
国際関係学部での学びは、アフリカの民間セクター開発分野でのこれまでのキャリア、そしてUNDPへの入職を決意するに至った強い動機づけの基盤となりました。
原 祥子 さん
国連開発計画(UNDP)UNDPサステイナブル・ファイナンス・ハブ(SFH)地域事務所(南アフリカ)プログラムアナリスト (2013年度卒業)
2013年に国際関係学部を卒業。卒業後、東京の富士通グローバルに入社したのちにマラウイでJICA海外協力隊員として農村地域でのビジネス支援に従事。
その後、英国サセックス大学開発学研究所(IDS)にて修士号を取得し、タンザニアやその他の国々で社会問題に取り組むスタートアップや、アフリカに焦点を当てたベンチャーキャピタル企業に勤務。
2024年1月より、JPOとしてUNDP UNDPサステイナブル・ファイナンス・ハブ(SFH)地域事務所にてスタートアップ・中小企業支援の推進に従事。
立命館大学卒業後の経歴を教えてください。
原大学時代から、特に地域間の経済格差に関心がありました。 インドやベトナムをバックパッカーとして旅した経験から、自然環境や地域条件の違いが人々の生活に大きな影響を与えることを強く意識するようになり、これらの経験が、所得格差や機会の不平等に取り組むキャリアを追求したいという思いにつながりました。
大学卒業後は経営学を専攻し、富士通株式会社でITコンサルタントとしてキャリアをスタートさせましたが、アフリカで直接的な経験を積みたいという思いが強くなり、青年海外協力隊として独立行政法人国際協力機構(JICA)に入社しました。マラウイで300人以上の農村部の農民たちと協力し、ビジネスを立ち上げました。現地の収入向上を支援する中で、アフリカの人々の可能性を強く感じました。 村人たちと協力し、環境にやさしい炭の事業であるブリケットの開発を手伝い、現地の人々と直接関わりながら販売戦略やマーケティング手法を練りました。 この実体験を通して、彼らの熱意と高い能力を目の当たりにし、この経験から、アフリカの経済格差の是正と経済発展に貢献したいという思いが強まりました。やる気と能力がありながらも、遠隔地であるがゆえに資金やビジネススキル開発の機会を得ることが難しい人々に、資金やビジネススキル開発の機会を提供したいと考えるようになり、これらの経験が、ビジネスを通じて日本とアフリカを繋ぐキャリアを追求したいという思いにつながりました。
その後、JICAの長期海外研修員として英国サセックス大学に留学し、ビジネスを通じた国際開発について学びました。開発のためのICTに焦点を当て、ICTとイノベーションを活用した農村開発について研究し、特にアフリカにおける携帯電話を利用した市場情報サービスの有効性について分析しました。この研究は修士論文の中心的な部分を占め、その中で私は、その地域の新規事業が農村開発のためにテクノロジーをどのように活用しているかを調査しました。また、経済開発理論、開発主体としてのビジネス、インパクト評価などのコースを受講し、国際開発のためのデジタルおよびテクノロジー(ICT4D)に関する短期専門能力開発コースにも参加しました。
ビジネスを通じて社会問題の解決に取り組むアフリカのスタートアップ企業に興味を抱くようになった私は、タンザニアのスタートアップ企業WASSHA、アフリカに特化したベンチャーキャピタルSamurai Incubate、インパクト投資組織SIMIなど、この分野の複数の組織で経験を積み、これらの職務を通じて、スタートアップのエコシステムと金融セクターの両方で貴重な経験を積むことができました。その後、JICAのイニシアティブであるプロジェクトNINJAを率いる形で、6年間の実務経験を積みました。プロジェクトNINJAでは専門家として、アフリカのスタートアップ企業を対象としたアクセラレーションプログラムを実施し、エチオピアの省庁、公共および民間企業、スタートアップエコシステム構築者向けに研修を行い、広範なエコシステム調査を実施しました。
現在の業務について教えてください。この職業に就いた理由は何ですか?
