未来への種まき

For sustainable growth

地球温暖化と高齢化の解決を目指して

立命館大学
吉良 成美さん
理工学研究科

地球温暖化が招く不均衡

  ゴール#10「人や国の不平等をなくそう」

 私は温室効果ガス削減に関する研究をしています。地球温暖化やそれに伴って発生する気候変動の影響は、どこで温室効果ガスが排出されたかに関わらず世界中の誰もがその影響を受けますが、多くの経済的利益を享受する先進国よりも開発途上国をはじめとする貧困層への負の影響が大きいという不均衡が生じています。

 私が地球温暖化や気候変動に興味を持ったのは、学部生時代に災害ボランティアとして2018年7月の西日本豪雨の被災地域で復興支援に携わったことがきっかけでした。この豪雨災害は、気象庁気象研究所などの研究*によって、地球温暖化が豪雨の発生確率を高めた可能性があると指摘されています。被災者はいつもの生活をしていただけなのに、なぜ被害に遭わなければならなかったのだろうかということに思いが巡り、地球温暖化を食い止めたい、不必要に悲しむ人を減らしたいという思いが募りました。大学卒業後は就職することを考えていましたが、研究者として地球温暖化の解決に向けた研究に取り組むことが本当に自分のやりたいことだと気づき、今の道を歩むことを決意しました。

* Yukiko Imada et al. ,2020 , Advanced risk-based event attribution for heavy regional rainfall events. npj Climate and Atmospheric Science,3,3.

「人の健康は地球の健康につながる」

 所属する研究室では、原料調達から廃棄までの一連の流れ(=ライフサイクル)全体で排出される温室効果ガスを定量化し、「どこに削減可能性があるのか」ということに着目しながら、削減に向け分析する研究を主に行っています。


 温暖化の解決は喫緊の課題ですが、その他の社会課題も忘れてはいけません。環境には良い解決策でも、その他の社会課題に悪影響を及ぼうという可能性もあります。そこで、私は「地球温暖化と高齢化の解決に向けた両立」をテーマに掲げています。高齢化が進む日本において私たちの生活と介護は切り離せない問題です。そこに、温暖化問題を組み合わせて介護需要における温室効果ガスを減らすための研究を行っています。

 研究では、経済波及効果を分析する手法としてよく知られる「産業連関分析」を、環境分野に拡張し用います。日本国内で使用された化石燃料から温室効果ガス排出量を計算し、それを介護サービスや、介護を必要とする世帯の家計消費にあてはめ、介護需要によってどの程度環境負荷が引き起こされているのかを分析します。定量化することで、どの段階でどの程度の温室効果ガスを削減できる余地があるのか、それを元にどうやって削減するのかなどの政策が立てやすくなります。まだ分析途中ではありますが、要介護者と介護が必要ない人を比較すると、要介護者は一人あたりの温室効果ガス排出量が多いという傾向が見られます。今後、さらに高齢化が進み、要介護者が増えることで、今以上に温室効果ガス排出が増加し、環境負荷が増大する可能性があります。

 しかし、介護が必要な方々への支援をやめるということはできません。ここで重要になるのは、将来の疾病や介護リスクを予防することです。要介護者数そのものを抑制することが、温室効果ガスを減らすことにつながると考えられます。これは、「人の健康は地球の健康につながる」という、「プラネタリーヘルス*」という概念にも通じます。

*地球の健康と人間の健康が相互に関係しているという概念で、地球環境と人間の健康を支えるための解決策を探求する取り組み。2015年に医学誌『ランセット』によって提唱され、近年注目を集めている。


「環境によいこと」のハードルを下げたい

 この研究を始めてから、日常生活でも物事の見えない部分・背景について考えようになりました。例えばスーパーに並ぶ野菜だと、同じ都道府県内で生産されたものなのか、あるいは別で生産されたものなのかを考えてみると、同じ地域で生産されたものの方が、輸送コストや輸送にかかる環境負荷(輸送から発生する温室効果ガス)が少ないといわれます。これは「地産地消」としてよく耳にすると思いますが、まさに物事の“見えない部分”の一つです。普段食べているもの、着ている衣服など、一つの製品(モノ)を生み出す背景には、地球上のどこかで資源やエネルギーが消費され、自然環境や人間社会に影響を与えています。

 環境の研究に取り組む中で、個人レベルで取り組むことのできる環境負荷への取り組みはまだまだハードルが高いと感じています。環境にあまりよくないとわかっていても、暑いときはエアコンを使いますし、車にも乗りますよね。「環境に良いこと」が我慢ではなく、誰もが気軽に取り組めることにしたいですね。環境負荷への取り組みのハードルを下げるという点において研究を通して現段階で明らかになったことは、先にも述べましたが「介護を必要としない人ほど環境負荷が小さい」ということ、つまり私たち一人ひとりが「健康でいること」です。例えば、食生活に気をつける、運動する、人と楽しくおしゃべりをする(人とコミュニケーションを取ることは認知症予防に効果があると言われています)などのようなことは、皆さんの日常生活に比較的取り入れていただきやすいことではないでしょうか?

 私が 何よりも皆さんにお伝えしたいことは、地球温暖化や気候変動を考える一歩目として、是非とも皆さんご自身の健康について考えてほしいということ。一人ひとりがいつまでも健康でいることが、地球の健康にも繋がるということです。



  1. Home
  2. 未来への種まき
  3. 地球温暖化と高齢化の解決を目指して