《所長インタビュー》

グローバル教養学部について、学部長の金山勉先生、大いに語る

(本インタビューは英語でおこなわれました。原文は、英語ページをご覧下さい。)

―― 金山先生、大変お忙しい時期に、貴重なお時間を割いていただき、まことにありがとうございます。

金山:グローバル教養学部(GLA)にようこそ。私たちの学部に興味を持っていただき、とても嬉しく存じます。

インタビューに答える金山先生
インタビューに答える金山先生

―― まず、何をめざしてGLAを創設なさったのか、お聞かせ下さい。 金山:現在の「アジア・太平洋の時代」に、立命館大学に真にグローバルな教養学部が創設されたことは、オーストラリア国立大学との5年にわたる協力の成果でもあり、非常に大きなことが達成されたと思っております。今日のグローバル時代においては、高等教育はきわめて重要です。私たちはその中で、最高の質の教育を提供しようと全力をあげています。   

この学部を創設した理由や目標はいくつもありますが、一つには、教育におけるイノベーションを先導し続ける立命館大学の伝統を発展させるということがあります。たとえば、ファカルティ・ディベロップメント(FD)プログラムも、私たちが日本で最初に開発しました。

  

日本には他にも、すべて英語で教える教育課程はありますが、どこも学生の学修経験を幅広く薄く広げています。

―― 幅広く薄く、と言いますと?

金山:日本の大学では、ふつうは、学生は学期毎に12科目、場合によっては19科目も履修します。そうすると、集中的に学ぶだけのゆとりがなくなります。あまりに科目が多いと、1つ1つの科目に費やす時間は限られてしまいます。他方、グローバル教養学部では学期中の履修は4科目です。単純な計算になりますが、たとえば24時間あったとして、12等分するのと4等分するのでは、結果は全く違ってきます。

グローバル教養学部の教員と新入生(2019年4月)
グローバル教養学部の教員と新入生(2019年4月)

―― 確かに。よく、学生が(科目を取るのに)忙しすぎて、深く考えているヒマがないと言われますね。

金山:私たちのやり方であれば、海外で見られる、日本の学生は勉強しないというステレオタイプも打破できると思います。私たちは教員についても、日本や海外でしっかりとした経験を積んで、最新の教授法を身につけている皆さんを集めました。私たちは、GLAを傑出した存在にして、国内的にも国際的にも認められる優れた教育モデルにすることをめざしています。

―― 大志を感じますし、期待が持てますね!

金山:大阪いばらきキャンパス(OIC)は「アジアと世界へのゲートウエイ」と呼ばれていますが、ここで優れた教育をおこなうことで、GLAはグローバルな教育を新しいステージへと先導し、ここに、できるだけ多くの教育者や学者を集めたいと思っています。そのためにも、アジア・日本研究所とGLAの間で教育と研究の同期化が起こるよう、願っています。

―― アジア・日本研究所とGLAは、いくつも共通点があります。「アジアと世界へのゲートウエイ」もその一つです。教育と研究の同期化を果たしていくと、OICだけではなく、大学全体にとってプラスになることは間違いないと思います。

金山:研究所との将来的なコラボとその可能性を考えると、大きな期待が持てます。

―― おっしゃる通りです。さて、大阪いばらきキャンパス(OIC)に英語だけで教える学部を創設することの意義を、もう少しお聞かせください。これは、OICが「アジアと世界へのゲートウエイ」ということと結びついていますね?

金山:これまでをふりかえってみると、グローバルな学部・学科を立ち上げるときは、いつも入学生の英語レベルが大きな問題でした。これはひとえに、日本が英語国ではないからです。英語を学ぶことと集中的なリベラル・アーツの教育をいっしょに実施するとなると、学生にとっても教員にとっても重荷は倍になります。これを解決するために、私たちは英語がレベルに達している学生を入学させて、英語だけで教育するという道を選びました。そうすると、教員も、語学のサポートではなく、内容本位の教育に集中することができます。

 

この学部が大阪いばらきにあることは、アジアや世界との結びつきを象徴するハブにあるという点で大きな意味を持っています。大阪は多文化で多様性を持ち合わせているところですが、同時に独自の伝統を持っていて、学生はそれを体験できます。また、「商人の町」として、いろいろな形でコスモポリタンなのもよい点です。世界的にみても大きな変化の中心がアジアにシフトしている現在、OICが「アジアと世界へのゲートウエイ」であることは、実に好ましいことです。

―― 「グローバルな教養学」とは、どんなものですか。(グローバルと付かない)教養学と、どう違うのでしょうか。

金山:伝統的な教養学は、西欧と北米で発展しましたから、いつもエリートのものでした。ここで「グローバル」という形容を足すのは、そのような教養教育が持つヨーロッパ中心主義への批判であり、それと同時に、教養教育をアジア、つまり欧米圏の外で実践することで、教養学が持ちうる可能性を真にグローバル化するということをめざしています。

