自身の経験を元にキャリア・心理の両面から従業員支援を行う会社を起業。国際関係学部での学びが今の海外事業展開の土台になっていると強く感じます。

福井 千春 さん
Veap Japan株式会社 代表取締役/公認心理師(2009年3月卒業)

株式会社公文教育研究会を経て、エンワールド・ジャパン株式会社へ入社。外資系企業・日系グローバル企業に向けた採用支援・転職支援を行った後、2021年3月に法人向けに従業員支援・メンタルヘルスケアを行うVeap Japan株式会社を創業。2022年に国家資格公認心理師を取得。

現在、どのようなお仕事をされていますか?

福井法人向けに、従業員支援・メンタルヘルスケアを行っています。日本で「メンタルヘルスケア」と言えば一般的には、うつ病や適応障害等、心に不調を抱えてしまった方へカウンセリングを実施する、ということが殆どですが、一度不調を起こしてしまうと長い治療や療養の期間が必要になります。私達は、元気に働いている社会人の皆さんがそのまま元気に働き続けることが出来るために、毎月1回オンラインでお話をお聞きして、必要に応じて所属されている会社の人事や経営者の方とも相談をしながら、社員の皆さんの悩みを解決し、安心して働き続けることができるための支援をしています。毎月ご相談いただいている内容は多岐に渡り、職場の人間関係の問題、部下へのマネジメントで悩んでいること、介護や子育て・ご自身の病気のことなど、プライベートに関することまでご相談いただいています。

前職のエン・ジャパングループでは、転職支援をしていました。多くの方から転職に向けたご相談をいただく中で、職場の人間関係で悩んだり、家庭と仕事の両立が難しくなり、やむなく転職を考えられる方があまりにも多いことに気が付きました。それぞれの方が、今所属している会社で、目の前の問題を解決して生き生きと働き続けることができれば、ご本人にとっても、会社にとっても良いのではないか?と考え、「従業員支援(Employee Assistance Program)」の事業を行う会社を起業しました。

学生時代はどのような大学生活を送られていましたか?

福井米国シアトルにあるワシントン州立大学(University of Washington)に交換留学したり、JICA大阪のイベントで知り合ったスーダン人の友人とともにスーダンの子どもたちの教育支援をする団体を立ち上げたりと、様々な場面で知り合った方々と協力しながら、学びを深め、活動をしていました。学内では新入生を支援する「オリター活動」も行い、下級生のサポートをすることもとてもやりがいがありました。今思えば、下級生の皆さんの悩みをお聞きして少しでも良い学生生活を送ってもらうために支援をすることは、現在の仕事にも繋がっていると思います。

卒業後、現在のお仕事に就かれるまでのキャリアを教えてください。

福井前述のスーダンの子どもたちの教育支援の活動をきっかけに、国内外の子どもたちの教育を支える仕事がしたいと考えるようになりました。そこで、46の国と地域で公文式教室を展開するKUMONへの就職を決めました。結果的には海外の仕事には携わることはなかったのですが、日本で公文式直営教室を立ち上げたり、指導者の皆さんのサポートを行う仕事をしていました。とてもやりがいのある仕事だったのですが、当時私の母が末期癌を患っており、家庭と仕事の両立が難しくなるとともに自身も心と身体に不調が出てしまい、やむなく退職し、しばらくは自宅で母の看病を行いました。

母との十分な対話が出来てお見送りをした後、自分の今後のキャリアを再度考えていた時期に、友人から「人の悩みをお聞きするのがすごく得意だと思うので、転職支援の仕事はどう?」と勧めてもらい、国家資格キャリアコンサルタントを取得し転職支援を6年程行いました。

その後、自分自身がキャリアの序盤で心と身体に不調をきたしてしまった経験と、多くの社会人の方が悩みを抱えながらお仕事をされていることに目の当たりにした経験をもとに、Veap Japan株式会社を起業して今にいたります。家庭と仕事の両立が難しくなったり、無理をしすぎて心や身体に不調をきたしてしまう方とお話するたびごとに、20代の自分を思い出します。当時の自分は、周りの人に相談したり、専門家の手助けを得ることは思い浮かびませんでした。日本で働く多くの方はまだまだ相談先がない状況だと思います。私達専門家が身近にいて、気軽に相談をしていただけることで、不調をおこしてしまう方を一人でも減らしていきたいと思っています。

