Story #04

技術の歴史を振り返ると
見えてくるメディアの未来

飯田 豊

飯田 豊 Yutaka Iida | 社会学研究科 准教授

テレビ電話も
パブリックビューイングも、
テレビジョンの黎明期にあった。

研究テーマを教えてください。

飯田主にメディア論、メディア技術史、文化社会学の3つを専門に研究しています。従来のメディア研究の多くは、コンテンツや文化に焦点が置かれていました。それに対して私の研究は、「モノ」や「技術」に着目してメディアの歴史を捉えようとするところに特徴があります。なかでもテレビに関心を持ち、10年以上にわたってその歴史研究に取り組んできました。

「若者のテレビ離れ」といわれて久しく、いまやテレビはパソコンやスマートフォン、タブレットといった情報機器にとって代わられた古いメディアで、いまさら研究する価値がないと考える人も少なくありません。しかしそれは「放送」という限られた側面しか見ていないためです。

テレビの黎明期には、「テレビジョン」という技術の未来像が実に多様なやり方で提示されていました。にもかかわらず、そのほとんどが伝えられることなく、「放送」としてのテレビだけが今日まで受け継がれてきました。この「喪失したテレビジョンの黎明期」に光を当てることで、「終わった」ともいわれるテレビの未来にも新たな視界が開けてくると考えています。

「テレビジョンの黎明期」、どのような技術の歴史があったのでしょうか。

飯田そもそも「テレビ」の語源は、「遠く(tele)を視ること(vision)」であり、「放送」や「マスコミュニケーション」に限った概念ではありませんでした。「今」の映像を遠方に伝えることのできる技術の総称が「テレビ」だったのです。

一般的には、1953(昭和28)年に登場した街頭テレビが日本のテレビの歴史の始まりだと見なされています。これは今でいう「パブリックビューイング」のようなものでした。しかし、人びとがテレビを目にすることができた場に着目すると、その歴史は戦前までさかのぼります。日本における機械式テレビジョンの一般公開が始まったのは、1928(昭和3)年。ラジオ商を営んでいた発明家が欧米の装置に自分のアイデアを加えて披露したのが始まりでした。

「テレビの父」として知られる高柳健次郎がブラウン管の蛍光面上に映像を再現することに初めて成功し、ブラウン管を受像機とするテレビの原理を築いたのは、1926(大正15)年と伝えられています。研究を進めた高柳は、1930(昭和5)年の春に開催された展覧会に早稲田大学と共に試作機を出品。その研究成果が広く認められるようになります。 1930年代初頭に開発された早稲田の機械式テレビジョンは、まるで映画のように多くの観衆に映像を投影することを最大の特長としていました。当時の映画はニュース報道としての役割も担っており、テレビジョンの技術をそれに応用しようとしたわけです。

また映像を電気的に送受信できれば、その技術は電話にも応用されるはずだと考え、研究した人もいます。つまり「テレビジョン電話」という発想自体は、100年近く前からあったのです。

こうして技術史を振り返ると、当時のテレビジョンが、「放送」に限らず多様な目的で研究されていたことがわかります。

飯田 豊

テレビの技術史を振り返ることで見えてきたことを教えてください。

飯田1953(昭和28)年に街頭テレビが登場してから、次第に受像機の家庭への普及が進み、テレビジョンは、家庭で見る「テレビ」へと変わり、その役割が「放送」に特化していきます。

しかし21世紀に入ると、地上波放送のデジタル化に伴ってブラウン管はあっという間に姿を消し、薄型ディスプレイが急速に普及しました。インターネットでは動画共有サイトやライブビデオストリーミングが人気を集め、ネットを介したビデオ通話も当たり前に。一方屋外では、広告などの映像情報がそこかしこで流れるようになりました。

こうした新しいメディアによってテレビはその存在意義を失ったと考えるのは尚早です。テレビの技術史を振り返れば、その中にパブリックビューイングやテレビ電話など、現代ではテレビとは別物と見なされているメディアの特性も含まれています。それに気づけば、インターネットをはじめ他のメディアをテレビと対立的に捉える発想そのものが変わります。テレビと私たちの関係性を根源的に問い直し、テレビジョンの技術に開かれていた可能性を総体的に捉えれば、メディアの新しい生態系が見えてくるはずです。

今後の研究について教えてください。

飯田最も新しいメディアの特性を同時代的に捉えるのは難しいものです。「インターネットの時代」になったからこそ、そのひとつ前のメディアであるテレビの特性をよりよく理解できるようになりました。その意味では、「ポスト・インターネットの時代」とも言われるようになった今だからこそ、そろそろインターネットについても歴史的に捉えられる段階に入ってきたのではないかと考えています。今後は、インターネットの歴史をひも解き、メディアの未来に向けてまた新たな視座を提示していきたいと思っています。

Profile
飯田 豊 Yutaka Iida | 社会学研究科 准教授
メディア研究においては、いまや個別のメディアを対象に専門性を追究するだけでは通用しなくなっています。メディア産業別に縦割り化してしまっている研究領域の壁を乗り越え、視野を広げることが大切です。関心を広く持つことで、これまでとは違った視点でメディアを捉えられるようになるはずです。
飯田 豊
  • 研究テーマテレビジョンの考古学、メディア論の系譜、現代メディア・イベント論、メディアリテラシーに関する実践研究、グラフィティの文化社会学
  • 研究キーワードメディア論、メディア技術史、文化社会学、メディア考古学、メディア・イベント、万国博覧会、メディアリテラシー、ワークショップ、テレビジョン、無線技術、科学技術社会論、アマチュアリズム、グラフィティ

研究者データベース

Publications

飯田 豊 著

テレビが見世物だったころ初期テレビジョンの考古学

青弓社

テレビが見世物だったころ 初期テレビジョンの考古学

飯田 豊 編著

メディア技術史デジタル社会の系譜と行方[改訂版]

北樹出版

メディア技術史 デジタル社会の系譜と行方[改訂版]

飯田 豊、立石 祥子 編著

現代メディア・イベント論パブリック・ビューイングからゲーム実況まで

勁草書房

現代メディア・イベント論 パブリック・ビューイングからゲーム実況まで

水越 伸、飯田 豊、劉 雪雁 著

メディア論(放送大学教材)

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メディア論 (放送大学教材)
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