―― 大いなる意図が感じられて、興奮しますね。

金山:それだけではありません。私たちはオーストラリア国立大学といっしょに、デュアル・ディグリー・プログラムを実施しています。それによって、小さな教養学部(Small Liberal Arts College: SLAC)が持つよさと、世界的に高い研究能力を評価されているトップ大学のよさを、同時に学生に提供できます。学生たちは二つの異なる大学に行って、アジアについて考え、学ぶことができるのです。それによって、GLAはアジア発の、OIC発の、ダイナミックで活動的な教養教育を提供できるのです。

―― つまり、学生は一度に、立命館大学とオーストラリア国立大学の学位を取得するということですね。そのような仕組みには、どんな意義がありますか?

金山:異なる大学は、異なる場所でそれぞれの強みを持っています。立命館大学からの学位は、日本やアジアで認知されますが、欧米ではそれほどでもありません。逆に、オーストラリア国立大学は欧米での認知と比べると、アジアではそれほどではありません。つまり、デュアル・ディグリーを取得する学生は、両方の価値を体得し、それによって将来に向けてより広いキャリアの可能性を得ることができるのです。

オーストラリア国立大学の風景から1 オーストラリア国立大学の風景から2
オーストラリア国立大学の風景から

―― 卒業生に期待することは何ですか。また彼らのキャリアとして、どのような道が考えられますか?

金山:私たちは、学生に生涯学習につながる経験を養ってもらいたいと常々言っています。つまり、学生は学位を取得した後も、学び続け、成長し続けるということです。学生たちは、さまざまな環境やキャリアに適応し、成長することのできる力を養うのです。教養教育のエッセンスである批判的思考、倫理的考察、自らを多元的なメディア状況の中で位置づける能力といったものは、どこで働くにしても役立つものです。たとえばコンサルタント会社、政府、政策フォーラム、あるいはグローバルなアート・キュレーターとして働くにしても、必ず役に立つものです。学生には、人生を切り拓いていく力とどこでも役に立つスキルを身につけてもらいたいと思います。

―― GLAのような真新しい学部での、このような知的・教育的な「冒険」は実に刺激的だと思いますが、中でも先生が一番面白いと思ってらっしゃるのは、どんなことでしょうか。

金山:私自身だけでなく、GLAの教員や職員の皆が一番面白いと思っているのは、私たちが印す一歩一歩のすべてが歴史として記録されるであろうということです。私たちは、誰も経験したことのないことを実践しているのですから。

 GLAは、初めてオーストラリアと日本の大学の間で、学部の全学生がデュアル・ディグリーを取るということを目指しています。つまり、GLAはオーストラリアと日本で、これまでになかった高等教育のユニークな機会を提供しているわけですから、面白くないわけがありません。

―― どんな「冒険」にも、面白いことと一緒に、大変な課題が付きものと思いますが、先生にとって、今一番重要なチャレンジは何でしょうか。

金山:GLAの教員も職員も、質の高い教育の本当の心を忘れてはなりません。非常に質の高い教育というものは、GLAの教員一人一人がおこなう研究活動の広さと深さによって支えられる必要があります。今、教員全員が、グローバルな教養教育の意義を深く理解して、全力で教育に取り組んでいます。しかし、研究と専門性を深め続けることも不可欠です。そういう点で、アジア・日本研究所が提供してくださる機会というものは大変ありがたく、私たちが研究を開拓し、実践し、推進し、成果を発表する際の支えになると思います。

(左から) 仲谷総長、トニー・アースキン学群長(ANU)、金山学部長
(左から) 仲谷総長、トニー・アースキン学群長(ANU)、金山学部長

―― 先生のおっしゃる通りです。是非、皆でそのような活動をしていくようにしたいものです。最後に、このインタビューで、何か付け加えるべきことがありますでしょうか。

金山:アジア・日本研究所とGLAの役割の結合を、将来考えてみたいものです。GLAは、世界中から集まった優秀で高い向上心を持つ学生たちに、質の高い教育を与えるよう全力をあげています。しかし、5年後を考えるならば、GLAも独自の研究と文化を発展させたいと思います。アジア・日本研究所とGLAは、同じ大阪いばらきキャンパスに位置していますので、共通の土台を作って、グローバルな環境下でのアジア・太平洋の教育と研究に貢献していければ何よりです。

 この度は、よいインタビューの機会をいただき、どうもありがとうございました。

―― 金山先生、貴重な時間をこのインタビューに割いていただき、どうもありがとうございました。含蓄に富んだ貴重なお答えをたくさんいただき、嬉しく思います。グローバル教養学部がどんどん発展して、まもなくグローバルに認知されることを、心から願っています。

(2019.07.08インタビュー)