研究プロジェクト紹介

協働領域

歴史的シリアにおける「国家変容」の総合的研究:混合的手法による新たな地域研究の探求

プロジェクトリーダー
国際関係学部

末近 浩太 教授

プロジェクト紹介

 この研究プロジェクトの目的は、現代の国際社会のなかでとりわけ不安的な位置にあるシリアという国家の歴史的、変容を、新たな手法を用いてその実態と因果関係を解明することです。シリアは国家としてのシリアだけに限らず、現在のシリア、レバノン、ヨルダン、パレスチナ、イラクとトルコの一部にまたがる「歴史的シリア」を指します。この地域は、パレスチナ問題やクルド問題、湾岸危機/戦争、レバノン内戦などの問題に翻弄され、また、特に、2011 年からのシリア紛争以来、シリアは、歴史的シリアを構成する周辺国や諸外国の介入だけでなくIS の勃興など、シリアという国家の存在自体を揺るがす事件を経験してきた。その結果、大量の難民とテロリストの発生が起こり、国際社会全体にとっても大変な脅威となった。こうした経緯で、「歴史的シリア」における「国家変容」についての実証研究は、かつてないほどアクチュアルなものとなり、社会的な要請を高めることとなっています。

 「歴史的シリア」を理解するためのキーワードは、「国家と国民の不一致」です。それは、長らく中東政治研究の大前提でした。これに対して、この研究プロジェクトでは、それが特に顕著に現れることになった2010 年代以降のシリアについて歴史的に検証し、最新の実証研究の成果と突き合わせて、その前提の妥当性を検証するとともに、「国家変容」の因果効果・メカニズムを解明していきます。そして、このアプローチを通して、「新たな地域研究」を目指します。

 この研究プロジェクトの大きな特徴は、次の3 点に集約されます。第一に、中東地域研究の大テーゼについて近年開発された新たな分析手法を用いた実証研究の俎上に載せることで、因果効果・メカニズムの解明を試みる点、第二に、地域研究と社会科学の狭間で空白となってきた歴史的シリアの「国家変容」の実態解明に取り組む点、そして第三に、因果推論を含む地域の実態を総合的に理解することを可能とする新たな地域研究を提示しようとする点です。

 それとともに、本研究は、SDGsにおける「平和と公正」への貢献を射程に入れています。イラクやアフガニスタンでの西洋型の近代国家の再生を既定路線とするリベラル平和構築論の蹉跌を踏まえ、地域研究の強みを活かしながら現地社会の視点を踏まえた平和構築のあり方を模索していきます。

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