未来への種まき

For sustainable growth

天然資源に頼らないコンクリートをつくる

立命館大学
川崎 佑磨准教授
理工学部

コンクリートは天然資源の塊

  ゴール#12「つくる責任・つかう責任

 私たちの生活を支える多くの建物や橋などの建築物やインフラはコンクリートで作られており、世界的な人口増加に伴い今後さらにコンクリートの需要は増えると予測されています。コンクリートは砂(細骨材)、砂利(粗骨材) 、水、セメントから作られていて、セメントの原材料である石灰石は日本で採掘できる数少ない鉱物資源で、その国内自給率はほぼ100%です。現在、日本国内におけるコンクリートの需要に対して、製造に必要な原材料を輸入に頼ることなく全て国内でまかなうことができます。自給率が高いため価格も安定しており、また防災・減災の場面でも活躍する優れた建設材料の一つで、私たちが日々の暮らしの中で触れることができる、ごく当たり前の存在です。しかし、先に述べた通り、コンクリートは水や砂などから構成される天然資源の塊です。資源には必ず限りがあります。はたして、この先もコンクリートを生産し、使い続けることができるのでしょうか。

 セメント材料の石灰石は、現在判明している埋蔵量を今のコンクリート生産量と同等ベースで使い続けると今後50~80年で、また未利用の推定鉱量を考えても100~150年ほどで尽きると予想されています。さらに砂や砂利は石や岩が削られて砂・砂利になるまで長い年月を必要としますし、採取しすぎると川や海の地形が変わり災害や自然環境の悪化につながる危険性があるため、採取場所や量を制限しています。コンクリートの材料であるこれらの天然資源が枯渇するかもしれない未来のことを考え、それらの代わりの材料となるもの、例えば産業副産物などをコンクリート材料に活用できないかという研究をしています。

砂を取りまく世界の状況

 日本ではコンクリート材料は全て国内産でまかなうことができるため、価格や供給も安定していますが、世界的に見ると開発途上国を中心に人口増加や経済成長に伴うコンクリート需要の増大によって原材料の砂が不足し、違法採取による過酷な労働や環境破壊が問題化しています。地球上で砂は水に次いで2番目に使われる天然資源だと言われており、その使用量は1980年代には年間約180億トンであったものが2010年代には約500億トンにもなり、30年間で約3倍近くに増えており、その市場規模は産業用ロボットと同等だと言われています。砂は労働や人権、経済格差、環境問題などSDGs全てのゴールに間接的・直接的に関連する価値の高い資源ですが、世界の多くの地域で管理されないまま見過ごされてきており、砂の枯渇は世界規模で重要な課題であるとUNEPが提唱しています*。


*砂と持続可能性:危機を回避するための10の戦略的推奨事項(UNEP-国連環境計画)
https://www.unep.org/resources/report/sand-and-sustainability-10-strategic-recommendations-avert-crisis


コンクリートの概念を変えるものをつくる

 コンクリートの原料の一つであるセメントの製造方法の特許が取得されたのは1824年で、その後コンクリートが一般に普及するのは20世紀初頭と、その歴史は100年にも満たないくらいですが、今や私たちの生活に欠かせないものになりました。冒頭に述べたように日本においても、いつまで国内で砂や石灰石が採取できるのかという問題があります。砂やセメントに代わるコンクリート材料の研究は、実際に天然資源が尽きたときに考え始めていたのでは遅く、今から準備しておくことが重要だと考え、従来使われなかった材料を使った新しいコンクリート作る研究を行っています。コンクリートは色々なものを混ぜて作ることができるのですが、何を混ぜるかによってその材料の特徴が現れます。例えば、いま研究対象としているものだと、製鉄時の副産物(電気炉酸化スラグ)を混ぜると重量のあるコンクリートになり、コーヒーショップ等で日々廃棄される抽出後のコーヒーかすを材料にすると、コーヒー特有の茶色の色味が現れるなど、その特徴はさまざまです。ただし、これらの新しいコンクリートは通常使用に耐えうる高強度、高耐久の担保には至っておらず、今後の研究課題です。コンクリートは色々なものを混ぜて作ることができると述べましたが、使わないもの・いらないものをただ混ぜ込むだけではない、新たな価値や特徴を持ったコンクリートを生み出すことが大切だと考えており、この研究を進める上でのポリシーにしています。

 コンクリート材料の不足・枯渇は日本にとっては将来的な課題ですが、目の前の課題として困難に直面している国が多くあります。そういった国々とも共同研究を進めることや成果を還元することで、コンクリートの持続可能性や社会づくりに貢献していきたいです。そして、コンクリートの概念を変えるようなものを立命館大学発で生み出したいと思っています。

【sdgs/interview】20241126-02 【sdgs/interview】20241126-03 
 左)カキなどの貝殻や木材、茶葉、コーヒーかすから試作したコンクリート
(右)実験用に試作中のコンクリート
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