立命館白川静記念東洋文字文化賞 第13回~第15回

「立命館白川静記念東洋文字文化賞(略称 立命館白川静賞)」について

---------- 制定の趣旨 ----------

日本の社会と文化の発展、また東アジアの交流と相互理解の歴史を顧みるに、漢字を中心とする東洋文字文化は大きな役割を果たしてきました。東洋文字文化はこれからも日本および東アジアの精神的支柱であり続け、その振興は重要な意義が有ると考えます。

この賞は、立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所が、東洋文字文化に関する研究、普及および教育活動等の奨励支援のため、優れた個人および団体の業績を表彰することを目的としています。日本社会・文化の継承と発展、東アジアの平和と繁栄のために本賞の制定がその一助となることを願っています。

<対象者>

  1. 立命館白川静記念東洋文字文化賞大賞特にすぐれた業績のもの
  2. 立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞教育指導ならびに
    漢字文化の普及に貢献したもの
  3. 立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞若手の研究者

第15回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」表彰式

第15回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の3名に贈ることを決定し、2021年6月26日、 立命館大学衣笠キャンパス 平井嘉一郎記念図書館カンファレンスルームにて表彰式を行いました。

立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞

受賞者 大槻 信(京都大学大学院文学研究科 教授)
対象業績 『平安時代辞書論考-辞書と材料-』他
副賞 賞金 30万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞

受賞者 阿部 卓也(愛知淑徳大学 准教授)
対象業績 『写真植字の普及と杉浦康平の実践:1960年前後の日本語組版における文字組み規範の成立をめぐって』他
副賞 賞金 30万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞

受賞者 松川 雅信(日本学術振興会 特別研究員(PD))
対象業績 『儒教儀礼と近世日本社会-闇斎学派の『家礼』実践』 勉誠出版 他
副賞 賞金 20万円

---------- 授賞理由 ----------

(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞 大槻 信 氏

 古辞書は、日本語史研究の重要な資料である。しかし、日本語史研究が現代語の理論研究の成果を積極的に取り入れていくという流れの中で、古辞書の資料性を十分に理解し、適切に研究に利用できる研究者は減少している。単著『平安時代辞書論考-辞書と材料-』は、古辞書を利用する日本語学・日本文学の研究者にとって、必読の書となるものである。第一部は「概論」だが、一つ一つの論証が、大槻氏のこれまでの厚い研究の蓄積に裏打ちされたものとなっており、初学者向けの解説にとどまるものではない。第二部の「各論」では、「辞書と材料」という観点から、事実の意味を的確に把握し、一般化しようと試みた論考が収められている。従来の辞書史研究に見られなかった視点で、辞書史研究を大きく転換させたものである。この視点は、論文「『新撰字鏡』の編纂過程」にも通じる。『類聚名義抄観智院本』は、諸本比較も含めた詳細な解題であり、大槻氏の文献の扱いの確かさも十分確認されるものである。

(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞 阿部 卓也 氏

 写真植字は我が国の印刷文化、殊に文字組版において一時代を築いた。1970年代前半に複数のカラー雑誌が創刊されたが、その文字組版において印刷文化を支えたのが今回の論文のテーマになっている「写真植字」(以下、写植)である。論文「写真植字の「発明」」をめぐって(上):石井茂吉と森澤信夫の実践1923-1933」は、文字組版が金属活字による活版印刷が主流であった1923年、森澤信夫(株式会社モリサワの創設者)のひらめきから写真の仕組みと写植機が発案され、その後、石井茂吉(株式会社写研の創設者)と共同して実用化に至るまでの論考である。この論文では、天才肌の森澤と学者肌の石井の対比や、写植機に搭載する漢字選択の前に立ちはだかる漢字廃止論のような国字問題等々について論じられている。論文「「ナール」「ゴナ」あるいは大衆文化の中の文字」の「ナール」と「ゴナ」は、1970年代から1980年代にポスターや雑誌などにもっとも多く使われた新しい写植書体である。それを設計した中村征宏氏について論じたものである。論文「写真植字の普及と杉浦康平の実践:1960年前後の日本語組版における文字組み規範の成立をめぐって」は、写植全盛時代、写植というテクノロジーを背景に、グラフィックデザイナーの第一人者であった杉浦康平氏が我が国のタイポグラフィに与えた影響について、論じたものである。

(3)立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞 松川 雅信 氏

 松川雅信氏の研究の大要は『儒教儀礼と近世日本社会-闇斎学派の『家礼』実践』に集約される。日本の儒者の学派で最大の門人を擁した山崎闇斎学派の教学内容とその機能の分析を企図している。氏は闇斎学が重視した儒教儀礼(家礼)が近世日本社会の秩序形成の要であった家秩序を補強するものであったことに着目し、その相関性を解き明かすことに注力している。それに向けて、これまでの類書以上に門人も含めた同学派の教説内容の詳細 な読み込みがなされていることは評価に値する。これから本格的な研究の深化を期待したい。

