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2019年度(2020年3月)の卒業式は新型コロナウィルス予防対策のため中止となりました。本学園の歴史を紐解くと、それより51年前(1969年3月)には、「学園紛争」により一部法・文両学部の卒業式が中止されていることが分かります。
「卒業する諸君へ」は、この卒業式が最後となった末川博総長が、「はなむけ」のことばを送ることができなくなったため、印刷して五千三百余名の全卒業生に贈ったものです。この文章の末尾に以下のことばがあります。
「ともあれ、諸君は、未来への展望をいだいて学園を去つて行く。それとは逆に、私は、思い出すことの多い回顧を胸にこの学園を去つて行く。一九四五年秋、敗戦の直後に立命館学園教学の重責を担うて以来まさに二三年有余。世界も日本も大きく変転し、学園もジグザグと激しい推移の道をたどつてきた。そして私も、齢を重ねてこの三月任期満了とともに学園を去る。時勢の流れを見まもつて感慨無量。未来に生きる諸君の洋々たる前進を祝福し、諸君の自重と健康を祈つてやまない。」
この資料など末川先生が生前から本学図書館にご寄贈されていたもの、御遺族からあらためて寄贈いただいたものが、平井嘉一郎記念図書館に所蔵する特別コレクションのひとつである「末川文庫」です。
『立命館大学図書館蔵末川文庫目録』に掲載された乾昭三法学部教授(1990年にこの目録が刊行された当時)の解説によれば、同文庫には以下の5つの特色があります。総じて末川先生の研究上または教育上必要な書物が大半を占めており、先生が実践的な読書家であったことが分かるとのことです。
- 末川先生の全著作が網羅されていること
- 河上肇博士(経済学者、末川先生の義兄)関係の著作が多いこと
- 大正期から昭和期の民法学の著作がほとんど揃っていること
- 中国・朝鮮・フィリピンをはじめアジア関係の著作が目立つこと
- 人権擁護に先生が熱心であったことから、冤罪再審事件や労働運動弾圧事件に関する裁判資料が少なくないこと
同文庫所蔵で先生が1964年に刊行した著作『時と人を追うて』の中の一節「未来をつちかうもの」に以下のようなことばも記されています。
「つかの間の栄光ではなくて、永遠の栄光と福祉。それをわれわれは求めなければならない。未来を信じ未来に生きる、そこに若い人たちの生命があるのだ。その未来と生命を自ら汚してはならず他から奪われてもならない。若い人たちは、現実の冷厳さにたえて、未来をつちかうために世界を見るべきである。」
この文章の中の「未来を信じ未来に生きる」のことばは、それよりも前、1953年に建立された「わだつみ像」の台石に刻まれており、現在、衣笠キャンパスの一角にこのことばを刻んだ記念碑も建てられています。当コレクションを通じて、末川先生の往時の考えや思いについて考える機会となりましたら幸いです。
なお、本学史資料センターホームページの「立命館あの日あの時」に、当時の状況と「卒業する諸君へ」の詳細な解説が掲載されています。下記URLをご参照ください。
<学園史資料から>1968年度卒業生に送られた末川総長の手紙
参考文献(所蔵情報は書名をクリックしてご確認ください)
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