(4-2)アンケート分析 クロス集計

 アンケートより、その回答をデータファイル化し、統計ソフトによってふたつないし三つの項目の関連を中心に分析を試みた。中でも、自由にチェックしてもらったスキルの項目について各スキルがどんな傾向を持って語られるかを検討することに重点を置いた。それをそれぞれの項目毎にまとめていく。スキルと各要素の関係を探るのがこの章の目的である。 なお、集計のプロセスとして分析をかけた出力データを資料編に掲載する。
  1. 仕事をする人数とスキルに関する考察
  2. 電子メールを使っているか否かとスキルに関する考察
  3. 性別とスキルに関する考察
  4. キャリアとスキルに関する考察
  5. 職種とスキルに関する考察
  6. その他、クロス集計からの考察

  1. 仕事をする人数とスキルに関する考察

    人数を、5人まで、5〜10人、11〜20人、それ以上、と括った場合に相関がありそうと出たスキル
    C-4プロジェクトメンバーにモチベーションを与える
    C-6組織の目標を深めていく
    C-9仕事に優先順位をつける
    D-6いくつかの問題に同時に対処する
    H-4スケジュールを作成し遵守する
    I-4対象あるいは出来事を誤りなく記述する
    期待値との差よりパターンが2つ〜3つ確認できそうである。
    即ち、

     幾つかの問題に同時に対処する、という機会は一緒に仕事をする人数が増えれば増えるほど伴って増えそうだと感じるが、多くの人と仕事をする人は自分の分担で専門性を発揮することが多いということか。逆に少人数で仕事をすると異種の事象に対応せねばならないことが多い、と考えられるのかもしれない。
     それに対し、「組織の目標を深める」「スケジュールの遵守」「対象、出来事を誤りなく記述する」といったことがらは顔の見える程度のグループでもっともよく気にされていそうである。5人以下の少人数では融通が利きそうなこと、という判断も含まれるのだろうか。
     「プロジェクトメンバーにモチベーションを与える」「仕事に優先順位をつける」といったあたりは多人数で仕事をする人が特に重視したというより、むしろ、少人数での仕事の上であまり気にされなかったという結果だと考える。

    人数を、10人まで、11〜20人、それ以上と括ったら
    D-6いくつかの問題に同時に対処する
    B-1効果的な意思決定のためのステップの理解
    (ちなみに、5人、10人の括り方のときには、PearsonのSignificanceは、.10128)

     B-1(効果的な意思決定のためのステップの理解)のスキルは15人がチェックした項目。そのうち13人までが10人以下の人と一緒に仕事をしている、と答えている。10〜20人といったあたりで重視していると答えた人はおらず、意思決定する、というシーンは身近なグループか、もっと大きな単位での判断かというふたつに捉えられているのでは無かろうか。

     二種類の人数の括り方からアプローチしてみたが、上の例からもわかるようにごく少数と10人程度というのは明らかに仕事のプロセスの中で違いがありそうである。また、この分析において、母集団にも同じことが言えるか否かの有意水準の点ではやや、厳格さを欠いている。しかしながら、すくなくとも今回の調査の標本においては以上のことは当てはまることであり、また全体のサンプル数そのものが小さいために母集団への推測を期待することよりも、次回調査へのステップとして捉えたい、という考えから敢えて多様な推測の余地を残すものである。このことは本章を通じての前提としているので、その点においては留意していただきたい。

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  2. 電子メールを使っているか否かとスキルに関する考察

     ここでは、「貴方は仕事で電子メールやグループウェアを使っていますか」という質問に対する回答を用いてそれと関わりのありそうなスキルについていくつか抽出し考察する。
    まず、使っている人の方が気にする傾向のあるスキルには以下のようなものがある。

