質問文: 貴方が現在仕事をする上で特に気にするというもの(A〜N各ブロックからいくつでも)の番号に○をして下さいアンケートで好きなだけチェックしてもらったスキルについて、2種類の集計をだした。ひとつは全スキルを得票順に並べたもので、CAに代表される層がどういったことを重要だと感じているかが素直に投影されていると期待される。スキルの文章そのものに注目していただきたい。 もうひとつは回答に影響をあたえないように、質問時には隠しておいたスキルの系統ごとに並べたものである。そうすることでより細かく、スキルに対する意識をとらえることができると考えた。スキルの性質がテーマである。
ふたつのランキング自体は資料編に別途まとめておくので、おなじく資料編に収録した「アンケート用紙」と一緒に参考にされたい。
半分以上の人がチェックした必須スキル
キーワード:
優先順位 時間の管理 プレッシャー耐性 信頼 目標設定 責任 問題の理解
様々なところで日常的に指摘されるような文章が並んでいる。 基本的に個人的な意識の持ち方やトレーニングによって磨かれるスキルで、新人研修プログラムなどでも普遍的にマスターするように要求されているのではないだろうか。この調査でも、社会人の基本、ビジネスマン必須のスキルとして太鼓判がおされたと言える。
1/3以上の人がチェックした要チェックスキル
キーワード:
目標設定 情報の扱い 課題/ニーズ/リソースの把握 動機付け 適性の理解と活用 自己管理 マルチタスク
このあたりのスキル文は非常に具体的な内容のものがおおく、いわゆるビジネス本でしつこくアドバイスされる類のスキルでもある。そして必須スキルとのちがいは、明らかに他の人とのインタラクションが視野に入っている点である。
1/6以上の人がチェックしたスキル
キーワード:
動機付け 成長 機会 効率の追及 評価 予測 自律性 意思決定 チームの活動を促進すること 本質の把握 チャレンジ 表現
自分やチームのちからをさらに高くする、能力を引き出すようなスキル、仕事上の困難をのりこえるために役立つようなポイントが並んでいる。要チェックスキルでみられたようなわかりやすさが幾分うすく感じられるが、前向きで積極的な文言がおおいのが印象的である。
はっきり言って不人気だったスキル
どうにも不人気なもの。その理由をインタビュー調査の感触とあわせて考えると、
*本当に重要でない
3 A-5 仕事のために大学の資源を有効に利用する
6 F-4 ストレス管理のための健康活動にいつも参加している
*文章が抽象的過ぎて意味不明
7 M-5 危急の際の人の価値を評価する
6 G-2 事実とコンセプトと原理を総合する
6 M-4 誰かに固有の価値を認識する
8 B-8 一般的でない決定についてはメンバーに説明する
*当たり前過ぎる
8 D-7 批判的思考に必要なステップの理解
4 C-5 ブレスト活動を促進する
*自分はその段階でないor役割でない
9 L-3 課題達成のための責任をゆだねる
8 N-2 将来性のある雇用者に向けて自分自身を売り込む
7 D-4 グループのメンバーに可能な解決案を識別したり評価したりさせる
3 C-3 仕事をうまくこなしたメンバーに報奨を与える
6 C-1 仕事の進行状況をメンバーに評価させる
などがあげられそうだ。とくに管理者的な表現がさけられた可能性も考えられるが 不人気の理由をこの調査のデータから特定することは困難である。
アンケートの全回答からスキルひとつひとつの得票を計算し、20ポイント以上獲得したスキルをピックアップした。
A 口頭及び記述によるコミュニケーションのスキル
得票 スキル スキル文
26 A-1 公的或いは自発的なスピーチにおいてアイディアを効果的に組み立てて表現する
28 A-3 書類を完結且つ論理的に準備する
26 A-4 注意深く聞き、伝言やメモに対応する
「大学の資源活用」以外はすべて15程度はチェックされており、ばらつきがすくないのであるが、20票以上集めたスキルはいかに思うところを整理して伝えられるかあるいは整理して聞くことができるかという一方通行のものが多いのではないだろうか。議論とか双方向のコミュニケーションをスキルとして捉えられていない可能性がある。
B 意思決定、監督、マネジメント、そしてリーダーシップのスキル
得票 スキル スキル文
36 B-4 決定について責任を持つ
26 B-7 決定に関する柔軟性を維持する
これも全体としてはコンスタントに得票しているものの、ふたつだけが他の倍得票している。しかしこのふたつは、文言的にはあくまで個人のスキルとして読めるものあるので、解答者はマネジャー的な価値よりも、自分の中で完結できることへの関心をもっていると考えられる。
C プランニングと組織化のスキル
得票 スキル スキル文
36 C-8 達成すべき仕事を明確にする
39 C-9 仕事に優先順位をつける
グループにスキルのところであるがチェックが入っているのはあくまでも個人のスキルとして読めるものであり、そして他の項目の評価がひくい。われわれのプロジェクト活動での経験や関心ではもっとも大切だとおもわれるのであるが、「与える」という表現が敬遠された可能性がある。なかみを考えれば経験が浅くても(新人でも/学生でも)必要ではないか?
