Ⅰ.地球の自然環境の復元

物質の時空間制御を実現する有機資源の有効活用

プロジェクトリーダー
生命科学部応用化学科 前田 大光 教授 (写真 中)
グループリーダー

物質の時空間制御によって
既存を凌駕する新しい機能性物質を創製する

プロジェクト概要

有機合成化学によって、地球環境保全に寄与する
革新的な物質、機能性材料の創製をめざす

気候変動や環境汚染など地球の存続を脅かす問題が噴出する今、世界中で地球環境の保全に向けた取り組みが進められています。そうしたなか、物質やエネルギー、情報などあらゆるものを低負荷で輸送・伝達・変換・保存する革新的な物質や手法が求められています。

本研究プロジェクトは、有機合成化学の力で人類が直面する多くの課題、とりわけ地球の自然環境に関する課題を解決しようとしています。分子の潜在能力を引き出し、従来とは異なる概念で自然環境の復元に寄与する新しい物質の合成、および電子・光機能性を発現する材料の創製をめざしています。

持続可能性を念頭においたとき、課題になるのが限りある資源の有効活用です。現在、機能性有機材料の原料の大部分は、石油や石炭など化石資源が占めていることに加えて、その多くは動力やエネルギーの燃料として使用されています。そこで本研究プロジェクトでは、有機資源の有効活用に力点を置き、限られた資源を効率的に機能性材料へと変換する方法を探ります。

このプロジェクトは、第3期R-GIROで取り組んだ「有機生命資源の有効利用による電子・光機能材料の創製」プロジェクトを発展させるものです。第3期では物質の「空間制御」に焦点をおいて研究基盤を固めました。今期は新たに「時間軸」を導入することで、さらに多様な物質創製の可能性を広げようと考えています。

構造有機化学、有機合成化学、機能物性化学
異なる専門領域が強力に連携し未踏の研究に挑む

荷電π電子系の規則配列による電子機能化

研究にあたっては、異なる専門領域の3グループが強力に連携し、それぞれの研究成果を融合させることで従来にない成果につなげます。

まず新規物質の創製において先導的な役割を担うのが、前田グループです。前田は有機化合物の中でも二重結合の構造を持つπ電子系に着目し、研究してきました。π電子は動きやすく、導電性や発光性など特異な性質を発揮します。これまでに異なるイオン間に生じる引力を利用し、平面状π電子系アニオンとカチオンを交互に規則的に積層させた電荷積層型集合体の形成に成功。また通常は静電反発によって離れてしまう同じ電荷を持つイオンが高い分散力を利用して積層した、電荷種分離配置型集合体の形成も実施しています。

本研究では、精密分子設計に基づいて分子骨格を精査し、さまざまなπ電子系カチオンやアニオン、イオンペアの合成に取り組みます。さらに分子間にはたらく相互作用を適切に制御することで、個々の分子の性質を大きく凌駕する物性を示す集合体(超分子)を創製し、これまで未踏領域だった電荷間相互作用を利用した機能発現に挑みます。

求める配列制御を自在に実現する有機電荷種の合成・集合化の指針を確立できれば、特異な機能を発現する集合体から新しい液晶やソフトマテリアル、メモリデバイス、半導体や太陽電池など、従来とは異なるコンセプトでエレクトロニクス材料を創り出すことも可能になります。土肥グループの合成技術、小林グループの機能評価技術から得られる知見を融合することで、誰も見たことがない物質を探ります。

土肥グループは、触媒を光や電子と組み合わせて新たな有機合成技術を作り、それを用いて機能性化合物の創製をめざします。土肥はこれまでレアメタルに替わる反応剤として超原子価ヨウ素に着目し、さまざまな合成反応を開発してきました。本研究では、次のステップとして超原子価ヨウ素反応剤が持つ多様な反応性を「時間的に」制御することに取り組みます。超原子価ヨウ素を相互にスイッチングできるしくみを利用して、光や電場といった外部刺激によって反応空間を時間的に制御し、複数の異なる反応を同一反応系・同一触媒系で連続的に進行させる反応システムを作ろうとしています。従来の有機合成反応は、反応ごとに反応容器や反応剤が必要となり、反応の数だけ時間もコストもかかります。時間制御を取り入れることで、廃棄物を出さず、かつ迅速に複雑な機能性有機分子を合成する反応システムの構築に挑戦します。

とくに注力するのは、石油などの枯渇資源に代替して生物資源を活用し、持続可能な合成技術を開発することです。その一つとしてリグニンに注目し、光や電場などの外部刺激を組み合わせた連続的な結合形成反応によって、同一反応系で低分子から、機能性材料の創製につながる中分子へと導くことに取り組みます。また超原子価ヨウ素反応剤を酸化剤として活用。反応混合物に電圧をかけ、電解酸化によって熱エネルギーを使わない新たな有機合成反応の開発も試みます。こうした時空間制御システムで創製したπ電子系分子を前田グループや小林グループへ提供するとともに、小林グループから機能評価のフィードバックを得て改良を重ね、新たな有用物質創出に活かしていきます。

小林グループは、光を照射することで生じる「過渡状態」を活用し、革新的な光機能材料の創出を進めています。物質に光を当てると光エネルギーを吸収し、より高いエネルギー準位(励起状態)へと変わります。この過渡状態には低エネルギーの基底状態とはまったく異なる電子・光物性を示すことに着目し、新たな機能を見出そうとしています。しかしエネルギーを保持できる過渡状態の時間はきわめて短く、わずかナノ(10億分の1)秒程しかありません。小林は、この過渡状態を数分から数十分オーダーで長寿命化することに成功しています。

本研究では、有機分子とナノ結晶間の距離を精密に制御することで、長寿命過渡状態を形成する複合材料を創製。さらに長寿命過渡状態を形成する材料に光を照射し、機能を自在に制御できる革新的フォトクロミック複合体や可視光によって駆動する超還元剤、次世代量子材料の創製をめざします。

世界に通じる若手人材の育成にも尽力
未来の地球を保全し、科学技術の進展に貢献する

本研究プロジェクトでは、若手研究者の育成にも尽力します。専門研究員や博士課程の学生を積極的に支援。先駆的な研究に携わるとともに、論文作成や国際会議での発表など世界にアピールする機会も提供します。若手研究者にとって有効なキャリアパスになるようなインパクトの大きい研究成果を挙げられるよう力強く後押しします。

挑むのは、既存にない物質の創製、革新的な機能性の発現によって、従来の材料を圧倒的に凌駕する機能性材料、次代のゲームチェンジャーになり得る新しいデバイス構造を生み出すこと。研究を通じて地球保全の実現と科学技術の進展に貢献します。

研究期間

2022年度〜2026年度(予定)

本プロジェクト構成

本研究プロジェクトが目指す成果イメージ図