この問題、あなたならどうする?

ふるさとの海を見ながら生きるか、高い堤防に守られながら生きるか。

2011年に発生した東日本大震災後に、政府は将来の津波に備えて、被災地を数十年から百数十年に1度発生する津波を堤防で守ることを基本とする計画(高いところでは15メートル程度)を立てましたが、反対意見も出ており、計画を変更する地域も出てきました。なぜ安全を追求する計画が頓挫するのでしょうか。

問題背景
復興という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか。元の状態に戻すという復旧とは違い、復興は人それぞれで思い描くイメージが異なります。もっと安全な街が良いという意見もあれば、生まれ育った町が堤防に囲まれ海が見えなくなると、それはもはや故郷ではなく大切なものを失ったという喪失感を覚える人もいます。次なる津波に備えて要塞のように街を守ることで、地域の景観や慣習などが変わることで重要な心の拠り所を失ってしまうのです。次なる災害へ備えて安全を確保することは重要ですが、それだけでは街の復興を紡ぎ出すことができません。堤防計画には他にも漁業という生業の継続という経済的側面からの反対など多様な意見があります。

また被災後という、いつもとは異なる状況で意思決定しても、後で冷静になった際に後悔することもあります。災害については、被害を受けることを前提として、冷静な判断ができる被災前に復興について考える事前復興という考え方も重要です。多様な価値が交錯する復興ですが、政策として実施できるのは1つのみで、一度決定すると多くの人が影響を受けることから、後から修正することは容易ではありません。

[この問題]③堤防写真01
思考のヒント
政策課題の解決は、政府だけでなく、そこに住む住民など異なる価値を持つ人々が議論し、そこでの解を見つける営みです。誰が議論に参加し、いつ、どのように街の将来を決めるのか、様々な試みが実施されています。他の場面にも広げると、誰が参加するべきか、いつが参加しやすいのか、どうやって決めるのか(行政などで決めるトップ・ダウン、地域コミュニティで決めるボトム・アップ、さらにそこでの決め方についても多数決や合意形成など)など、意思決定にあたっても様々な側面を考える必要があります。皆さんの周りの決め事はどのように決めているでしょうか。それは皆さんにとって納得のいくものか考えてみてください。

[この問題]③堤防写真02
政策科学部での学び
政策科学部はグループディスカションなどを通じて異なる価値をもつ人々を尊重し理解するとともに、どのように決めていくのかについて学ぶことができる学部です。現実の社会問題における意思決定方法について学ぶだけでなく、少人数演習において様々な学生などとの社会問題に関するディスカッションを通じて、多様な考え方を知り、どの様にまとめていくのかを経験することができるなど、社会に出た後の意思決定に関わる実践力を身につけることができます。

執筆者紹介

豊田 祐輔 准教授
TOYODA Yusuke

専⾨分野:防災まちづくり、防災教育、観光防災
学系:環境開発系

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