Ⅲ.生産年齢人口減の克服

センサ・マイクロマシンがつなぐ
革新的サイバーフィジカルシステムモデル
の医療健康分野への展開

プロジェクトリーダー
理工学部機械工学科 小西 聡 教授 (写真 右中)
グループリーダー

生産年齢人口減少の課題克服に寄与する
医療・健康に寄与するCPSモデルを提示する

プロジェクト概要

「働き手の健康寿命延伸」と「創薬/機能性食品分野の生産性向上」
二つを応用ターゲットとして研究を推進

日本における生産年齢人口は1995 年をピークに減少の一途を辿っており、2030 年には7000万人を大きく下回ると予想されています。生産年齢人口の減少は、産業・経済の発展にも大きな影響を及ぼします。この課題に対し、本研究プロジェクトは、とりわけ医療健康分野に求められる革新的な「サイバーフィジカルシステム(CPS:Cyber Physical System)」によって労働の質と生産性の向上に寄与することで解決策を提示しようとしています。

CPSとは、IoTによってあらゆる「モノ」がインターネットに接続される現代において、サイバー空間と実世界(フィジカル空間)を緊密に連携させ、新たな価値を創造する仕組みのことです。立命館大学は、CPSの実世界に近いエッジ、すなわちフィジカルとのインタフェースで用いるセンサやマイクロマシンに関して世界的な研究開発力を有しています。この強みを最大限活かせるターゲットとして、「働き手の健康寿命延伸」と「創薬/機能性食品分野の生産性向上」という二つのテーマを設定しました。前者では、生体の健康状態(フィジカル)とコンピュータ・インターネット(サイバー)をつなぎ、後者では、培養生体モデル(フィジカル)とコンピュータ・インターネット(サイバー)をつなぐことで、医療・健康に寄与するCPSモデルの構築に挑みます。

センサ・マイクロマシン技術を基盤に新製品・サービスを創出
マネジメント手法を取り入れ、社会実装を目指す

センサ・マイクロマシンがつなぐ医療健康モニタリングセンサ・マイクロマシンがつなぐ
医療健康モニタリング

本研究プロジェクトの特長は、文理融合で先進的な製品・サービスを創出するだけに留まらず、マネジメント手法を取り入れ、社会実装まで視野に入れるところにあります。マネジメントを専門とするグループと、「働き手の健康寿命延伸」と「創薬/機能性食品分野の生産性向上」にそれぞれ焦点を当てる二つのグループ、さらにキーテクノロジーのセンサ・マイクロマシンを研究開発するグループの四つが有機的に連携し、独創的な研究を推進します。

まず徳田グループでは、経営学を専門とする徳田を筆頭に、MOT や心理学、法学の専門家が結集。心理学における「TEM(複線経路・等至性モデル)」や製品デザインの意味論など各分野の知見を集め、社会からサービス、製品まで多様なフェーズで価値を発揮するCPS デザインとはどういうものかを研究し、新たなCPS モデルとして「社会的価値システム・デザインモデル」を構築。この革新的CPS モデルを意識して他の3 グループが研究を推進することにより、社会実装可能性の高い製品・サービスの開発を可能にします。また、医療健康分野に適応されるCPS の性能を評価するための国際標準規格の構築にも取り組みます。日本において各産業分野や業界団体が独自に作る標準は、欧米の汎用性の高い標準にそぐわないことが少なくありません。本研究プロジェクトから生み出す製品・サービスを世界標準として普及させるためにも、世界に先駆けて日本のアカデミア発「医療健康分野のCPS の性能評価」の国際標準規格の構築を進めます。

次に藤田(聡)グループは、「働き手の健康寿命延伸」に関わる研究に取り組みます。まず、小西グループが開発するセンサ・マイクロマシン技術を活用して身体活動量や唾液、汗、血液に含まれるタンパク質などの生化学データを取得し、身体活動量や栄養状態を把握する新しいウェアラブルデバイスを開発します。さらにそれを使って一人ひとりの健康状態を把握するオーダー・メイドのモニタリング・フィードバックシステムの構築に挑みます。これが実現すれば、個別健康データを基にした運動栄養介入プログラムの作成や遠隔での運動指導も可能になります。次に、働き手の労働の質を高めるため、「からだ活性化」を可能にする手段の開発を進めます。焦点を当てるのが、間葉系幹細胞です。藤田(聡)はこれまでの研究で、間葉系幹細胞を投与すると骨格筋肥大を導く細胞内シグナルが亢進することを見出しています。本グループでは、さらに温熱刺激によってレジスタンス(抵抗)運動による間葉系幹細胞の活性化を高め、筋損傷の回復を促進できるかを検証します。

続いて「創薬/機能性食品生産性向上」に寄与する研究開発を担うのが藤田(卓)グループです。薬学的視点から新しい医薬品や健康食品の可能性を早期に判断し、開発のスピードアップに貢献する研究に取り組みます。一つには、iPS 細胞技術を用いた生体機能チップ“Organon-a-chip(OoC)”の開発です。OoC は、細胞を培養したり、組織・臓器を微小環境で模倣できることに加え、複数の微小臓器を連結すれば、臓器間の相互作用や応答をリアルタイムに観測することも可能になります。これまで小西グループと連携し、マイクロアクチュエータを利用した人工腸管や人工血管システムなどの生体模倣システム(MPS:Microphysiological System)を構築してきました。これらを活用し、医薬品開発で医薬品候補化合物の消化管吸収性などを評価するスクリーニングシステムのデバイスを開発し、実用化を目指します。二つ目として、機能性食品を摂取した際の肝機能や筋細胞機能の応答性、運動(電気刺激)による筋細胞の応答が肝臓に及ぼす影響を自動でモニタリングするスマートスクリーニング技術の開発も試みます。

最後の小西グループでは、徳田グループが提唱する、社会に受容され、消費者ニーズに応え、かつ社会実装可能なセンサ・マイクロマシン技術を開発し、藤田(卓)、藤田(聡)両グループの研究を技術面から支えます。センサ・マイクロマシンは、CPSのブリッジ的役割として生体とのインタフェースを担うエッジデバイスに位置付けられます。遠隔運動指導に伴う生活習慣のモニタリングに必要なエッジデバイスを開発し、藤田(聡)グループの研究に活用。生体モニタリング(センシング)技術を用い、いつでもどこでも生体情報を取得できるウェアラブルマイクロマシンを実現します。またマイクロマシンチップ上に生体反応系や培養細胞組織を構築するOoC 技術を活かし、藤田(卓)グループと共に薬物や機能性食品の消化系や血管系の動態を分析するバイオハイブリッド型エッジデバイス・システムの構築にも取り組みます。

DX を超えて、サイバーとリアルが融合する社会において
人類共通の課題を解決し、地球共生社会の実現に貢献したい

今まさに私たちが直面している「With コロナ」の世界では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を超えて、総務省が述べる「人間の生命保護を前提にサイバー空間とリアル空間が完全に同期する社会へと向かう不可逆的な進化」によって、「新たな価値を創出」することが求められます。本研究プロジェクトを通じて新しいCPS を構築することでその問いに答え、人口・年齢構成の変化という人類共通の課題を解決し、地球共生社会の実現に貢献したいと考えています。

研究期間

2021年度〜2025年度(予定)

本プロジェクト構成

本研究プロジェクトが目指す成果イメージ図