D 批判的思考、問題解決、コンフリクト解消のスキル
得票 スキル スキル文
34 D-1 問題が生じる前にそれを予測する
30 D-2 問題を明確にしてその潜在的/顕在的原因を特定する
23 D-3 可能性のある代替的解決案を特定して最善のものを選択する
28 D-6 いくつかの問題に同時に対処する
問題解決のプロセス全体にたいして配慮することよりも 自己完結的なスキルへの関心が高い。B、C、D、あたりのランキングとインタビューの感触をあわせて考えると、どうも今は自分の仕事を満足にこなせるようになる時期、というのが定着しすぎてるような印象である。
E チームワークとチーム構築のスキル
得票 スキル スキル文
23 E-1 チームのメンバーが共通目標のために働くように動機づけする
21 E-2 メンバーの長所と短所を理解して長所をチーム構築に利用する
37 E-4 目標達成と完遂のために相互に支えあう
「コンスタントに得票」である。「動機付け」「長所を生かす」「支えあう」など一般的で、心構えのような文章にたいしては関心が高いようであるが、それだけで十分か?
F 個人的で専門的なマネジメントのスキル
得票 スキル スキル文
37 F-1 プレッシャーの下でも効果的に働く
28 F-2 ストレスと時間を効果的に管理する
G 移転可能なスキル
得票 スキル スキル文
31 G-1 対象物や情報を編集し分類整理する
24 G-3 適切な基準に基づいて情報を評価する
20 G-4 特定の問題や業務のために創造的に情報を適応する
スキル系統名とG-2の表現は意味不明で再考の余地がある。とはいうものの情報の扱いは非常に重要視されていることがわかった。
H デザインとプランニングのスキル
得票 スキル スキル文
31 H-1 現実的な目標を設定する
39 H-3 時間を効果的に管理する
22 H-4 スケジュールを作成し遵守する
42 H-5 優先順位を設定する
非常に票があつまっている。目の前の現実にうまく対処するためには、目標/スケジュール管理は基本中の基本であるわけだ。それに対して「H-2 将来の予測」とのギャップが対照的である。
I コミュニケーションのスキル
得票 スキル スキル文
29 I-1 メッセージの内容を客観的に聞いてわかりやすく言い換える
35 I-3 ひとの感情を損ねないで表現する
インタビューの感触でもそうだったが、相手(個別の人間 ひとりひとり ex.誰誰さん)にあわせてものを言うということが大事かつ難しいらしいようで票もそれを裏づけている。就職活動で採用の人がいう「コミュニケーション能力」とはこの辺のことだろう。
全体的に得票しており、コミュニケーションというものへの関心は高い。社会人のコミュニケーションスキルには、もう少し注目したいものである。礼儀に関する要素なのか、誤解を招かないためのものか、相互依存性を高めるものか、潤滑油的人材への望みか、、、etc.
J 人間関係と対人関係のスキル
得票 スキル スキル文
23 J-2 グループの共同作業を課題や責任を分担して維持、支援する
21 J-3 他人の行為や感情を適切に理解、表現しグループ化に活かす
スキルの内容的にもIと関連していると考える。おしなべて重視されている点でもI同様に、あるいはIと組合せて様々な角度から検討する価値があるのではないか。
K 批判的思考のスキル
得票 スキル スキル文
30 K-1 意志決定や問題解決に際して、決定的な論点をすばやく正確に特定する
22 K-2 問題とニーズを特定する
おそらくこれもイメージしやすいものが選ばれたと考えられるが、すべて二桁得票ということは、無視されているわけでもない。体系的にスキルを表現できたら人気獲得の余地はあるのではないか。
L マネジメントと管理のスキル
得票 スキル スキル文
34 L-1 課題を分析する
20 L-2 問題解決に役立つ人々や資源を特定する
20 L-4 特定の目的を達成するために人々と課題を組織化する
問題の把握/ブレークダウンに関しては理解を示す しかし、まだ人や責任を配分する立場にはいないということか。もう少しキャリアのある人から回答を取ると全て20以上獲得になるだろう。
M 評価するスキル
得票 スキル スキル文
20以上獲得ナシ
まるで不人気である。人生や社会が視野に入った抽象的な表現が原因なのかもしれないが、理由はインタビュー、クロス集計によっても捉えきれなかった。
N 個人的なキャリアディベロプメントのスキル
得票 スキル スキル文
28 N-1 N1ある環境(例:学校)から学んだスキルを他の環境(仕事)に応用する
36 N-6 他者から信用と信頼を勝ち得る
28 N-7 個人の長所と短所を理解する
29 N-8 自分や他の人の人生経験から学び分析する
全体に25をこえたものがおおく評判である。ここでも調査対象のなかで個人的な能力アップが十分に意識されていることがあらためて確認できた。N2N3が低いのはまだ若手であるからだろう。自分を売り込む段階にあるとはおもっていない。
O その他
得票 スキル スキル文
29 O-2 特定のニーズや問題に対する情報源を適切に見つけだす
これはG 移転可能なスキルの情報の扱いへの関心の一環と言えよう。
大量に票を集めたスキルは働き初めての体験がよく反映され若手社会人の課題があらわれている印象である。どのようなスキルを重視しているかはかなり読み取ることが出来た。全員一致ではないのだけれどある程度票をあつめたスキルなどのほうが「これから」彼らが身につけるスキルだとも考えられる。スキルのランキングはごく定性的なものであり、さまざまな仮説を提供してくれたといえる。いま挙げたような感触をふくめて、教材に含めるに適当な部分を確定して行くためには、なぜこの様なスキルが若いビジネスマンに意識されているのか、実際にトレーニングの必要なスキルと彼ら自身で認識していることに差はないのか、といった事柄を把握していきたいものである。そのためにも今回使用したスキル体系の文章をみなおすことや調査対象を広げることが望まれる。