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2023.11.21

【レポート】第61回AJI研究最前線セミナー開催!Dr. GADJEVA Nadejda Petrova, "Japanese Digital Cultural Promotion: Online Experience of Kyoto"

 2023年11月14日、第61回AJI研究最前線セミナーがオンラインで開催されました。今回は、Dr. GADJEVA Nadejda Petrova(立命館大学人文科学研究所 客員研究員)が、自著に基づいて、“Japanese Digital Cultural Promotion: Online Experience of Kyoto”と題する発表を行いました。

 Dr. Gadjevaは、日本の文化外交を専門としており、2020~2022年の間の日本の文化外交政策に焦点を当てた著書では、COVID-19による観光客の激減(99%減)に直面した京都を取り上げています。そのうえで、彼女の研究では、京都の観光名所をどのように宣伝できるかという問いについて、仮想現実、拡張現実、複合現実、3 Dオーディオ技術などの様々な方法を通じた文化発信のあり方を検討することでアプローチしています。実際に、パンデミック以降、京都市内への直接訪問に代わって、これらの選択肢は、様々な形で採用されてきました。Dr. Gadjevaは、発表において、2021年に伝統芸能の保存のための公的機関である日本芸術文化振興会が文化庁と協力して立ち上げた 「Japan Cultural Expo VIRTUAL PLATFORM」の事例を紹介しました。このプラットフォームは、ビデオ、テキスト、仮想現実、画像などのオンライン・デジタル・コンテンツを通じて、物理的な会場での 「リアル」な 体験と 「バーチャル」 な体験を組み合わせ、さらに、英語と日本語で日本の舞台芸術、自然、美術展、芸術祭などを紹介することで、世界中の誰もが日本の文化コンテンツを楽しむことができます。

 ただ、以上のデジタル・コンテンツを文化政策の一環として充実させるためには、コンテンツの複製を防止するための制御体制を確立することが求められますが、京都市には大規模にそうした体制を確立する資金が不足しており、また、デジタルな文化発信をするために必要となる5Gの技術や適切なデジタルスキルを持つ技術者を持つ機関が不足しているという問題があります。くわえて、観光客がパンデミック以前のレベルに戻った後に、これらの発信のあり方の意義が問い直されるとともに、公共エリアでのビデオ撮影の法的制約なども、デジタルな文化発信のプラットフォームの拡大にとって課題となります。

 しかし、Dr. Gadjevaによるヨーロッパからの訪問者へのインタビュー調査によれば、以上のデジタル・コンテンツの充実は、身体障害者や高齢者にとって有益であることが確認されてています。これらの人々にために、多言語でインタラクティブな文化教育の発信、パリのノートルダム寺院で行われたように京都の寺院の過去の姿を仮想現実で復元すること、京都の博物館の仮想現実ツアー、茶道やお祭りやパフォーマンスのような無形の文化遺産のバーチャル空間での鑑賞などを実現することが、今後のデジタルな文化発信を成長させる鍵となりそうです。また、日本人に限ってみれば、ほとんどの高齢者が実地での体験を好む一方で、若い世代になるほど仮想現実での体験を好む傾向があることも、非常に興味深い事実です。

 以上の刺激的な発表に続くQ&Aでは、観光客が録画されることを受け入れるどうか、デジタル・ツーリズムが京都の財政に貢献するか、パンデミック中のオンライン観光客の拡がり具合などについて質問がなされました。Dr. Gadjevaはこれらの質問に丁寧に回答しました。今回の研究最前線セミナーでは、非常にアクチュアルな問題をめぐって、活発な議論を交わすことができました。

Dr. Gadjeva delivering her presentation
発表を行うDr. Gadjeva