未来への種まき

For sustainable growth

多面的な環境評価を通じ、よりよい社会に

立命館大学
中野 勝行准教授
政策科学部

製品ライフサイクルを通じた環境負荷を研究

  #13「気候変動に具体的な対策を」

 「環境にやさしい製品とは何か?」と質問された時に皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。その製品だけ見ても、本当の意味で環境負荷が軽減されているのかどうかは分かりません。製品の原料採取から製品製造、使用、廃棄・リサイクルに至るまでの一生(ライフサイクル)を通じて、環境負荷を評価する必要があります。

 私は、製品を作って使って捨てるという全ライフサイクルを通じて環境への影響を評価する手法(LCA)を基軸とした「環境経営」に関する研究を進めています。例えば、電気自動車も、走行に要する電力の発電やバッテリーの製造にはCO₂の排出を伴います。ペットボトルのリサイクルには、洗浄のための水資源や破砕にかかわるエネルギーも必要です。こうした製品を作ってから捨てるまでの環境負荷を定量的に評価することで、製品やサービスの環境性能の把握や、改善に役立つ指針の提供が可能になります。

 極端な天候現象や海面上昇をはじめ、生態系や農業生産の変化など、気候変動による影響が顕在化しつつある現代、あらゆる事業者がカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めています。製品そのものの環境性が無いと、社会や消費者から評価されず、収益を生み出せない世の中になってきています。従って、環境負荷を減らしながら収益を満たすという、ある意味矛盾したテーマを乗り越えなければ企業も成長できない時代です。そういった、持続可能な製品の開発や消費の促進を企業活動の柱とする「環境経営」の進展を通じ、研究者としてLCAの理論と実践の両面から脱炭素社界の実現に寄与していくことが当面の目標です。これまで、企業や行政、研究機関と連携し、自動車をはじめ、家電や木材製品など、様々な製品・技術・社会システムを評価対象として研究してきました。研究成果を基にLCAの指標づくりやデータベース構築、脱炭素に向けた企業へのコンサルティングなど、社会への還元も進めています。


※Life Cycle Assessment(ライフサイクルアセスメント)
製品・サービスのライフサイクル全体(原料採取―製品生産―流通・消費―廃棄・リサイクル)又はその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法

研究と社会を結び付け、世の中のために

 私が高等専門学校3年生の時、阪神淡路大震災が起きました。直後の被災地に住み込み、復興ボランティアとして活動しました。経験を積むなかで、休日を利用してボランティアに参加する社会人有志の班分けや作業の割り当てを行うリーダーを経験しました。災害現場の限られた資源や人員、時間の中で、より効率的に活動するための検討と実践が、自身を成長させていることに気づきました。折りしも環境クライシスが声高に報道されていた時代です。COP3京都会議が開催された1997年に大学に進学し、エコロジー工学を専攻しました。工学はもちろん化学や土木、生態学、環境科学などの知識を統合し、環境問題の解決を目指そうという新たな学問領域です。社会の役に立ちたいという想いから選択しました。温室効果ガス排出量の評価に不可欠な手法として研究を進めているLCAの原点がここにあります。

今後は教育や貧困への影響も評価し、SDGsを幅広く推進したい

 立命館大学にはカーボンニュートラルをはじめ、SDGsに関わる取り組みを行う多様な研究者が在籍しており、私も理工学部や経営学部の研究者と一緒に研究を進めています。カーボンニュートラルやSDGsの課題解決には多様な領域の研究者間の協力が不可欠です。立命館学園は2019年に「立命館SDGs推進本部」を立ち上げ、SDGsに関わる学生・生徒・教職員の取り組みを支援しています。そういった支援を追い風に、今後はSDGsに関わる取り組みの輪を広げていければと考えています。

 また、LCAの研究展開としては、これまでLCAの概念に無かった教育や貧困という社会的側面についても評価の対象として組み込んでいきたいと考えています。例えば鉄1kgをつくるのにどれだけ労働災害が生じているのかなどの社会的な情報も入れて検討することをはじめています。一見、製品の影に隠れた見えないところを定量化・顕在化することで、SDGsの目標達成に向けての私たち一人ひとりの行動につないでいければと思っています。

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