授業レポート#04

“Beyond Border”を
体得する

文化、言語、ジェンダーを超えて
多様な人と理解し合う

Cross-cultural Encounters 1

Cross-cultural Encounters 2

どうしたら異なるバックグラウンドや文化を持つ人と理解し合い、異なる文化との出会いを楽しみながら共に生きていくことができるか? 異なるバックグラウンドを持つ学生同士が日本語や英語、その他さまざまな表現を駆使してコミュニケーションをとり、多様な文化や価値観を理解し合うすべを学びます。ディスカッションやディベート、ワークショップなどさまざまな実践を通して見えないバリアに対する批判的な目を養うとともに、コミュニケーションスキルを磨きます。

異なる背景や文化を持つ人と
理解し合うって
どういうことだろう?

私たちは、文化や価値観、宗教、言語、性別、年齢などの異なる多様な人々と共に生きています。多くの人は「自分は偏見や差別意識を持っていない」と思っているけれど、果たして本当にそうでしょうか?

「Cross-cultural Encounters 1」と「Cross-cultural Encounters 2」は、多様な価値観について理解を深め、異文化との出会いを楽しみながら共に生きていくことを学びます。多くの留学生が受講し、アメリカ、フランス、イタリア、チェコなどの欧米から韓国、中国、マレーシアやフィリピンなどの東南アジア、さらにはインドまで、まさに多国籍、多文化が交じり合う授業です。TA(Teaching Assistant)も留学生です。

「学生にあえて失敗を経験させることが、この授業の目的の一つです」。そう語るのは、担当教員の羽谷沙織准教授。英語が得意ではない学生、英語を母語としない留学生も多く参加し、日本語と外国語を駆使して互いにコミュニケーションをとろうと努力します。ディスカッションで意見がぶつかったり、グループワークでうまく協力できなかったり…。文化の異なる人と接する難しさを体験するとともに、異文化を理解する喜びを学んでいきます。

全15回の授業の終盤、第13回では、カンボジア古典舞踊家のプルムソドゥン・アオク氏による特別講義とワークショップが行われました。学生はカンボジアの古典舞踊を体験しつつ、身体を使った表現やコミュニケーションに取り組みました。

プルムソドゥン・アオク氏
プルムソドゥン・アオク氏

アメリカで育った在米カンボジア人二世。また彼はゲイでもあります。カンボジア古典舞踊のダンサーとなった後、両親の故郷であるカンボジアで初めてゲイの古典舞踊団を設立しました。現在はカンボジアに拠点を置きながら世界に活動を広げ、LGBTQについて発信しつつ、カンボジア古典舞踊に革新を起こし続けています。

「カンボジア古典舞踊では、指先の向き、首や手足の動かし方など所作や動作で女性、男性のキャラクターを演じ分けます」。アオク氏は、自ら実践してみせながら男性の踊り、女性の踊りの違いを説明しました。少しの所作の違いで本当に女性にもまた男性にも見えるから不思議です。アオク氏は言います。「カンボジア舞踊では男性が女性を演じることもよくあります。しかしそれは女性に『なりきる』ことではありません。女性を『演じる』ことで、その背後に踊り手自身の個性が透けて見えることが重要です」

さらにアオク氏は、カンボジアにおける民族の虐殺や迫害の歴史を紐解きながら、「LGBTQといった性の多様性について考えてほしい。重要なのは世界を、そして自分を変えること」だと静かに語りかけました。「社会の固定概念を超え、ジェンダーを超え、言語を超え、宗教を超える。立命館大学の大切にしている『Beyond Borders』を体得するのがこの授業の目的です」と羽谷准教授は言います。

芸術を理解することは『世界を見る新しい目』を養うこと。
貧困のために十分な教育を受けられなかった若者たちが
カンボジア古典舞踊を通して世界に目を開いていくのを見た時、誇りを感じます

自分自身の中の偏った価値観
文化的な垣根や心理的なバリアが
浮き彫りになってくる。

現代の日本では多文化主義が進んでいるといわれていますが、本当にそうでしょうか? 毎回学生たちはさまざまな講義やディスカッションを通して考えます。第4、5回の授業では、南アフリカ共和国におけるアパルトヘイトの歴史や日本の移民政策に対する考え方を取り上げ、多文化主義について議論しました。また第7回は国際スポーツ界や社会に潜む人種問題やエスノセントリズムをあぶり出しました。

「ディスカッションは、学生自身の偏見や差別意識に対する鋭い問いかけでもあります」と羽谷准教授。「『自分に偏見はない』と多くの人は思っています。しかし例えば『留学が格好いい』と言う学生に、『どこに』留学することが格好いいのかと問うと、どうでしょう? 多くは無自覚に欧米諸国を思い描きます。なぜ東南アジアやアフリカへの留学を格好いいと思わないのでしょうか? 多様なテーマで議論する中で、そうした内在的な文化的な垣根や心理的なバリアが浮き彫りになります」と言います。学生は見えないバリアを批判的に捉える視点を養うとともに、自らに内在する偏った価値観にも気づいていきます。

皆と意見交換して「日本人はこんな容姿」「日本国籍でない人は外国人」と思い込んでいる人が多いことに気づきました。こうした考えの根底に差別意識があると思います。日本にも多くの差別があると思いました。

