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【開催報告】産官学の視点で「ケア×社会」を再考する ——「超領域リベラルアーツ サロン in ROOT」を開催
2026年2月4日(水)、立命館大学が大阪・うめきたエリアに開設した新拠点「グラングリーン大阪 ROOT」にて、スピンオフイベント「超領域リベラルアーツ サロン in ROOT」が開催されました。
本イベントは、2025年度秋学期に開講された超領域リベラルアーツ科目「ケアする人のケア(ケアラー支援)から問う新しい社会デザイン」の発展企画であり、2025年度GPSP(R2030 推進のためのグラスルーツ実践支援制度)に採択されたプロジェクト「超領域リベラルアーツ × 立命館アカデミックセンター:知の交差点から共創する社会人教養教育の未来」により実施されたものです。
当日は、授業を受講した学生に加え、企業、行政、NPO関係者など約30名が集結。JST-RISTEX(社会技術研究開発センター)採択プロジェクト「ケアの葛藤によりそい、ケアラーの社会的孤立・孤独を予防する包括的支援システムの構築」とも連動し、デジタル技術や企業のパーパス経営といった多様な視点から、ケアラー支援と新しい社会のあり方について語り合いました。
[写真0:会場全景や参加者が集まっている様子]
◼️「21世紀の難問」に挑む、超領域の学び
冒頭、教養教育センター長の山中司先生(生命科学部教授)が登壇し、本イベントの趣旨を説明しました。山中先生は、21世紀の社会課題は単一の専門分野だけでは解決できない「難問」ばかりであると指摘。「学部の学びを相対化し、異なる知恵を持ち寄ることでしか解決できない問題がある」と述べ、文理の枠を超えて多様なバックグラウンドを持つ参加者が集う本サロンの意義を強調しました。
[写真1:山中先生の挨拶の様子]
続いて、本テーマの核となるJST-RISTEXプロジェクト代表の斎藤真緒先生(産業社会学部教授)より、ケアラー支援の現状についての話題提供がありました。斎藤先生は「ケアは福祉だけの問題ではなく、私たちの日常や働き方、企業活動とも密接に関わるテーマ」と語り、この場が学生と社会人、研究者と実践家をつなぐネットワークの起点となることへの期待を寄せました。
[写真2:斎藤先生が話している様子]
◼️企業が「ケア」に取り組む意義とは? —— 日本イーライリリー株式会社
製薬企業である日本イーライリリー株式会社(神戸市)のコーポレート・アフェアーズ本部、企業広報課長・川副祐樹様にご登壇いただきました。同社が2022年から展開している「ヤングケアラー リエゾンプロジェクト」についてご紹介いただきました。
[写真3:日本イーライリリー 川副様のプレゼンテーション]
川副様は、製薬企業がなぜ直接的な医薬品の開発だけでなく、ヤングケアラー支援に取り組むのかという問いに対し、「患者さんを支える家族もまた、豊かな人生を送れる社会であってほしい」という企業のパーパス(存在意義)に基づく活動であることを説明されました。
同社の活動は、「直接支援」ではなく、支援団体や行政、学校などをつなぐ「リエゾン(架け橋)」としての役割に徹しているという点でユニークです。専門家の知見を尊重しつつ、企業のリソース(社員ボランティアや発信力)を活用して社会的な認知を広げるこの取り組みは、社員のエンゲージメント向上にも寄与しており、企業と社会双方に価値を生むモデルケースとして参加者の関心を集めました。
◼️テクノロジーが拓くコミュニケーションの可能性 —— 京セラドキュメントソリューションズジャパン株式会社
続いて、京セラドキュメントソリューションズジャパン株式会社のマーケティング統括部、東京マーケティング部部長・原康二様より、字幕表示システム「Cotopat(コトパット)」を例とするテクノロジーとケアの関係性に関するお話しをいただくとともに、実機のデモンストレーションが行われました。
[写真4:京セラドキュメントソリューションズ原様のプレゼンテーション]
Cotopatは、話した言葉がリアルタイムで透明スクリーンやタブレットに字幕として表示されるシステムです。元々は聴覚障がいのある方とのコミュニケーション支援から開発がスタートしましたが、現在はその翻訳機能を活かし、言語の壁がある外国人との対話にも活用が広がっています。
原様からは、この技術が「言葉のヤングケアラー(日本語が話せない親の通訳を子どもが担うケース)」の負担軽減や、教育現場での多文化共生に寄与する可能性についてお話しいただきました。「技術によって、誰もが孤立せずにつながれる社会を作りたい」というメッセージと共に、実際に会場でその精度とスピードを体験する機会が設けられ、多くの参加者が最新技術に触れました。
[写真5:Cotopatの実機デモの様子、スクリーンに文字が表示されているところ]
◼️世代や立場を超えた対話 —— グループワークと交流
[写真6:グループワークで議論する参加者の様子]
各トークセッションの後には、学生、企業人、研究者が混ざり合ったテーブルで、「なぜケアラー問題に関心を持ったのか」「企業の取り組みをどう感じたか」について活発な意見交換が行われました。
ディスカッション後の発表では、参加者から以下のような鋭い気づきや感想が共有されました。
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企業の社会的責任の捉え直し
「企業活動=利益追求というイメージがあったが、ボランティアや社会貢献が結果として社員のやりがいや企業価値の向上につながる『三方よし』の仕組みになっていることに驚いた」 -
支援の手前の「関係性」の重要性
「困ったときに相談できる関係性がなければ、どんな制度も届かない。制度以前の、人と人とのつながりをどう作るかが重要だと感じた」 -
「見えにくい」ケアへの視点
「移民家庭における子どもの通訳など、家庭内で当たり前とされていることが、実はケアの負担になっているケースがある。当事者が『自分はケアラーだ』と認識していない場合も多く、社会がいかに気づけるかが課題だ」
また、会場での熱い議論に加え、オンライン上では合意形成プラットフォーム『Liqlid』(開発:株式会社Liquitous)を活用し、リアルタイムでのテキストによる意見交換も行われました。
[写真7:Liqlidの画面]
◼️「知の交差点」から生まれる新しいアクション
会の最後は、ピザを囲んでのネットワーキングタイム(交流会)となりました。授業という枠組みを超え、学生が企業の担当者に直接質問を投げかけたり、異なる学部の学生同士が連絡先を交換したりと、終始和やかな雰囲気の中で交流が深まりました。
今回のサロンは、大学の教室の中だけでは完結しない「生きた学び」の場となりました。ケアという切実なテーマに対し、アカデミアの知見、企業の技術と組織力、そして学生の柔軟な感性が交わることで、新しい支援の形や社会デザインのヒントが見えてきたのではないでしょうか。
立命館大学超領域リベラルアーツでは、今後もこうした「知の交差点」を作り出し、社会と共創する教養教育の未来を切り拓いていきます。
【開催概要】
- イベント名: 超領域リベラルアーツ サロン in ROOT
- 日時: 2026年2月4日(水)
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会場: 立命館大学 グラングリーン大阪 ROOT
(〒530-0011 ⼤阪市北区⼤深町6 番38 号 グラングリーン⼤阪 北館 JAM BASE 5階) - 主催: 立命館大学超領域リベラルアーツ
- 協力: JST-RISTEX「ケアの葛藤によりそい、ケアラーの社会的孤立・孤独を予防する包括的支援システムの構築」
- 運営: 一般社団法人インパクトラボ