WORDS TO ENRICH
YOUR LIFE講師からのメッセージ

希望のリーダーシップ

中島 隆博Takahiro Nakajima
東京大学東洋文化研究所 所長

西園寺塾10周年、誠におめでとうございます。塾生の皆さん、先生方そして関係者のご尽力の賜物だと思います。この間、わたしは人間が花開くことの重要性を皆さんにお伝えしてきたように思います。それは能力の開発とはまったく異なります。花開くとは、その人の生のあり方や他者との関係の仕方が変容することです。それによって、その人の周りが明るく照らし出され、他の人々が期待をもってやってくるのです。それは率先垂範型のリーダーではないかもしれませんが、周りの人々に希望の種をまくようなリーダーシップだと思います。日本の社会でもっとも必要なのは、希望を語り、希望を実現することです。西園寺塾の塾生の皆さんには、是非その負託に応えていただきたいと思います。

CURRENT
ACTIVITIES
最近の活動

今力を入れているのは「新しい啓蒙」というプロジェクトです。それは先端科学技術と人文社会科学の対話を進めるものです。「古い啓蒙」は、神の代わりに人間を中心に置き、理性を振りかざすことで、理性の外にあるとされた動植物や環境を都合よく収奪し、さらには人間の中でも理性の名のもとで差別を行い、人間からも収奪をすることに至りました。それに対して、「新しい啓蒙」は、理性を有した雄々しい人間Human Beingではなく、不完全であり身体を生きる、他者とともに人間的になりゆく過程Human Co-becomingとして人間を捉え直し、人間の内外との関係を公平なものに立て直そうというものです。その際に、技術の問題は避けて通れません。技術は人間の生のあり方を深く規定しているからです。しかし、人間は技術に翻弄され続けています。人間のあり方を豊かにする技術とは何か。それに資する概念は何か。そうしたことを考えたいと思い、「新しい啓蒙」というプロジェクトを始めました。何かの折にお力添えいただければと思います。

BOOK
RECOMMENDATIONS
是非、読んでほしい1冊

  • マルクス・ガブリエル、中島隆博

    全体主義の克服

    (集英社新書、2020年)

    この本では、GAFAに代表されるプラットフォームが、民主主義的な手続きの外部にありながらも、わたしたちの生や社会を深く規定し、いわばデジタル全体主義に向かいかねない危険について論じました。それに対抗するための概念として、Human Co-becomingや花開くというものも取り上げています。哲学の問いの一つの突端がどうなっているのかを見るのにも適しているように思います。