平沼 紗菜さん 平沼 紗菜さん
経済学部3回生
羽谷 准教授 羽谷 准教授

少しずつ剣の先が研ぎ澄まされるように、異文化に対する感覚が鋭くなっていきます。

つたない英語でもいい。
多様な人々とどうにかして
コミュニケーションをとる力を磨く。

多文化を理解することに加えてもう一つ授業の重要な目的は、異文化コミュニケーションを学ぶことにあります。「しかし『異文化コミュニケーション』は決してネイティブのように英語を話せることではありません」と羽谷准教授は強調します。授業は、英語と日本語の両方で進められ、ディベートやディスカッションでもどんな言語を使おうと自由です。重要なのは、多様な背景を持つ人といかにコミュニケーションをとるか。一方で、留学生にも理解できる「やさしい日本語」で話すことも、グローバル社会にとっては必要なコミュニケーションスキルです。

目指すのは、「世界で生きていくって、こういうことか」という感覚をつかんでもらうこと 。学生は多様な人々とのコミュニケーションスキルを磨くと同時に、世界の共通言語としての英語の重要性にも気づき、英語力も鍛えるようになります。

日本人は自分の意見を言うことが苦手で、国際的な場で遠慮しがちだ、といわれるけれど、そんなことはないと実感しました。ディスカッションでは、流暢な英語で話せなくても自分の意見を主張し、留学生とコミュニケーションをとろうと努力しました。言葉が不自由でも自分の意志や意見を伝えることが重要ですね。

福島 朋也さん 福島 朋也さん
スポーツ健康科学部
3回生

また「Cross-cultural Encounters 2」では、4つのテーマでディベートを行います。いずれも答えのない難しい問題です。各課題に対し、肯定グループと否定グループに分かれてそれぞれの立場を裏付ける根拠を調べ、論理を組み立て、議論を交わしました。

それぞれ国際社会で注目すべき問題について理解を深めることはもちろん、持論を裏付けるにはどのようなリサーチをすればいいか、またどのような言葉や論理展開で情報を提供すればいいか、試行錯誤する中で自らの殻を破って自分の考えを伝える力、相手の言葉もきちんと傾聴する力も身に着いていきます。

DEBATE TOPICS

  1. 大学は留学生と国内学生が共同生活を送るグローバルシェアハウスを導入するべきか
  2. 日本は外国から移民を受け入れ、経済の活性化に役立てるべきか
  3. 海外の貧窮した人を援助するよりも、まずは国内の貧困問題を解決すべきか
  4. 制度としての結婚は廃止すべきか
ターウォンマット・ランさん ターウォンマット・ラン
さん
情報理工学部
2回生

学部や学年の違う学生だけでなく、異なる国籍の人とたくさん話せたのが嬉しかった。日本人学生と英語で話すのは初めて。意見が食い違うこともあったけれど、それは言葉が違うからではなく、考え方が違うからだと思います。他学部の学生ともさまざまなことを話せる自信がつきました。

身体を使って
Beyond Boerdersを体感する。
世界で生きるって、こういうこと。

特別講義・ワークショップの日、講義の後はアオク氏の指導のもと、学生たちがカンボジア古典舞踊の基礎的な所作や動きを実践しました。腕につくほど指先を反り返らせたり、逆方向に肘を伸ばしたり、独特の所作に「痛い!痛い!」とあちらこちらで悲鳴が聞こえます。

続いてグループに分かれ、アオク氏が出したテーマを身体で表現するという課題にチャレンジしました。受講生にくわえて、見学していた教職員も飛び込み、話し合いながらそれぞれが役割を演じ、ストーリーを作り上げていきました。

数分後、各グループが成果を披露。同じテーマでも表現方法は多種多様です。最初は恥ずかしそうにしていた学生も次第に熱が入り、最後には堂々と演じ切りました。ユニークな動きには笑いが起こり、誰もが全身で表現する楽しさを実感しました。

「学生も、教員も、職員もふだんの関係を超えて一緒に一つのものを作っていく。身体的な活動を通してまさに互いのバリアを超える『Beyond Border』を体験できたのではないかと思います」と羽谷准教授。
最後に「目をつむり、自分の将来をイメージする」という課題に取り組み、幕を下ろしたワークショップ。「自らを律して自分自身を構築していく。自分の意志で人生を切り開いていく。最後のテーマでそれを感じてもらいたかった」と羽谷准教授は明かしました。

身体を使って表現することが難しいと感じるのは、身体の使い方を知らないからではなく、「恥ずかしい」という感情が心に壁をつくるから。その壁を超えられた時、コミュニケーションが円滑になる、世界が広がって豊かになると感じました。

渡壁 響さん 渡壁 響さん
食マネジメント学部
2回生
  • WORKSHOP with Mr. PrumsoduN Ok

最後の授業。最終プレゼンテーションの課題は、「国際社会または日本社会において多文化共生がうまくいっている事例を一つ上げ、なぜうまくいっているかを分析する」こと、そして「立命館大学のキャンパスでどのような異文化交流活動ができるのかを提示する」こと。これまで学んできた知識や身に着けてきたスキルを総動員し、どうしたら多文化共生を実現できるか、自分自身の問題として考えました。

グローバル社会で生きていく上で本当に必要なことは何か? 授業を通じて共に学び、共に成長し、自己変革を遂げる中でそれぞれが答えを見つけるのが目標です。