生物多様性保全に取り組む行政・企業・研究機関・個人が集い「協働」する未来へ
2024年2月29日(木)、立命館大学びわこ・くさつキャンパスローム記念館にて『立命館SDGsシンポジウム』を開催しました。今回のシンポジウムでは「いきものを守る~滋賀県・琵琶湖の現状と取り組み」をテーマに、生物多様性の保全、SDGs達成に向けた取り組みについて基調講演やパネルディスカッションを実施しました。イベント当日の様子をレポートします。
生物多様性保全の輪を広げる契機に
シンポジウムは山下範久(学校法人立命館 常務理事/グローバル教養学部教授)による開会挨拶からスタート。カーボンニュートラルに代表される気候変動対策への取り組みが政府から民間レベルまで広く浸透している現状を述べました。その上で、生物多様性保全の推進が世界的な潮流であること、日本においても重要な国家戦略に位置付けられていることを紹介しました。そして、滋賀県・琵琶湖という一つの地域から生物多様性の輪を広げていく機会づくりとして、今回のシンポジウムがもつ意義を語りました。
第一部の基調講演では、辻田香織氏(滋賀県琵琶湖環境部自然環境保全課長/生物多様性戦略推進室長)が登壇されました。最初に、生物多様性から人が受けている恩恵について述べられ、「生物多様性・自然資本は社会経済の基盤であり、不確実性の高い『変化の時代のポートフォリオ』と環境省では唱えています」とお話しをされました。そのうえで、データを交えて世界の状況を解説。IPBES*の地球規模評価報告書2019をもとに「世界の種の25%がICUN絶滅危惧種に指定され、推計100万種がすでに絶滅の危機に瀕している」ことなどを紹介されました。*IPBES……生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム
また、世界の平均海面の上昇をテーマに、辻田氏が訪問されたアメリカ・ノースカロライナ州でも今後の70年間で広大な湿地帯が水没することを現地の画像などを絡めてレポート。さらに滋賀県の自然環境の現状として、滋賀県で記録されている1万種を超える生物のうち1,515種に絶命の恐れがあることや、琵琶湖の漁獲量の減少、侵略的外来種の影響などについて報告されました。
COP15では、昆明・モントリオール生物多様性枠組が2022年に採択されました。そこでは、2050年ビジョンとして「自然と共生する世界」を掲げ、2030年の目標として自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動を取ることが定められています。日本においても2030年のネイチャーポジティブ(自然再興)の実現に向け、「生物多様性国家戦略2023-2030」が世界に先駆ける形で策定されました。滋賀県では「『生物多様性しが戦略2024』として、『自然・人・社会の三方よし』をめざし、保護・保全地域の拡大を中心とした計画を進めています」と、具体的な施策にも触れながら述べられました。
基調講演の終わりには、行政・企業・研究機関・個人の各主体の連携が保全活動の鍵になることを伝えたうえで、次のように聴衆に語りかけられました。「あなたが大切にしたい風景や生き物は何ですか? それがこの先も見られるように、自分は何ができるのかを考えてください。私が好きな言葉に『早く行くなら一人で行け、遠くに行くなら仲間と行け』というアフリカのことわざがあります。たくさんの人が連携し、少しでも問題解決につながるよう、ともに手を取り合って生物多様性の保全に取り組んでいきましょう」。
「楽しむ心」「ネットワーク」が生物多様性保全活動の力になる
続く第二部のパネルディスカッションは島田幸司教授(経済学部/立命館SDGs推進本部事務局長)がモデレーターを担当。基調講演の辻田氏をはじめ、パナソニック株式会社くらしアプライアンス社の中野隆弘氏、若山守教授(生命科学部・学部長)、桜井良准教授(政策科学部/RARAアソシエイトフェロー)、尾下望さん(経済学部2回生/NPO法人国際ボランティア学生協会(IVUSA))の5名にご登壇いただきました。
