Ⅰ.地球の自然環境の復元

カーボンニュートラル実現へ向けた高効率エネルギー利用技術創成拠点

プロジェクトリーダー
生命科学部応用化学科 折笠 有基 教授 (写真 左中)
グループリーダー

化学・物理・社会科学の融合を推進し、
エネルギー分野でのイノベーション創成へ

プロジェクト概要

エネルギー利用の次世代技術創成と
世界を先導する俯瞰的思考が可能な人財の育成を目指す

21世紀の今、温室効果ガスの排出削減が急務となっており、2015年のパリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」などの目標が掲げられました。世界各国におけるカーボンニュートラルを推進する動きは加速しているものの、その達成は非常に困難な状況にあります。そこで、自然科学分野と社会科学の研究者が集結する本プロジェクトにて、原子・ナノレベルの材料からマクロな社会制度まで取り組む、これまでにないオリジナルの学際領域を創成。「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」における温室効果ガスの削減目標達成、2030年の46%削減、2050年の実質ゼロの達成に貢献するエネルギー利用技術でのイノベーション創成と、エネルギー分野で世界を先導する高度人財の育成を目指します。

異分野融合型チームで、これまでターゲットとして
見向きもされてこなかったデバイスの開発に挑む

二次電池内部現象を
反応中で直接観察する手法

本プロジェクトでは、エネルギー利用における反応の起点である界面を制御するための基礎学理を構築することで学術的なアウトプットを見いだすとともに、社会実装に不可欠である社会政策・国際情勢の研究成果を取り入れながら、低コストかつ資源循環が可能な実用デバイスの開発を進めます。特徴としては、国内に10箇所しかない放射光施設の一つである本学SRセンターでの最先端量子ビーム解析を活用する点、また技術開発だけにとどまらず、社会科学研究者による半導体・電池関連材料循環システムの調査および諸外国社会制度の比較から、社会普及の手段を見いだそうとする点が挙げられます。

折笠グループでは、現行のリチウムイオン電池を凌駕する全く新たな二次電池をターゲットとし、次世代で活用できる新原理の創出に挑戦します。近年、固体電解質を用いた全固体二次電池の実用化が期待され、世界規模での研究競争が激化していますが、これまでに提案されている次世代二次電池は解決困難な課題を有しており、抜本的に新しい概念の創出が望まれます。そこで既存の研究に基づいた延長線上に位置するデバイスや反応系を対象とせず、意図的に逸脱した領域、具体的には資源回収が十分でないリチウムイオンとは対極に位置する多価カチオンおよびヨウ素化物イオンをキャリアとする二次電池と、無尽蔵のエネルギー源である光エネルギーを直接化学エネルギーとして貯め込む光充電を研究対象に設定しています。電気化学・無機化学の視点からデバイス設計と原理検証を行いその特性を明らかにするとともに、社会学の視点から二次電池普及の要因を解析します。回収・リサイクルまでを見据えた循環型デバイスの実現に必要な因子を明らかにすることで、真に地球環境を保全する二次電池を見いだし、文理融合型のアプローチによる新たな研究手法のモデルケースを創出します。

続く荒木グループでは、カーボンニュートラル実現のためのキーテクノロジーとなるワイドギャップ半導体に着目し、これらを用いた高効率エネルギー利用省エネデバイス基盤技術開発を担います。ターゲットとするのは、窒化ガリウムに代表される窒化物半導体と、酸化ガリウムに代表される酸化物半導体。これらはシリコンと比較して大きなバンドギャップを有していることからワイドギャップ半導体と呼ばれ、その優れた物性的特徴から、シリコンでは実現できなかった青色・白色LEDなどの光デバイス応用および高耐圧電力素子などの電子デバイス応用が実現されてきました。さらなる改善が日進月歩の勢いで進められていますが、その進歩を支える基盤技術である、ワイドギャップ半導体結晶の高品質化は、まだ開発段階にあり、熟練されてはいません。そこで窒化物半導体については、高真空中で原子層レベルの結晶成長が可能な分子線エピタキシー法を駆使し、窒化物半導体結晶成長と電子光物性制御の技術開発に取り組みます。また酸化物半導体については、Ga2O3薄膜結晶成長技術として世界を席巻するミスト化学気相成長法を駆使し、各種酸化物半導体薄膜の材料創製技術とデバイス特性評価技術の開発を進めます。

毛利グループでは、毛利が研究を進める「モアレ超格子形成」をはじめとする原子層界面の幾何構造制御手法を利活用し、熱エネルギーや光エネルギーなどの自然エネルギーを高効率に電気エネルギーに変換する新規「創エネ」技術の開拓を目指します。特に、ファンデルワ-ルス力でのみ他の材料と接合する原子層材料の特性を活用し、界面接合の幾何形状を変化させることでトポロジカルに量子状態を制御し、エネルギー変換に利用する新しい発想でのエネルギー制御手法の開拓に挑みます。

並行して、グループ間連携研究も進めます。折笠グループでは、電子工学・量子科学の知見を取り入れたデバイス設計により、未踏分野の材料を見いだします。荒木グループでは、折笠グループの電池材料に半導体を融合した新規蓄電デバイス、毛利グループの原子層材料とワイドギャップ半導体を融合した新規ヘテロ構造デバイスなどを検討し、ワイドギャップ半導体を用いた新機能デバイス基盤技術開発を進めます。毛利グループでは、折笠グループが取り組む蓄エネデバイスの高効率電極の開発や、荒木グループで研究する省エネデバイスの排熱の回生利用を進めるとともに、量子効果を利用した界面反応の促進により、半導体材料や電池材料のみでは実現し得ない高効率なエネルギー輸送の実現を目指します。

4つめの稲田グループは、高強度量子ビームでの材料解析研究である本学SRセンターなどの放射光施設を用い、次世代二次電池材料、光-化学エネルギー変換材料、半導体結晶量子ナノ構造材料、原子層材料などの次世代機能性材料を構成する元素群の状態解析を行います。折笠・荒木・毛利の各グループで創世された新技術のメカニズムを、X線吸収分光・光電子分光・軟X線顕微鏡の適用により解析し、アプリケーションの観点を超えた学術面からの新規性を明確にするとともに、触媒化学の技法を適用したエネルギー関連材料を開発し、新機能の発現による機能面でのブレークスルーの誘発を目指します。折笠・荒木・毛利グループを接合し、異分野でのデバイス設計への技術展開を促進しながら、材料解析を通して大学院生・若手研究者の学術研究・産業貢献・先端解析の観点を統合できる俯瞰的研究能力の育成を図り、カーボンニュートラルに貢献する力量を備えた人財育成を支えます。

既存の研究方向軸からの逸脱により
次世代デバイス創出につながるシーズ獲得を狙う

本プロジェクトが目指すのは、既存の研究軸から逸脱することで、既存のエネルギー変換デバイスにおける問題点を解決できる、新たな研究対象を発掘することです。従来のエネルギーデバイスの高性能化や世界を先導できるエネルギーデバイス創製につながる、反応の新原理と実用デバイス設計のための新基軸を創出したい。実証の場として、BKCキャンパスに蓄電インフラ等を備え、ゼロカーボンキャンパスにできればと考えています。本プロジェクトの研究成果がデバイス研究の飛躍的な進展、さらには50年後のノーベル賞の内容の端緒となることを願っています。

研究期間

2022年度〜2026年度(予定)

本プロジェクト構成

本研究プロジェクトが目指す成果イメージ図