文はもちろん国内外の大学や公的機関が保有する文書を探索したり、世界中のさまざまな機関のデータベースや立命館大学が契約している数々の有料学術専門データベースにアクセスするすべを心得ており、必要に応じて資料を取り寄せたり、他の大学や機関の図書館に入館する手続きを手伝ってくれる。調査にあたっては複数のライブラリアンが協力し、互いに情報収集。難しい調査案件にもチーム力で応える。

しかし今回の調査にあたっては、もう一つ課題があった。与えられた時間が少ないことだ。文献の調査依頼を受ける場合は、通常1週間程度の調査期間を設けているが、今回の期限は翌日の昼。「今回のテーマなら、関連書籍は数多くあるだろうと思いましたが、他大学や立命館大学の他のキャンパスなどから取り寄せる時間はなさそうです。他のスタッフと手分けして、OICライブラリーか、学生さんが直接訪ねられる近隣の公共図書館に所蔵されている文献、あるいはインターネットから入手可能な資料を探すことにしました」。単に資料の有無を突き止めるだけでなく、現実に入手・閲覧できるかも含めて考え調査範囲を決めるという。

「まず手がかりを得るためGoogleで『NASA History』とキーワードを入れ、検索するところから始めました」と竹田。そこですぐに目をつけたのが、NASAのホームページだった。公的機関の多くは研究成果や統計資料などのデータベースを持ち、ほとんどの情報を公開している。それを知っていた竹田達は、NASAが公開しているデータベースがないかを探索。するとテーマによっていくつものデータベースが存在することが分かった。

その中から「NASA History」というサイトを選び、「space food history」で検索を試みたところ、35万8000件もの資料がヒットした。これではまだ候補資料が多すぎる。竹田達はさらに「アポロ時代(apollo)」「ジェミニ時代(Gemini)」「マーキュリー時代(mercury)」「カロリー(calories)」などのキーワードを追加し、組み合わせを変えながら検索を続けた。それぞれの検索結果にざっと目を通し、キーワードを多く含んだ資料、公的機関の出した信頼性の高い資料など、目星をつけた資料は簡単に内容も確認する。例えば「space food system Gemini」で検索した結果からは、冒頭に「SP-202 Aerospace food technology」と書かれた論文を見つけた。「これは関係あるかもしれない」と判断した竹田はリストに加えた。

膨大な情報を保有するデータベースから目的の資料を見つけ出すのは簡単ではない。依頼者から得た情報をもとにスペシャリストならではの着眼点と発想で的確な検索ワードを選び、さらに検索範囲を絞り込んでいく。そこがライブラリアンの腕の見せどころだ。

そうしていくつかめぼしい資料を見つけ出したものの、いずれにもカロリーに関する記載はないことがわかった。そこで竹田は一旦目を転じ、アーカイブにあった「NASA Technical Report」という文言に着目。Googleで検索して「NASA Technical Report Server」というデータベースがあることを探り出した。「ここにも宇宙食のメニューに関する資料があるかもしれない」。そう思った竹田は、試しに「Food Consumption Gemini」と検索すると、1427件の資料がヒット。その中に、ついにジェミニ時代の宇宙食のメニューとカロリーが掲載された資料を発見した。

遠慮せずに
どんどん相談してほしい

翌日昼、再びライブラリーにやって来た学生を前に、竹田は自身が調べた通りに検索過程を再現し、最終検索画面まで誘導してみせた。

通常レファレンス・ライブラリアンは、さまざまなデータベースを検索した最終結果を検索履歴とともに利用者に伝える。その中から自分が必要とする文献を探すのは利用者自身だ。たとえ求める文献がなかったとしても、検索履歴がわかれば後で自ら再探索する時に無用な重複を防ぐことができる。論文や研究資料を調べ慣れている教員や大学院生には、あまり知られていないデータベースや検索範囲の広げ方をアドバイスすることもある。

「学生の皆さんには、まず資料の探し方を知ってほしい」と、竹田は検索結果を説明する理由をこう繰り返した。どのようにデータベースを探し出し、どのようなキーワードで検索すれば目的の資料を見つけられるのか。それを自分のものにできれば、今後、研究や課題に取り組む上でもきっと役立つはずだ。

STORY #02

1931年7月17日、和歌山県の
日曜学校にいた「小笠原」とは?

大城 伊織

BKCメディアセンター レファレンス・ライブラリアン

Next
大城 伊織
PREV
1/2