原私がUNDPに入職した理由は、大学時代から「生まれ持った環境などによる経済・機会格差に一生をかけて取り組みたい」と考えていたからです。この思いを実現するために、二国間援助機関のJICAではなく、多国間援助機関である国連において、より幅広いアプローチを取れるのではないかと考え、2024年より南アフリカにあるUNDPサステイナブル・ファイナンス・ハブ(SFH)に所属しています。このHubは、金融を通じて持続可能な社会の実現を目指し、170の国と地域で活動を展開しています。
私は現在、アフリカ全土のスタートアップを支援し、インパクト投資などを活用して金融サービスへのアクセス改善に取り組んでいます。私が現在担当しているプログラムの一つに、「Meet the Tôshikas」プログラムというものがあります。このプログラムは、日本の投資家とアフリカの現地の起業家やスタートアップを結びつけるものです。このプログラムは日本の経済産業省の支援を受けており、2024年よりアンゴラ、南アフリカ、ザンビアで実施されています。
このプログラムでは、アフリカのスタートアップエコシステムをマッピングしたレポートを作成し、投資家に対してアフリカの魅力を伝えてきました。また、30社のスタートアップを対象に、投資に向けた準備を支援し、日本の投資家や企業とのマッチングを行うプログラムを直接実施しています。この仕事のやりがいは、アフリカのスタートアップと日本の投資家を結びつけることで、途上国に関心を持つ投資家と、資金不足に苦しむアフリカのスタートアップのギャップを埋め、日本とアフリカの架け橋となることができることです。
アフリカには大きな可能性を秘めたスタートアップ企業が数多くありますが、日本からの投資は限定的です。2021年時点で、アジア太平洋地域からアフリカへの投資は世界全体の9%にとどまっており、その規模は非常に小さいです。物理的な「距離」に加え、アフリカに関する情報が不足していることや投資のハードルが高いことによる心理的な「距離」も影響していると考えています。UNDPは世界中に事務所を構えており、現地に根付いた開発機関として、アフリカの投資家や企業と日本などの他国の投資家や企業を結びつける役割を担っています。
アフリカの社会問題の解決に重要な役割を果たすべく、ICTやイノベーションを駆使して成長を続けるアフリカのスタートアップを支援できることは私の大きな喜びです。日本の投資家や企業にとって、アフリカはまだまだビジネスや法制度が未整備な場所ですが、新しいビジネスモデルを試す場所になり得ます。投資という観点だけでなく、日本とアフリカがお互いに学び合い、共に成長していくという意味でも、この取り組みには大きなやりがいを感じています。より詳しい情報は、こちらのUNDPのウェブサイトをご覧ください。
国際関係学部での経験は、現在どのように役立っていますか?
原立命館大学国際関係学部での学びは、アフリカの民間セクター開発分野でのこれまでのキャリア、そしてUNDPへの入職を決意するに至った強い動機づけの基盤となりました。
入学前は、地方で育ち、海外に行ったこともなく、外国人と接する機会もほとんどありませんでした。国際関係学を専攻したのは、もっと世界を見てみたい、そして戦争カメラマンなど、その分野で意義のある仕事をしたいと思ったからです。立命館大学では、様々な人々との出会い、新しい世界の学びを通して、自分の興味や関心について理解を深めることができましたし、英語学習や海外留学を通して、自分の能力を伸ばすことができました。
立命館大学は学生に幅広い機会を提供してくれます。大学で国際関係論という学問に出会ったとき、こんなにも面白い学問があるのかと衝撃を受け、異文化や国際支援、文化人類学について学ぶことにとても魅力を感じました。好きな分野で新しい知識を学ぶことがこんなにも楽しいことなのかと気づくことができました。卒業論文では当時比較的新しい分野であった「ICTを活用した国際協力」について研究するという挑戦をしました。 悩んでいるときにはゼミの先生方にたくさんアドバイスをいただき、助けられました。
また、大学時代に出会った先生方、国際的で意欲的な友人たち、戦場特派員やJICAボランティアの先輩方からは世界の広さを教わりました。 彼らには、大学生の間にバックパックで海外に行くことを強く勧められました。 インドの一人旅へ踏み出す最初の勇気が、アフリカで6年間働くことにつながりました。
他にも、立命館大学には、、キャンパス内では出会うことのない人々から新しい知識を得られる貴重なプラットフォームがたくさんあります。私は立命館大学国際社会で活躍できる人材養成特別プログラム(通称:オナーズプログラム)に参加し、元外交官の方々から、今まで考えたこともなかったような視点や考え方、世界の見方を学びました。
これらの経験を通して、新たな視点を得ることができ、学んだ内容や、1年間のアメリカ留学、バックパッカー、留学生との交流などの国際経験を踏まえて自己分析をしたところ、機会の不平等や経済格差などの問題の是正に繋がるような国際的な仕事に就きたいと考えに到ったのです。
立命館大学での日々を振り返って、国際関係学部はどのような点が魅力的ですか?
