【公開講演会報告】朝鮮半島をめぐる国際関係と日本(立命館土曜講座)

1講演会 講演者:薮中三十二(立命館大学国際関係学部客員教授)

 藪中氏の講演では、はじめにトランプ大統領の出現によって戦後の国際システムとして機能してきた同盟関係と自由貿易体制が崩れつつあることが述べられた上で、現在の北朝鮮、米朝関係をめぐる情勢、および日本の外交方針を含めた今後の展望について述べられた。

 今年6月の米朝首脳会談は、昨年までアメリカが北朝鮮の脅威を強調してきたことから見ても、大きな歴史的転換点であることは間違いない。その一方で、合意文書はCVIDについて明確に言及しておらず、核ミサイル廃棄の言質も、どのように交渉を進めて廃棄していくかのプランも盛り込まれなかった。そのため、首脳会談によって実効的な非核化が約束されたかというと疑問が残ると論じられた。

 米朝合意では、非核化への努力だけではなく、アメリカによる北朝鮮の安全の保障、北朝鮮と韓国の和平協定の締結を視野に入れた平和体制の構築が言及されている。北朝鮮はアメリカ、韓国の「敵視政策」の転換を非核化の前提条件として認識しており、米国ではトランプ大統領が合意の意義を強調することに対して、専門家からの批判も多いが一般的な支持も大きい。韓国では北朝鮮に対する信頼感が高まっており、中国は米朝接近によって自国の相対的な重要性が失われることに対して危機感を持っていると論じられた。

 今後の展望として、非核化交渉を進める上で軍事的圧力等の可能性が放棄されることでその困難が予想されるが、日本としてはアメリカとの安全保障上の脅威の違いや、交渉の場で当事者としての立ち位置を確保すること、拉致問題だけに限定されない日朝交渉への見通しが必要であると論じられた。

2部 パネル・ディスカッション


パネリスト:薮中三十二(立命館大学国際関係学部客員教授)

      中戸祐夫(立命館大学国際関係学部教授)

      古川勝久(国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員)

司会:本名純(立命館大学国際地域研究所所長/国際関係学部教授)

 はじめに古川氏が北朝鮮の非核化について報告した。北朝鮮の非核化については、6者協議も含めて単独でとりあつかわれたことはなく、常に米朝国交正常化の中での1つの課題として位置づけられてきた。過去に行われた非核化事例であるリビア方式と南アフリカ方式に言及しながら、北朝鮮の場合それらの事例とは核開発施設の規模がはるかに大きいため、従来の非核化よりも困難かつ長期的な取り組みが必要になると論じた。非核化の進行に応じて経済制裁をどう段階的に解除するかが重要になる。しかし、北朝鮮は独自の密輸ルートを通じて交易を行っているため、長期の制裁にもかかわらず近年の国内の物価は安定しており、町中のスーパーには日本製品があふれており、大量破壊兵器を製造するための物資の流入も止まっていない。トランプが米朝会談の意義を強調し、北朝鮮との交渉を性急に進める可能性がある中で、日本や韓国には北朝鮮の非核化の段階に応じた丁寧かつ建設的な制裁解除を要求する役割が求められると論じた。

続いて中戸教授が「北朝鮮の論理」について論じた。昨年末からの北朝鮮の外交政策では、核開発と経済建設の並進路線が成功し、「核保有国」=国際社会における強国になったという認識の上で、今後は経済建設に重点を置くという方針が打ち出されている。米朝共同声明には、核保有国として米朝が信頼を深めながら、核軍縮交渉を段階的に進めていくという北朝鮮の認識が示されていることが論じられた。

 

両氏の話を受けて薮中教授は、並進政策が終わったという点について、経済建設を本気で進めるならば経済制裁の解除と経済協力の確保の2つが必要になるが、その場合積極的な非核化が要求される。その点、北朝鮮がどこまで本気で経済建設一本にシフトしているかは疑問が残ると述べた。

 

フロアからは、北朝鮮は本当に「閉じた国」なのか、今後の日朝関係の展望について、北朝鮮の今後のモデルはヴェトナムか、今後の朝鮮半島における日本を含めた軍事力の役割について等の質問が投げかけられた。

 

(リポート作成:客員協力研究員 山川)

(写真撮影:国際研究科院生 Radesa Guntur Budipramono