未来への種まき

For sustainable growth

銭湯から守る、地域の持続可能性

立命館大学
早野 令都さん
産業社会学部(写真左)
江口 遼さん
産業社会学部(写真右)

危機に立つ銭湯と自分たちにできること

  ゴール#11「住み続けられるまちづくりを」

 衣笠キャンパスのある京都市は全国的に見ても銭湯がとても多い地域です。しかし、1960年代に市内に500軒ほどあった銭湯は現在では、約100軒と最盛期と比較すると5分の1まで減少しています。減少の理由は主に3つあります。一つは、家に風呂(内風呂)が普及し人々のライフスタイルが変化し客足が遠のいたこと。2つ目はお湯を沸かすための燃料価格の高騰や、施設・設備の老朽化やそれに対応する修繕費・改修費が莫大なこと。そして、3つ目は経営者の高齢化です。銭湯は開店準備から営業中の接客、営業終了後の風呂掃除まで長時間の労働が早朝・深夜にかけて必要であり、高齢化が進む銭湯の経営者にとって体力面で営業継続が難しく、廃業を余儀なくされるケースが増えています。

 私たち立命館銭湯サークル「湯立(ゆりつ)」では、京都市内の銭湯で深夜に風呂掃除のボランティアを行っています。銭湯サークルと聞くと、銭湯好きなメンバーが集って、銭湯巡りをすることを主な活動と思われるかもしれません。もちろん、私たちは銭湯が大好きです。大好きな銭湯にいつまでも通い続けたいと思っています。しかし、銭湯の置かれた現状はとても厳しい。そのために、一人のお客さんとしてではなく、自分たちの力を発揮できる形で銭湯に携わることを選びました。

地域の営みと銭湯

 私たちは大学進学を機に地元を離れ、京都で下宿生活を始めてから銭湯に出会いました。それぞれの地元である岐阜県・大垣市(早野さん・写真左)と和歌山市(江口さん・写真右)には銭湯が数えるほどしかなく、足を運んだこともなかったので、地域の生活に溶け込み、人と人が交流し、地域コミュニティの形成に貢献する京都の銭湯文化がとても新鮮でした。大きな湯船やサウナでリラックスできるのは銭湯ならではの楽しみですが、地元の方に「学生さん?」と話しかけられたり、新たな出会いの場であることも醍醐味の一つです。さらにお風呂に入って一日の疲れを癒すことは心身の健康にもつながります。SDGsだと「ゴール#3 すべての人に健康と福祉を」にもあてはまりますね。このように、銭湯が地域に果たす役割はとても大きいと思います。


 その中で、ある日インターネットで見つけた、とある銭湯に行きました。インターネットの情報ではその銭湯は営業しているはずだったのですが、現地に行くと煙突だけを残して何もない更地になっていました。このできごとがとてもショックでした。実際に経営者の話を聞くと、ここ数年だけでもかなりの数の市内の銭湯が閉店している。要因は様々だが、高齢化による風呂掃除の負担も廃業の大きな要因になっているという話しを聞きました。このショッキングなできごとが活動を始めるきっかけです。そこから早野が会長、江口が副会長としてメンバーを募ってサークルを立ち上げ、市内の銭湯に「風呂掃除をさせてほしい」と直談判を行いました。はじめは「すぐにやめてしまうのでは?」「学生のお遊びでは?」と懐疑的な方もいらっしゃいましたが、継続した活動実績を作ることで、今では3軒の銭湯を毎週掃除しています。経営者の方々から感謝の言葉をいただけることや、お客さんから「最近お風呂がきれいになった」という声を聞けることが励みになっています。「自分たちがいなければ、銭湯はなくなってしまう」という気持ちで、今後は活動先の銭湯の数を増やしていくつもりです。

みんなで銭湯を守りたい

【sdgs/interview】20240730-03 yurits


 風呂掃除はとても大変です。私たちはもう慣れましたが、初めて経験するメンバーたちは滝のように汗をかき、掃除が終わると、あまりの過酷さに口数が少なくなってしまうほどです(笑)。それほどの大変な仕事を銭湯の経営者たちは日夜こなしていること、それも60-70代の方々が行っている現状を知ってほしいとも思います。銭湯が好きな方にとっては、銭湯は日常の気軽に行ける場所、当たり前の存在かもしれませんが、もしかすると近い将来には当たり前の存在ではなくなってしまうかもしれません。


 これからの目標はサークルの仲間を増やし、後輩たちが10年、20年先も活動を続けてくれること。そして、地域の方々にとっても大切な銭湯をこれ以上なくさないことです。そのためにも「銭湯が好き」なだけではなく、「銭湯を自分たちの手で守る」というビジョンの元、ぶれずに活動したいです。目標の実現には私たちだけではなく、多くの方との連携も必要だと思います。例えば、他大学にも同様のサークルが立ち上がっているので、彼らとも連携し、京都ならではの学生のパワーを活かしたいですね。他にも、企業にスポンサーとして協力をしていただくなど、やりたいことはたくさんあります!


 一方で何より重要なのは、多くの方に銭湯に足を運んでいただくことです。どれだけ風呂掃除を完璧にしても、お客さんが来ないことには意味がありません。学生がお客さんとして銭湯に行くだけでも銭湯を守るための貢献になります。皆さんの地元や身近に銭湯があれば、是非一度、足を運んでみてください。持続可能な地域社会を目指し、一緒に銭湯を守りましょう。
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