    A-3書類を完結且つ論理的に準備する
    H-3時間を効果的に管理する
    I-2アイデアをイメージ豊かに表現するための様々なメディアを用いる
    J-1グループを軌道に乗せて目標達成へ動かしていく
     A-3、H-3、I-2 といったところは、電子メールやグループウェアといったものに限らず、広い意味での組織の情報化、情報技術の活用への高い関心を示しているのではないだろうか。とくに、I-2(アイデアをイメージ豊かに表現するための様々なメディアを用いる)に関しては全体でチェックを入れた人が17人いる中でひとりを除いて16人までが仕事に質問にあるような情報機器を使っている。これからますます組織の情報化が進むとしたら、間違いなく焦点となるスキルがこのようなメディア選択に関するスキルであろう。J-1に関しては、母集団にまでその傾向があるかどうかに言及するにはやや弱い傾向になっているが、本調査に限っていえば、グループ内でのリーダーシップをとることと情報技術とをすり合わせて考えやすいのではなかろうか。

    次に、使ってない人の方が気にする傾向のあるスキルである。

    F-3いつも専門性を高める機会をうかがっている
    I-3ひとの感情を損ねないで表現する
     まず、興味深いのは双方ともに性別とも関連がありそうなことである。しかしながら、当然のように性別と電子メールの使用とが独立で無いというには至らなかった。(peasonのSignificanceは、0.50633)。
     それはともかくとして、質問にあるような情報機器を未使用の人たちが上のような傾向を示すことについてであるが、I-3(ひとの感情を損ねないで表現する)のスキルについてはおそらく、メディア選択の幅が限られている分、言葉や態度に気を使うという結果に繋がっているのだろうと想像する。F-3(いつも専門性を高める機会をうかがっている)に関してはこれも母集団への言及にはおよばないながら、組織の情報化への素地があると受けとめることはできないだろうか。

     このように比較してみると、情報技術の浸透に伴って様々なシーンでのコミュニケーションに関するスキルについては大幅に関心を集めることが予想できる。このことは次回からの調査に向けてさらに検討する価値があることを示していよう。

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  3. 性別とスキルに関する考察

     まず、男性女性比較の上で、女性に選ばれる傾向の強かったスキルには以下のものがあった。

    A-1公的或いは自発的なスピーチにおいてアイディアを効果的に組み立てて表現する
    A-6積極的なフィードバックにも消極的なそれにも適切に対処する
    F-3いつも専門性を高める機会をうかがっている
    F-1プレッシャーの下でも効果的に働く
    H-5優先順位を設定する
    I-3ひとの感情を損ねないで表現する
    N-4失敗に直面しても完全に望みが無くなるまで固執する
    N-7個人の長所と短所を理解する
    N-8自分や他の人の人生経験から学び分析する
    N-9動機づけになるような成長目標を開発する
     とりわけ、F-1(プレッシャーの下でも効果的に働く)には女性のチェック無しは僅かに2人であり、さらにH-5(優先順位を設定する)に至っては女性でチェックしなかった人はただひとり、という女性人気の高さであった。ただ、これらのスキルはともに男女を越えて普遍的に気にされているものであり、あえて注目し直す必要は無いかもしれない。
     その他の注目事項として、A-6(積極的なフィードバックにも消極的なそれにも適切に対処する)とN-8(自分や他の人の人生経験から学び分析する)のスキルは母集団に於いてもその傾向があると思われる(それぞれのSignificanceは、A-6: .00744, N-8: .00098 であった)。

    一方、男性に選ばれる傾向の強かったスキルは
    K-3行動または行為の価値や適切さを評価する合理的な基準を特定する
    O-1実験、計画、或いは問題を体系的に定義するためのモデルをデザインする
    というのがあげられるが、驚いたことに双方ともに男性のみが選んだ12票だけであった。原因をスキルの文言に求められなくもなさそうだが、もう少し違った角度からの検討も必要であると思われる。

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  4. キャリアとスキルに関する考察

     ここではキャリアもしくはキャリアアップの捉え方と関連のありそうなスキルを抽出しながら考察していきたい。キャリア(アップ)に関するアンケートでの質問とその選択肢は次のものであった。

    貴方にとっての『キャリア(アップ)』とは何でしょうか。以下の内、近いものを選んで下さい
    【1昇進・出世 2資格取得 3社会貢献 4よりよく生きる 5転職 6仕事の成果・業績向上 7より多い収入獲得 8その他】

