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比較福祉国家研究者スタイン・クーンレ教授による講演会を開催~経済のグローバル化と高齢化によって共通の課題を抱える北欧と東アジアの福祉国家の現状~

政策科学研究科においては、東アジア・東南アジアからの留学生が英語基準・日本語基準で数多く学んでいますが、政策のアジア的な特徴とは存在するのでしょうか。アジア的な特徴とは、国際比較を通してその立ち位置がみえてくることがあります。

政策科学研究科では2016年11月3日(木)にOIC総合研究機構地域情報研究所との共催で比較福祉国家研究の第一人者であるスタイン・クーンレ教授をお招きして、“Globalization and Development of Social Policy in a Perspective of European and East Asian Experiences”というタイトルのもとでの講演会を開催しました。

ク―ンレ教授は、ノルウェー国立ベルゲン大学比較政治学部教授であり、同時にこれまで、中山大学(広州)名誉教授、南デンマーク大学福祉国家研究センター名誉教授等を歴任し、現在は復旦大学(上海)名誉教授も務めてこられました。近年は東アジア諸国との比較研究をおこなっており、2016年10月22日から11月11日まで、日本学術振興会 外国人招へい研究者として、立命館大学OIC総合研究機構地域情報研究所に滞在されました。

講演ではまず、西(欧米)と東(東アジア・東南アジア)における社会福祉や国家の役割に関する理念の相違が歴史的アプローチから説明されました。たとえば、西では個人が全てであるのに対し、東では個人はシステムの一部にすぎず、また、西では福祉は権利と結びついた「契約」であるのに対し、東では福祉は施しと結びついた「憐み」と考えられているということです。ゆえに、クーンレ教授は、東において社会保障プログラムは西よりも低いレベルから導入が進んだが、1985年~1995年の経済成長期においては福祉が拡大し、1997年の経済危機によって国家の福祉的責任は下降もしくは水準変更されたことを指摘しました。そして、現在の西と東に共通な福祉的課題とは、グローバル化(もしくは脱グローバル化?)による経済危機、人口の高齢化、国際人口移動、労働市場構造や家族構造の変化、社会的不平等であるが、福祉国家として十分に発達し、合意によるガバナンス形態をとる国家(北欧)には多少の利点があるものの、アジアもまた、受容力の高さを活かしてこの課題を乗り越えられるであろうと締めくくられました。

フロアからは、インドネシアや中国からの英語基準プログラムの院生による自国の将来に関する活発な質問が相次ぎました。クーンレ教授はそれらの質問に丁寧に回答され、従来の福祉国家論の枠組みを超えたグローバル化時代における西と東の知識共有の必要性を参加者全員が認識したところで閉会しました。

政策科学研究科では、欧米中心の理論枠組みから一旦距離をおいたうえで、アジアにおける諸政策を眺めることによって、新たなアジアの政策像を打ち出していくことに、近年力を入れています。今回のクーンレ教授の講演会はその過程としての国際比較の重要性を改めて認識させるものとなりました。

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