【ウェビナー報告】COVID-19 とユーラシア



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COVID-19とユーラシア」というテーマの下、Webinar形式にて各分野の観点から、現今の国境閉鎖のもたらす影響について議論した。情報通信技術や交通手段の飛躍的進歩により、ヒト、モノ、カネ、情報の国際的移動が活性化されてきた中で起きたコロナパンデミックに対し、国家はどのように国境を閉鎖しようとしたのか、そしてそれらは政治体制といかなる関係を有するのか、という視点が今回のZoom Webinarに参加したパネリストの間で共有されていた問題意識である。

最初に、宮脇教授(立命館大学)より上記の問題意識に基づき、いくつかの論点提起が行われた。特に、ユーラシアにおける「国境」の持つ意義を地政学的視点から政治、経済、文化にわたって包括的に捉えることの重要性が強調された。政治の観点からは、各国の政治体制と国境閉鎖をめぐる政策の関係性について、また経済的側面からは経済依存度を考慮に入れたアプローチも、今日の国境政策を説明する上で、有意義であることが図表をもとに示された。今日の安全保障環境は極めて不安定であり、特に北東アジアは米中覇権争いの主戦場と化しているが、今回のコロナパンデミックから、これら北東アジア諸国が、国境をどのようにして捉えているかを考察することは、今後の国際政治状況を捉える上でも重要なテーマである。Withコロナ社会は国境を開放するという決断を下せるのか、逆にそれに対置されるWithoutコロナ社会は、長きにわたる国境閉鎖にどのように耐えるのか。この問いに対して、陸上国境しかない内陸国モンゴルや中央アジア諸国の事例を取り上げることの意義が説明された。

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スルトノフ教授(東北公益文科大学)は、中央アジアに位置するタジキスタン出身の国際経済学者である。そのバックグラウンドから特に、経済的視点から同地域に与える今日のコロナパンデミックの影響を中心に議論がなされた。中央アジア諸国とは、ユーラシアの中央に位置し、かつて日本に多くの知識をもたらしたシルクロード上に位置する5か国を指す。カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンの5か国のいずれも旧ソ連の構成国をなし、91年のソ連崩壊の過程で独立を成し遂げた点や、すべてイスラーム教のスンニ派が主流派となっていること、さらには、貿易相手国として、ロシア、中国に大きく依存しており、これらの国との人の移動も非常に活発な点などが共通点として挙げられた。しかしながら、保有資源や経済規模の違い、政治的自由度などに違いがみられ、経済構造や政治体制によってコロナパンデミックに対する対応も異なっていることが説明された。

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ドルジスレン氏(モンゴルの北東アジア安全保障戦略研究所長)は、安全保障を専門としている。COVID-19は、モンゴルにどのような影響をもたらしたのかという点について政治、経済、文化の視点から報告された。モンゴルは、ロシアおよび中国に挟まれた地理的環境にあるため、中国への高い経済依存度にもかかわらず、迅速に国境を閉鎖したことで、国内での感染死者数ゼロを実現している。また、主要輸出産品の石炭輸出も現在も滞りなく続いており、外国人観光客の減少にも国内地域観光ブームによって支えられ、いまのところ経済的に大きな影響はないとする見解が示された。そのため、モンゴルでは、「いつ国境を開放するのか」というのが争点となっており、海外のモンゴル人学生がモンゴル帰国後、留学先に戻れないという問題などにも直面しているという。

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玉井雅隆准教授(東北公益文科大学)は、同大学国際交流センター長の立場から「After Coronaの時代と人の移動としての海外留学」をテーマとして話された。訪日外国人数から留学生の話題まで、図表に基づきながらコロナパンデミック以前と以降を比較することで、「人の移動」への影響が自身の実体験も交えながら説明された。日本人の留学先のトップ3は、アメリカ、カナダ、オーストラリアである。しかし318日以降は学生ビザの取得が不可能になり、2019年までの文部科学省の取り組みも空しく、実質的に留学生数に関してはほぼゼロに近い数字となっていることが説明された。Afterコロナについてもいくつかの歴史事例から、新たな時代に日本もいずれ対応出来るであろうとの今後の見通しから、将来的な「人の移動」の展望についても論点が提示された。

最後にパネルディスカッションの時間が設けられた。フロアからの質問をもとに、国境閉鎖に伴い、人・モノ・カネの流れにどのような影響が生じたかという点や、国境開放の時期をめぐる課題が中心に議論され、「国境」の持つ今日的意義の問い直しがコロナパンデミックを契機に浮き彫りになったことが強調された。