相手が武器を持つに至った背景を知ることで、避けられる争いや憎しみがある。広島・長崎でのセミナーが、今も自分を支えてくれています。

田中志穂 さん
株式会社NHKグローバルメディアサービス 番組制作センター(報道番組) ディレクター(2016年度卒業)

2017年3月に国際関係学部を卒業後、同年4月に株式会社NHKグローバルメディアサービスに入社。NHK新潟放送局を経て、2018年よりNHK放送センター(渋谷)に配属。「おはよう日本」「首都圏情報ネタドリ!」などのニュース・報道番組や「映像の世紀バタフライエフェクト」、「ゲーム」に関連したドキュメンタリー番組などを中心に制作中。

現在のお仕事のご紹介とお仕事の面白さを教えてください。

田中番組を制作するディレクターをさせていただいています。ディレクターは、取材・提案・ロケ・編集・送出・デジタル展開など、放送に関連する全てに携わる仕事です。

日々痛感するのは「仕事は一人きりでは決して成立しない」ということ。「全てに携わる」と言いましたが、実はディレクター一人で出来ることは決して多くありません。貴重な時間を割き、話を聞かせてくださる方がいるから取材ができる。チームとして帯同してくれるカメラや音声のプロがいるからロケができる。一緒に撮影した映像を見て、大切に繋いでくれる編集のプロがいるから番組を形づけられる。責任の重さに悩み、苦しむこともありますが、多くの人々に支えられながら番組を作っていく経験は、いつも自分を成長させてくれるように感じます。

また、基本的に「同じ人を取材し続けることはない」=「同じ内容の仕事はない」ので、番組・企画毎に得られる知識や力が違うのもこの仕事の魅力で、やりがいを感じている部分です。

これまでのキャリアと現在のお仕事を選んだ理由を教えてください。

田中国際関係学部を卒業以来ずっと、今の会社で働かせていただいています。ディレクターという仕事を選んだのは、大学を卒業してからも何かを学び続けたかったからです。TVディレクターにかかわらず記者などのマスコミ職は「自分が知らなかったこと」「世間に知られていないこと」を調べ、そのことを教えてくれる・見せてくれる人に「話を聞く」「会いにいく」のが基本的な仕事になります。そのため、仕事をすればするほど知識が増え、多様な意見に触れられる機会があります。実際に、この仕事をしていなかったら出会えなかった人、行けなかった場所、立ち会えなかった場面が数えきれないほどありました。こうした経験を得られる機会の多さが、この仕事を選び、今も続けている大きな理由です。

在学中に参加した留学プログラムやインターンシップはありますか。

田中留学は大学のプログラムは利用せず、夏休み中に独自でカナダのプリンス・エドワード島に短期間滞在しました。インターンシップは、3回生の冬頃から、新聞社が主催するものに参加しました。インターンシップそのものも大切ですが、その過程で、目指すものが似ている仲間と出会えたことが、自分にとって大きな財産です。就活中も頻繁に集まり、連絡を取り合いながら切磋琢磨できたことで、今の就職につながったと考えています。

仕事で役立っていると感じられる国際関係学部での学びや経験を教えてください。

田中1回生の頃から関わらせていただいた「国際平和交流セミナー(現:平和人権フィールドスタディ)」での経験が、自分を支えてくれていると感じます。自分が参加したセミナーは、アメリカン大学やAPUの学生たちと共に「広島・長崎」を訪問し、フィールドワークを行うコースでした。

セミナーの前半で議論になったのは「広島・長崎への原爆投下の必要性」について。日本で教育を受け、原子爆弾は絶対悪だと教わってきた自分は、原爆が「必要」だったと答える海外の学生が圧倒的に多かったことや、彼らの持つ「原爆投下のおかげで戦争が終わった」という意見に、当初戸惑いを覚えました。しかし、共に広島・長崎の地を訪れ、被爆者の方々の話を伺い、意見交換をする中で、みんなの意識は変わっていきました。同時に自分自身も、彼らがそうした意見を持つに至った背景でもある、彼らの母国の歴史などについて、あまりに無知であったことを痛感しました。

人は、相手をちゃんと知らないから恐れ、武器を持ってしまう。だけど、相手が武器を持つに至った背景を知ることで、今からでも避けられる争いや憎しみがある。そんなことを、このセミナーが教えてくれたような気がしています。

卒業されて感じる国際関係学部の魅力は何だと思われますか。

田中自分が言わずもがなですが、国際関係学部の魅力は「多様性」があることだと感じています。全国・世界各地から人が集まり、ひとつのコミュニティをつくるので、自分と全く違う意見を持つ人や、全く違う環境で生きてきた人など、出会う人はまさに百人百様です。最初こそ、驚くことや、受け入れがたいこともあるかもしれません。ですが、在学中にあった数々の出会い、そして国際関係を学ぶ上で得た知識や考えは、人は「共感できなくても、共存できる」「受け入れられなくても、存在を認めることはできる」のだということを、自分に教えてくれました。それは今、生きる上、そして仕事をする上で最も大切にすべきこととして、自分の中に根付いています。

国際関係学部の後輩へメッセージをお願いします。

田中できるだけ多くの人と出会い、自分とは違う考えやバックグラウンドを持つ人々の話に、耳を傾ける機会を作ってほしいと思います。国際関係学部には、授業やゼミはもちろん、それ以外でも、こうした「人と繋がる」機会が多く用意されています。海外でも、国内でも、大学内でも、大学外でも大丈夫です。様々な人の意見を聞き、考え、悩みながら、自分の意見を育んでいっていただけたらなと思います。他人を変えることは難しいけれど、自分自身はいくらでも変えることができます。今出来ないことも、自分の意思、決定次第でいつか出来るようになります。変わることや失敗を恐れずに、大学での時間を存分に活用し、いろんなことにチャレンジしていただけたら、いち「国関生」としても嬉しいなと感じます。学ぶ過程そのものをぜひ楽しんでください。

2024年4月更新

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