-------- 立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会--------

委員長 芳村弘道(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長)
委員 下中美都(株式会社平凡社代表取締役社長)
大形 徹(立命館大学衣笠総合研究機構 教授)
加地伸行(立命館大学衣笠総合研究機構 研究顧問)
杉橋隆夫(立命館大学衣笠総合研究機構 研究顧問)
萩原正樹(立命館大学文学部 教授)
上野隆三(立命館大学文学部 教授)
 ※順不同

※第14回「白川静記念東洋文字文化研究賞」は募集の結果、「該当者なし」となりました。

第13回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」表彰式

第13回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の2件に贈ることを決定し、2019年6月22日、 立命館大学衣笠キャンパス 平井嘉一郎記念図書館カンファレンスルームにて表彰式を行いました。

立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞

受賞者 岡村 秀典(京都大学 人文科学研究所 教授、附属アジア人文情報学研究センター長)
対象業績 『鏡が語る古代史』ほか
副賞 賞金 30万円

立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞

受賞者 黄 庭頎(佛光大学 中国文学 助理教授)
対象業績 『従述祖至楊己―両周「器主日」開篇銘文研究』ほか
副賞 賞金 20万円

---------- 授賞理由 ----------

(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞 岡村 秀典 氏

 岡村氏は大学院の修士論文以来、中国古代の鏡の研究を行われ、京都大学人文科学研究所在籍後2005年から2011年までの六年間、共同研究「中国古鏡の研究」を主宰し、その成果の一端を「後漢鏡銘の研究」として2011年の『東方学報』京都第八六冊に示された。 こうした長年の研究の蓄積を土台にして、2017年に岩波新書『鏡が語る古代史』を公刊された。日本における中国の古鏡の研究は、従来、鏡の背面に鋳造された紋様・図像の研究が主流であったが、岡村氏は前漢から三国魏におよぶ鏡の韻文形式の銘文に注目し、これを正確かつ詳細に解読して、男女の愛情をうたう抒情詩というべきもの、 また儒家思想や陰陽五行思想・神仙思想・神話を背景にもつものなどがあり、漢代の鏡はまさに時代と人々の心情を映し出していると解説されている。また鏡の制作者すなわち鏡工に関しても新たな見解を加えておられる。官営の工房から独立し、独自の意匠や銘文に工夫を加えた鏡工の広がりと歴史的な関係についても目配りの行き届いた説明がなされている。『鏡が語る古代史』は、中国、日本、朝鮮半島から出土した古鏡という考古学資料が駆使され、一般の読者に向けての懇切かつ平易な解説が施されており、それに導かれ、中国古代の歴史・社会・思想・文学のみならず、卑弥呼の鏡との関連から日本古代史にもおよぶ豊かな知見が得られる好著となっている。岡村氏による古鏡の銘文研究の優れた成果が示された本書は、まことに東洋文字文化の豊饒な世界を広く知らしめる著書であると高く評価できる。

(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞 黄 庭頎 氏

  黄庭頑氏は、甲骨・金文から戦国・秦漢の竹簡に及ぶ出土資料を対象に研究を進める気鋭の研究者である。今回、受賞の対象となった論文「従述祖至揚己ー雨周「器主日」開篇銘文研究」は、銘文の始まりが「器主日く」すなわち「青銅器の制作主が言うには」という形式をもつ西周・東周 (春秋・戦国期)の金文を詳細に分析した研究である。西周期では祖先の功績を先ず述べ、ついで器主みずからの職務や事跡が祖先の功績に則ったものであると位置付け、一族の栄光の永続を願うという構成であったが、東周になると次第に器主自身の功績のみを誇る内容に変化してゆくことを明らかにし、この事象には両周間における宗法制度、社会構造、思想の変遷が反映していると論じておられる。本論文は金文の形式論に止まらず、周代の歴史と思想に関する研究としても優れている。また青銅器文化は政治秩序の変革の影響を受けて変容したという白川静博士の見解や欧米の研究者による出土文献のテキスト論も吸収した重厚な論文となっている点も高く評価できる。 また「日本漢学家白川静的金文研究及其影響」は、白川博士の金文研究の目標が金文を歴史資料 としてとらえることにあり、殷周の連続性に着目した所論は殷代の国家構造に関する研究の先駆となったこと、『金文通釈』が日本の殷周史研究の基礎となったことなど、主に歴史学の方面での貢献を評価されている。日本や海外における古文字学と先秦史の研究動向を視野に入れるとともに、白川博士の研究に対する従来の評価を充分に把握し、的確かつ公平な論評を行っておられる。 この二篇の論文は、黄庭頑氏の古文字の研究とその研究史に関する優れた業績として高く評価しうるもので、氏の今後の研究の発展が大いに期待できる。
 同氏の業績は、白川賞優秀賞に相当すると評価する。

-------- 立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会--------

委員長 杉橋隆夫(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長)
委員 加地伸行(衣笠総合研究機構特別研究フェロー)
下中美都(株式会社平凡社代表取締役社長)
上野隆三(立命館大学文学部教授)
芳村弘道(立命館大学文学部教授)
大形 徹(衣笠総合研究機構 客員教授)
萩原正樹(立命館大学文学部教授)
 ※順不同
pagetop
pagetop