この問題、あなたならどうする?
自分が高齢者になったら誰が介護してくれるのだろうか
皆さんは、自分の老後、誰が介護してくれるか、青写真は描けていますか。自分の子どもが見てくれる、行政が何とかしてくれる、と思っていませんか。高齢者介護は、メディアで取り上げられない日がないくらい深刻な問題であり、介護現場の人たち、家族介護者、有識者、公務員、政治家らが毎日どこかで議論をしているホットな政策課題です。
- 問題背景
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老親の介護は長いこと娘か嫁の無償役割とみられていました。日本では2000年から東アジアの他国に先駆けて介護保険制度、つまり介護の社会化の仕組みがスタートしました。
しかし、この制度は、あくまでも家族介護者(特に家庭の主婦)負担を軽減する補助的なものにすぎず、普遍主義的なスタートを切ったはずの介護保険は、わずか10年で行き詰ることとなります。その要因はまず、要介護高齢者数の増加に比べて、介護労働者の数が絶対的に不足していることです。介護資格をもつ人は相当数いるのですが、労働環境や待遇の悪さが、労働賃金に見合わないために離職する人が多いのです。介護労働者の賃金は介護保険制度から出ていますので、民間企業などとは異なり、高賃金は望めません。なぜ、介護労働者の賃金は一般労働者よりも安価なのでしょうか。それは女性家族であれば誰でもできる無償の作業という社会の思い込みがあるからです。介護労働は本当に誰でもできるような労働なのでしょうか。日本は世界1位/2位の長寿大国ですが、高齢化とともに複雑な難病が増加する現在、医療に続く介護を担う労働者には高いスキルが求められます。認知症などはその典型でしょう。介護は感情労働なのです。
次に、家族介護者はどうでしょうか。「令和元年(2019年)国民生活基礎調査」によれば、今や主たる家族介護者の3割半は男性となっています。同居の主たる家族介護者の年代をみると、男女ともに50~60歳代が5割近くを占めますが、80歳以上の男性介護者も2割弱おり、同年代の女性介護者の1割弱を超えています。つまり、男性は80歳以上になっても配偶者などの主たる家族介護者である実状なのです。企業において最も責任ある地位にいる50代の男性が介護離職し、本来ならば学業に専念しているはずの小中高生といった孫世代までがヤングケアラーという形で自分の将来を犠牲にして家族介護に関わらざるを得ないことは社会的損失につながります。
介護の社会化が貧しくなると、介護責任は家族に押し戻されます。前掲の「国民生活基礎調査」によれば、要介護者のいる世帯は全世帯の57.1%です。そのうち、最も多いのは要介護者のみの単独世帯(28.3%)で、以下、高齢者夫婦から成る世帯(22.2%)、老親と成人した子から成る世帯(20.1%)、の順になっています。同居家族に依存することのできない「おひとりさま」の要介護者世帯が増加という現状に対して、家族介護の規範をいつまでも強める方向性は、政策的に矛盾しているといわざるをえません。
- 思考のヒント
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このような現状では、高齢者介護をめぐって行政と家族が責任を押し付け合っているようにしかみえません。好循環な政策を形成していくにはPDCAサイクル(計画→実行→評価→改善)に基づいた論理的思考が必要になります。また、高齢者介護は、果たして行政と家族、介護保険制度のなかだけの狭い範囲での課題なのでしょうか。私たちは高齢者介護を社会構造全体の問題として多角的に、包括的にとらえる必要があります。
- 政策科学部での学び
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高齢者介護問題を政策科学として学ぶには、多角的なアプローチが必要です。たとえば、介護の担い手を考えるのであれば、地域の役割があります。自治会、ボランティア、NPOなどによる活動は、専門知識の必要な介護でなくても、生活支援、見守り、レクリエーションなど、重度介護になる前の介助や介護予防につながる活動ができます。医療従事者、介護施設、介護事業所、町内会・自治会と高齢者宅をつなぐ活動も可能で、これは2013年に「地域包括ケアシステム」として定義され、困難ですが2025年の構築を目標に実践はされてきています。
また、今後は介護に関わる市民を増やしていくことが重要です。ナンシー・フレーザーという研究者は、老若男女関わらず、一般市民が誰かのケアに関わる市民社会の必要性を示唆しています。ヤングケアラーになることは、その子どもの将来を脅かしますが、あらゆる市民が日常生活のなかで誰かしらのケアに関わる社会になったらどうでしょうか。介護役割を誰かに集中させるのではなく、分散させるのです。介護は過重負担になると虐待や心中・殺人にまで発展しますが、誰もが少しずつ介護に関わることが当たり前の日常は、介護の担い手・受け手の双方を幸せにします。そのためには、私たちの生活時間を見直す必要があります。日本の夫婦の平日の睡眠時間は欧米の夫婦に比べると2~3時間短いです。それにも拘わらず、GDP(国内総生産)はG7で最下位となっています。生産性の低い長時間労働から解放されることもまた、ゆとりある質の良い介護の担い手を増やすことになるのです。
もちろん、グローバルな視点から見れば、諸外国では、外国人(在宅)介護労働者の雇用や介護ロボットの活用が進んでいます。しかし、外国人やロボットに頼ることも介護の量はともかく質の面で多くの課題が指摘されています。介護・ケアは人権や幸福の社会保障と関わっています。介護の担い手と受け手の双方がどのような状況であれば、ゆとりと安寧のなかで日常生活を送ることができるのか、政策科学部では包括的にアプローチすることが可能です。