原立命館大学の魅力は、幅広いチャンスと発想が得られることです。学びたい、物事をがむしゃらに掴みたいという学生を応援してくれる場所があります。国際関係学部の魅力は、多様な背景を持ちながらも同じ興味を持つ人たちが集まる場所だということです。留学や海外滞在経験のある日本人、海外からの留学生、海外にルーツを持つ人、私のように海外経験のない地方出身者など、バックグラウンドが異なる学生が集まっています。各自が自分のユニークさを認め合い、互いに許容し合う文化があり、私はその点がとても好きでした。
さらに重要なのは、同じ関心や興味を追求できる仲間に出会えることです。例えば、国際協力、アフリカ、ESGs(環境・社会・ガバナンス)、途上国、海外ビジネス、宗教と文化の関係、文化人類学など、同じテーマに強い関心を持つ仲間と出会い、クラスや談話室で一緒に興味を追求することができます。これらのテーマは、世界全体で見ればマイナーなテーマかもしれませんが、国際関係学で共に学ぶ仲間たちは、同じ関心を持ち、あなたの背中を押してくれる存在となり、あなたのやりたいことを現実の一歩へと繋げてくれます。私も大学時代、国際協力やアフリカに興味を持つ多くの友人たちと切磋琢磨し、その友人と今でも連絡を取り合ったり、仕事の話をしたりしています。大学では、非常に大切な人脈を形成することができました。
立命館大学国際関係学部への入学を検討している学生や在校生にメッセージをお願いします。
原人生は選択の連続だと思います。どこの大学に行くか、何を学ぶか、大学生活という貴重な4年間をどう過ごすかは、将来の人生に大きな影響を与える選択です。そんな可能性に満ちた皆さんに、2つのアドバイスがあります。
1つ目は、「人生の選択をする際には、常に自分自身がハンドルを握ることが大切」ということです。お金の問題や周囲の意見に左右されたり、選択肢の多さに悩んだりすることもあるかもしれません。しかし、答えは自分の中にあるはずです。自分自身にできるだけ正直になって、たった一度の人生で何をしたいのか、何を大切に思っているのか、何を考えているのかを考えることが大切だと思います。私はノートを片手に、自分は何を大切に思っているのか、何をしたいのかを考える時間を持つようにしています。そして、自分の選択を信じて、選んだ道を「正解」にしていくことが大切だと思います。
2つ目は、「大学時代の4年間をどう過ごすかを設計することが大切」ということです。なぜなら、この4年間は貴重で短いからです。まだ会社に入っておらず、肩書もない大学生だからこそできることがたくさんあります。例えば、様々なバックグラウンドを持つ人と会って話すことが容易にできます。意外とLinkedInなどのソーシャルメディアで丁寧にコンタクトすれば、多くの人が応じてくれるので、自分から色々な人と話す機会を作ってみてください。また、長期間自由に時間を使える時期でもあります。私は、バイトや奨学金で貯めたお金でバックパッカーとして旅をしたり、大学を1年間休学して留学をしたりしました。
大学生活は比較的自由に設計できる貴重な4年間なので、1年生の頃から「大学生活で何をしたいか」を考え、1年ごとに詳細なスケジュールを書いておくことをお勧めします。私はお気に入りのノートを使って、やりたいことを分析し、大学4年間の計画を立てました。貴重な大学生活を有意義に過ごすためにも、広い視野で「どのように過ごしたいか」を改めて考えてみてください!皆さんのご活躍を応援しております。もしご連絡やご質問などがあれば、LinkedInでお気軽にご連絡ください。
2024年12月更新
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