この問題、あなたならどうする?

なにに価値を置き、なにを守りたいのか。 私たちは、互いに理解しあえるだろうか。

大切な人の“大切なものを守りたい”と思ったことはありますか?では、見ず知らずの人の“大切なもの”に想いを馳せたことはありますか?多様な価値観を認め合うために私たちは互いに何を大切にしたらよいのでしょうか。その手がかりを震災復興のまちづくりから考えていきます。

問題背景
震災で帰る場所を失った人は、もう故郷には帰れないのでしょうか。

2011年3月に東北で起こった地震はこれまでとは違い、地震による家屋の倒壊に加えて、津波と放射能汚染という被害を残しました。地震が起こると家屋が倒壊するため、同じ場所に住むことは難しくなりますが、また家を建て直せば元の場所に住めるようになるかもしれません。しかしながら、放射能汚染を受けた地域では汚染により半永久的に元の場所に住むことはできなくなりました。

地震や災害が起こると『避難してまた別の場所に住めばいい。同じ場所に住むことにこだわる必要はあるのか。』という議論がしばし起きます。果たしてそのような考えでよいのでしょうか。これまで積み重ねてきた思い出や思い入れ(人の記憶、歴史、文化など)は、そう簡単に消せるものなのでしょうか。その人が何に価値を置いているのか、何を大切に思って生活しているのか、考えてみたことはありますか?では、その人が何に価値を置いているのか、じっくりと聞いてみたことはありますか?一人一人考えが違う中で、全体として考えるべき政策と個々に寄り添う政策は両立することができるのでしょうか?

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思考のヒント
「あの人はきっとこう思っているだろう。」とついつい自分の目線で物事を考えがちですが、果たしてそれは本当なのでしょうか。よく話を聞いてみると実は違った、という経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。お互いにきちんと話をしてみる、相手の話に耳を傾けることからコミュニケーションが始まり、コミュニティ形成が成されるのではないでしょうか。
政策科学部での学び
私たちの研究では、人々の小さな声に耳を傾け、その地域に寄り添った再生戦略を地域住民とともに検討しています。一方で、SNSや新聞記事などのビッグデータを分析することで、多くの人々の意識構造も把握しています。また意識構造を分析することで、情報伝達の在り方や汚染による環境リスクの懸念より生じる心理的ダメージを削減する手法を探っています。

原発事故から10年以上が経過した福島では、避難によるコミュニティの喪失と原発事故による土壌汚染に起因する風評被害によって、より一層の人口減少が起こっています。特に農作物への嫌悪感は顕著であり、情報伝達が正しくなされていなかったこと、風評被害が発生する原因が十分に検討されてこなかったことが影響し、生産者と消費者、被災地域とその他の地域の乖離が生じ続けています。特に福島は被災以前から過疎地域であったことから2017年の避難指示解除後も帰還率は低く、長期間、放置されたコミュニティの再生風評被害の払拭負のイメージ転換をどのように解決していくのか、中長期的な視点をもった学術的検討が急務です。

震災以前から既に過疎地域であった福島では、人口減少時代にどうしたら『豊かに暮らせるのか』といったことは長年検討されてきました。しかしながら、放射能汚染に起因するシビアな土壌汚染問題が引き起こす負のイメージ払拭と過疎地域のコミュニティ喪失問題の課題を同時に解決する地方再生政策は提示されておらず、震災後、帰還した一部の住民が手探りで生業を続け、伝統や生業、歴史や文化を繋いできたに過ぎません。この地域に住む人々がなぜここに住み続けたいと思っているのか、本当の豊かさとは何か、を知るために、私たちの研究室では、 現場の声を拾い集めることから震災復興まちづくりの再生政策を考えています。

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執筆者紹介

山出 美弥 准教授
YAMADE Miya

専⾨分野:都市計画、まちづくり、コミュニティ・デザイン
学系:環境開発系

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