SERIESリベラルアーツ「人間関係のデモクラシー -“家族”から思考する-」を開催

2021.07.19 TOPICS

SERIESリベラルアーツ「人間関係のデモクラシー -“家族”から思考する-」を開催

 立命館大学教養教育センターでは、昨年度より、オンライン企画「SERIESリベラルアーツ:自由に生きるための知性とはなにか」を開催しています。2021年度は5回連続企画とし「制度と個人」、「感情と理性」など両端の磁場の中で、ままならない「わたし」の有り様を多面的に捉えるために、「人間・感情・生きるとはなにか」という共通の問いを設定。題して「人間5部作」、第1弾は「家族」をテーマに考えました。

現代フランス哲学が専門の横田祐美子先生(立命館大学衣笠総合研究機構助教)

 「家族を、私たちが生まれた時点ですでにその中に放り込まれているシステムとして捉え、その中の力関係を見ていきたい」と横田先生。家族にまつわる力関係や序列の問題を、私たちは普段考えなくていいようにされているのではないかと問いかけ、人々が同じことを繰り返した結果、形式・慣習となっている事例を紹介。例えば、結婚式での新郎新婦の立ち位置、披露宴の座席順、年賀状の宛名順、未成年の保護者欄に誰の名前を書くのか。たいてい夫や父が先・前であるこうした慣習は、家庭内の権力関係を固定してしまいます。ジャック・デリダが『ならず者たち』において回転する輪のイメージで主張した「来たるべき民主主義」、すなわち権力の座に位置する人間は交代可能であることを家族内にも当てはめ、平等をめざす実践を語りました。パターン化に嵌らず差異の到来を恐れないことが大事、と言います。

社会学が専門の平山亮先生(大阪市立大学文学部准教授)

 次に、平山先生は母親の行為に対する私たちの見方を例にあげ、規範には、多くの人がそれに縛られているという意味で受動的に関わっている面と、それを使って現実を解釈しているという意味で能動的に関わっている面があると述べました。「男性らしさ」「女性らしさ」という性役割もまた規範であり、私たちがそれを無批判に使うことで「男女は本質的に異なるもの」という現実が維持される。実際には男性にもあてはまる例があるにも関わらず、「女性特有」として取り上げられる事柄を具体的に紹介し、性に関する私たちのリアリティがいかに私たち自身によって作り上げられたものであるかをクリアに解説。そうした性別二分法的な考えや仕組みに抗う実践、すなわち「日常におけるレジスタンス」の重要性を語ります。

ジェンダー研究が専門で、特に、地域女性史に詳しい柳原恵先生(立命館大学産業社会学部准教授)

 二人のお話を踏まえ、モデレーターの柳原先生は、岩手県の農村女性たちの実践の紹介を交え、「私たちが権力関係やジェンダー規範の網の目に絡めとられているからこそ、その網をひっぱって揺るがすこともできる」とコメントしました。

 参加者との質疑応答タイムで、最も「いいね」がついた質問は、「僕は女子力があるとたまに言われますが、自分自身は嫌な気持ちにはなりません。嫌な気持ちになっていなければ、レジスタンスを行わなくていいかなと思ってしまうのですが、不快に思わなくても行っていくべきだと思いますか?」というもの。

 平山先生は、「男のボクが気持ちいいから変えなくていいじゃん、は男性中心主義。そういう能力が”女子”に結び付けられて、不快に思ったり困ったりするのは誰なのか考えたい。その能力を別に”女子”に結び付けなくてもいいんじゃない?と切り返すこともできるのでは」と回答。

 最後に、ゲストのお二人から、特に学生のみなさんに向けてメッセージが述べられました。
 「日常生活が大事だよね、ということ。社会って遠いもののように思えるけれど、実は日常的にやっていることの積み重ねで社会ができている。私たちは社会に対して無力ではなくて、できることはいっぱいあるんだよ、ということが伝わったらうれしい」と平山先生。
 「変えられることは変えてもいい。『中立』をめざすことをやめて、自分は自分の意見を持っている一人の特異な存在であることに気づいてもらいたい。やっていくことで仲間もできるし、周りに変わる人も出てくる。最初は小さな波でいいし、そこに希望を持っていたい」と横田先生。

 教養教育センターでは、学生のみなさんに大学で学ぶ面白さを伝えたい、先生とフラットに出会い自由に語り合う場をつくりたいと考え、「SERIESリベラルアーツ」を企画しています。今後も、身近なテーマを社会につなげて考える内容で実施しますので、ぜひ参加してください。

参加者の皆さんの感想(抜粋)

  • これまで、ここまで真剣に家族内の性別による役割や権力について考える機会が無かった。その為、今回の講演は大変刺激的な時間となった。
  • 家族の立ち位置は変えても良い、そして、今の日本に定着している性別二元制を変えて行くには日々の積み重ね、そしてまず自分がやってみることが大切ということを学ぶことができました。 私の祖母も祖父の亭主関白な態度や、女性の仕事(家事)は男性はしない、という考え方に困っているので、今日の話を聞かせてあげたいです。
  • 今回の企画では参加者の方から寄せられる質問にもとても刺激を受けました。私自身、ジェンダーに関しては授業内の知識やニュースなどの問題意識のみで、行動を起こそう、などの気持ちはありませんでした。しかし、真剣にこの問題に向き合っている方の存在や、登壇者の方による普段気づかない視点の提供が自分とジェンダー、家族を結び付けてくれました。特に「変革を望むという自由を奪わないで」という言葉が印象的で、心に残りました。
  • 今回の講演を聞いて、改めて平等とはどんな状態なのか、自分自身が何をできるのかを考えさせられたとともに、実践の重要性を改めて認識しました。平等とは子育てなど女性の義務のような扱いをされていた状態から、いつでも抜け出せる(誰かに頼れる/任せられる)状態だというお話がとても印象に残っています。社会人になる前に拝聴できてよかったなと思いました。

  •  本企画の録画映像は、編集のうえ、YouTube「Ritsumeikan Channel」にて公開を予定しています。
     公開日や、次回「SERIESリベラルアーツ:自由に生きるための知性とはなにか」の告知は、教養教育センターホームページ やTwitter でご案内します。Twitterアカウントお持ちの方は教養教育センターTwitterをぜひフォローしてください。

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