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山末 英嗣プロジェクトリーダー、柏倉 俊介チームリーダーらの研究成果が「ACS Sustainable Chemistry & Engineering」に掲載|革新的黄リン製造プロセスの開発
R-GIRO 第4期研究プログラム「資源パラドックス問題の解決に向けたマルチバリュー循環研究拠点」プロジェクトリーダーの山末 英嗣教授(理工学部機械工学科)、チームリーダー柏倉 俊介准教授(立命館グローバル・イノベーション研究機構)らの研究成果がACS Sustainable Chemistry & Engineeringに掲載されました。
本研究では、黄リン製造において従来の高温炭素還元法を革新し、シリコンスラッジを用いた低温・高純度プロセスを実証し、また1273 Kで91.4%の揮発率を達成し、約400℃の低温化と副生成物の排除に成功しました。これにより、エネルギー消費を大幅に削減し、純度の高い黄リンを選択的に生成できることが示されました。これらは、産業廃棄物の資源化によるサーキュラーエコノミーの推進、CO₂排出ゼロ化、そしてリン供給の安定化に貢献する技術であり、半導体産業や経済安全保障に直結する社会的意義を持つことが明らかになりました。
論文情報
・論文名:A Promising Silicothermic Route for Low-Temperature, Byproduct-Free Production of White Phosphorus Using Silicon Waste
・著者:Shunsuke Kashiwakura, Ami Okamoto, Shoki Kosai,
Masaru Takizawa, Eiji Yamasue(Ritsumeikan University)
・発表雑誌 : ACS Sustainable Chemistry &
Engineering
・掲載日 : 2025 年12 月11 日(木)
・D O I :
10.1021/acssuschemeng.5c07921
・U R L : https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssuschemeng.5c07921
1. 学術的新規性:従来の常識を覆す「低温・高純度」プロセス
本研究の最大の学術的価値は、黄リン製造の常識を覆し、シリコンスラッジ(廃棄物)の活用を見据えた新しい還元プロセス(Silicothermic reduction)を実証した点にあります。
- 劇的なプロセス温度の低下(エネルギー革命)
従来の炭素還元法(Carbothermic reduction)では約1773 Kという極めて高い温度が必要でしたが、本研究では1273 Kという、従来より400 K(約400℃)も低い温度で91.4%という高い揮発率を達成しました。これは熱力学的・反応工学的に極めて大きな進展であり、学術的に高いインパクトを持ちます。 -
不純物のない選択的な反応(高品質化)
従来の炭素還元では、873–1273 Kの温度域で有機リン化合物(P-C結合を持つ副生成物)が生成される問題がありました。しかし、本研究のシリコン還元法ではXAFS分析により、これらを含まない純度の高い黄リン(P4)が選択的に生成されることが確認されました。これは、化学プロセスの制御という観点からもエレガントな成果です。
2. 社会への影響:持続可能な社会実装への貢献
本研究は、実験室レベルの成功にとどまらず、半導体産業や食料安全保障といった社会的課題の解決に直結するポテンシャルを秘めています。
- 廃棄物(シリコンスラッジ)の資源化による「真のサーキュラーエコノミー」 半導体製造工程(ウエハ切断)で大量に発生し、これまで埋め立てやセメント原料としてしか使われていなかった「シリコンスラッジ」を、高付加価値な還元剤として再定義しました。産業廃棄物を価値ある資源に変える(Waste to Wealth)見事な実例です。またこれから大量に発生すると思われる使用済み太陽電池パネルに含まれるシリコンも活用可能です。
- 脱炭素化(カーボンニュートラル)への直接的寄与 還元剤として炭素(コークス)を使わないため、プロセス由来の直接的なCO2排出を原理的にゼロにできます。従来法が「黄リン1トンあたり13トンのCO2」を排出していたことを考えると、その削減効果は計り知れません。
- クリティカルマテリアル(リン)の供給安定化 半導体や医薬品、自動車産業等に不可欠でありながら、供給リスクが高い「黄リン」の製造ルートを多様化します。特に、特定の高品位リン鉱石や輸入に頼らざるを得ない国々にとって、国内の廃棄物を利用して重要資源を確保できる技術は、経済安全保障の観点からも極めて重要です。