    あらかじめ用意した回答の選択肢そのままで関連がありそうだったスキルは、

    B-10仲間や部課をうまく指揮したり啓蒙する
    F-5適切なときに仕事を開始する
    K-1意志決定や問題解決に際して、決定的な論点をすばやく正確に特定する
    N-8自分や他の人の人生経験から学び分析する
    といったものであった。その中で、B-10(仲間や部課をうまく指揮したり啓蒙する)や、N-8(自分や他の人の人生経験から学び分析する)といったスキルは主に質問に対する答として、「4 よりよくいきる」という選択肢を選んだ人が気にする項目であった。それに対して、F-5(適切なときに仕事を開始する)や、K-1(意志決定や問題解決に際して、決定的な論点をすばやく正確に特定する)といったスキルは「6 仕事の成果・業績向上」を回答として選んだ人が気にする傾向がでている。

     そこで、この大きくふたつのタイプに着目し、選択肢の「1昇進・出世」「2資格取得」「5転職」「6仕事の成果・業績向上」「7より多い収入獲得」を仕事でのキャリアアップと捉えてひと括りにし、また「3社会貢献」「4よりよく生きる」を一般社会生活でのキャリアアップとして捉えて分類してみた。
    それを同じ分析にかけてみると、あらたに

    B-3手堅い決定を実行する
    という項目にも一般社会生活でのキャリアアップ志向型の傾向が浮かんできた。
     また、類型化する前と比べて殆どの項目がより母集団の傾向を反映したものになった。このことは上のような類型化がおそらくは的を得たものである有力な根拠となりうると思う。つまりキャリア、キャリアアップというものには大きく分けて2つの類型を見ることができ、それとある種のスキルにいくらかの関連を見いだせるということが言えそうなのである。ただ、類型とスキルとの関連はありそうだが、その方向についてはまだ分析し得ていない。そのようなスキルを選ぶ人にはどちらかの類型が当てはまる、ということなのか、片方の類型のひとは決まって何らかのスキルを気にするのか、どちらが独立変数でどちらが従属変数であるかはまだ全くの推測にすぎない。このあたりに着目して次回調査以後分析していくとよりはっきりと現象が見えてくると思われる。 

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  5. 職種とスキルに関する考察

     結果からいうと今回の調査において職種とスキルとの間に目立った関連性は見いだせなかった。それは今回の被調査者の多くが営業職に偏っており、また全般にサンプル数が不足していたことにもしかすると起因しているのかもしれない。または、本当に職種とあのようなスキルとの間にはなんら関連性が無いのかもしれない。いずれにせよ、私たちとしてはこの結果はいささか意外な気がしており、もう少し調査してみて確認していきたいと考えている。

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  6. その他、クロス集計からの考察

     スキルとは直接関連しない項目であるが以下の項目同士もなんらかの関連がありそうなものである。

     当初、満足と不満の要因は少なからず関連がありそうだと推測していたのだが、その仮定はどうやら正しくなさそうである。これはおそらく、仕事への行き詰まりや不安の原因が、社会人になってすぐの間は、自分の内にあるのだと想像できる。もしそうだとすれば、不満要因は社会人経験を積むのに従って変化を見せるのではないだろうか。こう考えると、人生の転機として新たなキャリアアップ支援を提示するのなら、その時期というのもひとつのおおきな問題点となりそうだ。一方で、満足要因の方は比較的不変なのではないかという感触を得た。とするならば、日常的なキャリアの積み重ねを支援するなら、時期よりもむしろ対象の絞り方に着目するのが大事なことだと結論づけられよう。


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     以上、アンケートの結果からのクロス集計を中心とした分析であるが、質問項目、一覧スキルの分類、その文言などで改善すべきところもいくつか見えてきている。また、小さいサンプル数ということでの障壁もあり、いろいろと検討の余地を残している。とはいうものの、次回の調査にむけて多くのきっかけを得た。さらにこれから数回継続して調査ができれば、追跡調査ならではの推移からもまた新たな視点が生まれて来るだろう。


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