ニュース

12月14日・15日ワークショップ開催報告:SVOD in East Asia

ワークショップ報告:SVOD in East Asia


2019121415日の二日間にわたり、国際ワークショップ“Subscription Video on Demand in East Asia”が立命館大学衣笠キャンパスで開催された。この分野に関連する最新の研究成果である著書『Netflix Nations』を発表したばかりのRamon Lobato氏(RMIT)、そして、Netflix Japanでアニメ・コンテンツを担当した後にアニメ市場を対象とする新たなメディア・プラットフォームを立ち上げたJulian Lai-Hung氏(BlockPunk)を基調講演に迎え入れ、海外から集まった10名以上の登壇者とともに、現在のメディア環境を先導するサブスクリション型動画配信をめぐって活発な議論が重ねられた。

Netflix Amazon Primeに代表されるSVODと言えば、この10年のうちにシリーズ化した人気コンテンツを続々と発表し、ユーザーはそれらを映画館やテレビだけでなく個々の端末上で受容するなど、新たな映像環境を作り出すに至っている。事実、Netflix社が巨額の予算投資によって大物監督・俳優を配した映画制作を手がけるまでに成長する一方、それらの作品がカンヌ映画祭の選考リストから追放されたことは、メディア・プラットフォームに先導される現在の映像のあり方の変動を象徴する事件であったと言えよう。

ただし誤解を恐れずに言えば、二日間にわたって議論の中心となったのは、これらの派手なコンテンツや話題に比して、一見すると「地味な」ものであったのかもしれない。というのも数多くの研究報告に通底していたのは、上述のようなメディア環境のうちでも、オンライン型の映像配信を可能にするインフラストラクチャー、ならびに、そのコンテンツ配信を物理的に支えているロジスティクスに関する考究であったからだ。

個別の報告内容については要旨集に詳しいが、主催者である大山真司氏(立命館大)とYu-Kei Tse氏(ICU)が狙いとしたように、SVODのグローバル展開と並行して日本や韓国、台湾、そして中国──これはNetflixが今も踏査できていない国だが──など、アジアの諸地域の固有性に根ざしたローカリゼーションの実態が明るみに出された。と同時に、それは単なる文化的帝国主義への批判に収まるものではなく、会場から数多くの意見を交えた議論は、アルゴリズムやデータに駆動される創造性の新たなかたちや、無数にあるタイトルをカタログ化したインターフェイスの諸相、SVODの各サービスがこぞって標榜する「オリジナル」概念の問い直し、さらには従来型の(ケーブル)テレビとの競合やその変貌に関する調査分析へと深化させられた。

上述のロバト氏による著作と基調講演をはじめとして、現在のメディア生態系を支えるインターネットの帯域幅やVPNを含めたアクセス手法など、これらを可能にする物質的なインフラストラクチャーが今回の焦点となったことは繰り返し強調しておきたい。オンライン型映像配信という新たなメディアの生態系を試金石として、これが現時点における研究手法の問い直しを迫ると同時に、その新たな方法論を開陳するものであったことは間違いないだろう。(増田展大)

一覧へ戻る