国際関係学部での学びや経験が現在の仕事で役立っていると感じられる場面はありますか。

福井現在は日本で働く方の支援を中心に行っていますが、今後は海外で働く駐在員の方の支援や、現地スタッフの方も含めた支援をしていきたいと思っています。具体的には、台湾にはビジネスパートナーがおり台湾での法人の立ち上げを目標に事業構想を進めているのと、タイとベトナムでも今後事業を展開する予定です。2024年は台湾・韓国・タイへ出張に行き、現地視察をしてきましたが、日本人駐在員と現地のスタッフの方が共に仕事をしていく上では、高度な異文化理解と異文化コミュニケーションが改めて必要だと感じました。

国際関係学部では、様々な国から学びに来ている学友たちと英語でコミュニケーションしながらお互いの文化やコミュニケーションスタイルの違いを感じつつも相互理解を深める方法を体当たりで学び取っていきましたが、自分のその経験が今の海外事業展開の土台になっていると強く感じます。国際関係学部の魅力は、語学力と専門領域の知識を身に着けることができるということはもちろん、異文化理解・異文化コミュニケーションという今後グローバルに仕事をしていく上での必須のスキルを体当たりで身に着けることができることだと思います。学問だけではなく、血肉となる経験はかけがえのない財産になります。

今後の展望を教えてください。

福井先に述べた、台湾・タイ・ベトナムでの海外事業展開に力を入れていきます。まずはアジアからと考えていますが、イベント参加をきっかけにオランダ領事館との繋がりが出来たことから、ヨーロッパ・アフリカも視野に入ってきました。また同時に、海外から日本に来て仕事をされる方への母国語での支援もしていきます。小さい頃から英語に親しみ、国際関係学部で学んだ経験と、公認心理師となり心理職として従事している現在の立場を掛け合わせて、グローバルな規模でメンタルヘルスケアができることになれば、自分のこれまでの経験が全て一本の線で繋がるような気持ちになります。自分はカウンセラーと同時に会社の社長でもあり、事業運営は大変なこともありますが、自分自身のセルフケアも忘れず、多くの方の心と身体の健康に貢献していきたいです。

国際関係学部の後輩へメッセージをお願いします。

福井私は卒業後、教育業界で5年・人材業界で6年、その後メンタルヘルス領域へ、というキャリアを歩んできました。国際関係学部の学友たちの中には卒業後入った会社や機関で今までお勤めの方もいらっしゃいます。そんな学友たちと比べて、自分は遠回りのようなことをしてきたのだろうか?と感じることもあります。そのたびに思い出すのは、国際関係学部でゼミに所属させていただきお世話になった故・安藤次男先生の言葉です。「やりたいことにはね、そんなにすぐにたどり着かなくてもいいんだよ。じりじり、やりたいことに近づいていくのが現代のキャリアの築き方だよ。」と言ってくださったのでした。卒業後2年ほどしてから安藤先生にいただいたその言葉を胸に、「そうだ、ゆっくりとでも自分のやりたいことに近づくといいんだ」と自分に言い聞かせてここまでやってきました。皆さんも、自分の道は本当にこれでいいのか?と迷ったり、本当にやりたいことがなかなか見つからないと焦ったりすることもあると思います。それでも、「じりじりと、やりたいことに近づいていくことができれば」良いのだと思います。どんな経験も糧になり、その後の自分の力に変わります。焦らず、ゆっくりご自身の道を見つけていってください。心から応援しています。

もう一つ、安藤先生がくださった言葉で思い出深いものがあります。それは私の「言葉」について褒めてくださったものです。「あなたはいつも、相手に届きやすい言葉のボールを投げている。いつなんどきもだ。それは簡単にできることじゃない。」今、言葉を使って仕事をしている自分の糧となっている宝物のような言葉です。皆さんも、素晴らしい先生や、学友とのやりとりの中で、忘れられない大切な言葉をもらったら、どうかずっとお守りにしてくださいね。迷った時や立ち止まった時に、それが皆さんを支えてくれることと思います。

2025年2月更新

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