はじめに、中野氏、桜井准教授、尾下さんが、ご自身が取り組んでいる活動を紹介されました。
中野氏は、びわこ・くさつキャンパスから700mほど琵琶湖側にある草津工場に勤務されています。「敷地内にある人工林『共存の森』を2011年から整備を開始し、サッカーコート1.5個分ほどの広さに約840種の生き物の生息を確認しています」と語り、森の管理の苦労などについてお話しをされました。
桜井良准教授は政策科学部での多様なフィールドワークを紹介。ヒグマが高密度で生息する知床エリアにおいて、多くの住民が暮らし、観光が活発な地区にもかかわらずヒグマによる人への被害が無いことに注目し、現地の子どもたちを対象とした「ヒグマ学習」を学生と調査していることなどを述べました。
尾下さんは、80大学2,500人が所属するIVUSAによる、琵琶湖での特定外来生物「オオバナミズキンバイ」の駆除活動を報告。団体は10年間で80回の駆除を琵琶湖で行ったことを紹介し、「琵琶湖の生命を守る」活動への意欲を語りました。
後半のディスカッションでは、生物多様性保全の輪を広げる方法や個人・組織が主体的に活動するためのアイデアなどについて活発な議論が交わされました。
「生物は広いエリアを動きながら生息しています。草津工場の『共存の森』だけで種が守られるわけではもちろんありません。立命館大学をはじめ近隣の方々との協働が不可欠」と、中野氏が述べられました。桜井准教授は「研究活動は短期集中のケースが多く、『共存の森』を長期的に管理されていることは本当に素晴らしい。環境保全には長期的な視点が不可欠。活動を通して育んだネットワークを大切にしていきたい」と語りました。
尾下さんは「琵琶湖での特定外来生物の駆除を地域の方々とともに行うこともあります。喜んでくださる方の声を直接聞くことは活動のやりがい。そうした人とのつながりが生まれることにもワクワクします」とお話しをされました。辻田氏は「生物多様性保全活動は身体的に負荷のかかる作業も多々あります。義務や責任感で始めるのは素晴らしいですが、継続するには活動を楽しむ心が大事」と語り、駆除活動の喜びを語る尾下さんに共感されていました。
若山教授は「行政、企業、個人、大学と、さまざまな人が身近なところで生物多様性に関わり、それが地球全体の環境保全につながっていることを改めて実感しました」と語り、パネルディスカッションを締め括りました。
自分が好きなことと環境保全を掛け合わせる視点
第三部のサスティナブルキャンパス・アイデアコンテスト表彰式は近本智行教授(理工学部/サステイナビリティ学研究センター長)が進行を担当しました。「キャンパスの環境負荷軽減に向けた立命館らしい取り組み」をテーマにしたコンテストに、今回は21件の応募があり、立命館宇治高校3年の松井陽菜さんたちのグループによる「R-Books」が最優秀賞を受賞しました。
R-Booksは、学校の図書館で廃棄される本を一般に販売する模擬会社を立ち上げ、リサイクルによる環境保全と金融教育を組み合わせた仕組みです。R-Booksの代表取締役を務めた松井さんは「私は環境問題よりも経営に関心がありました。『環境保全活動』というと堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、私たちが環境に経営をかけあわせたように、自分が好きなことの視点から環境保全に取り組むと景色が変わるかもしれません」と語りました。
立命館は社会課題解決に貢献する存在であり続ける
最後に仲谷善雄学長が、本日のご登壇者や参加者の方々への感謝を述べ、「立命館学園は2030年のカーボンニュートラル・キャンパス実現を宣言しました。実現に向けた取り組みを一層進展させるとともに、このシンポジウムを契機に、生物多様性保全の取り組みも本格化させてまいります。立命館は、高い研究力で社会課題の解決に貢献する次世代研究大学・次世代探求学園をめざします。目標の実現にはさまざまな人とのパートナーシップが不可欠です。ともに連携し、課題解決に取り組みましょう」とメッセージを送りました。