画像:SERIESリベラルアーツ「食のミライ」を開催

2021.08.23 TOPICS

SERIESリベラルアーツ「食のミライ」を開催

 立命館大学教養教育センターでは、昨年度より、オンライン企画「SERIESリベラルアーツ:自由に生きるための知性とはなにか」を開催しています。2021年度は5回連続企画とし「制度と個人」、「感情と理性」など両端の磁場の中で、ままならない「わたし」の有り様を多面的に捉えるために、「人間・感情・生きるとはなにか」という共通の問いを設定。題して「人間5部作」、第2弾は「食」をテーマに考えました。

 まず、新山陽子先生(立命館大学食マネジメント学部教授)より、「私たちの食の近未来ーフードシステムは持続できるかー」と題し、日本社会が直面している農業者の激減など食をめぐる問題が提示されました。農産物や食品は、農業から加工業、小売業を経て消費者のもとへ届きます。この連鎖した関係がフードシステムです。牛乳を例に、日本では小売業の市場における交渉力が強く、生産にかかる費用を下回る価格が設定されている現状を解説。「1円でも安いものを買い求める消費者の行動が、それに拍車をかけ、食品産業従事者の低賃金にもつながっていまいか。その一方で大量廃棄されている。大切に食べれば、支払いをもう少し正当にできるのではないか」と問いかけました。先進例としてフランスの政策を参考に、日本においても、食に関わる全ての関係者が議論をし、地域圏(市を中心とした繋がりのある市町村)のフードシステムを見直す必要があると言います。

画像:新山陽子 立命館大学食マネジメント学部教授
農業経済学、フードシステム論が専門の新山陽子先生(立命館大学食マネジメント学部教授)

 次に、「ヴェジタリアンの運動と『食のミライ』」と題した北山晴一先生(立教大学名誉教授)による講演。イギリス発祥で世界各地へと広がりつつあるヴィーガン(菜食原理主義)の主張のうち、「健康」「飢餓」「環境」に関する主張はその目的において理解を得やすいものの、「動物倫理」に関する議論は堂々巡りとなり人々のあいだに分断を生んでしまっていると言います。「この議論を考える前提として、私たちが『食べ物がかつてもっていた聖性』を忘れ、食べ物をも資本主義経済下での利潤追求の手段にしてしまい、その結果、食物資源の偏在、すなわち世界の飢餓と環境破壊を引き起こしてしまっている現状を考えなくてはならないのでは」と北山先生。そもそも私たちが他の命を奪うことによってしか自分の命をつないでいけない宿命にあり、その宿命を体現するのが食べ物の特別性(聖性)であると述べ、最近話題の培養肉の生産とは、科学技術による命のない生き物の生産であり、ヴィーガンの運動はこの流れを加速させはしないか、と投げかけます。さらに、科学技術と倫理について十分に議論できずに私たちは突き進んでいってしまっているのではないかと問題提起されました。

画像:北山晴一 立教大学名誉教授
20年ほど前より社会デザイン学を提唱されてこられた北山晴一先生(立教大学名誉教授)

 2つの講演内容を踏まえ、モデレーターの南直人先生(立命館大学食マネジメント学部教授)は、「食」というテーマは、社会、経済、政治、哲学、倫理、環境、科学技術など様々な学問を総動員して考えなければならない問題であり、私たちが「自由に生きるため知性とはなにか」という問いを考えるうえで非常に重要であると述べました。グローバル世界と日本社会全体、そして、私たちの日常生活というそれぞれのレベルで未来について向き合うためにも、まずは問題を認識し解決の方向性を考えること、日常生活でわずかでも実践の可能性を追求すること、大学教員も教育や研究の場で自らの活動と何らかの方向で関連付けることが重要なのではないか、とコメントしました。

画像:モデレーターを務めた南直人 立命館大学食マネジメント学部教授
モデレーターを務めた南直人先生(立命館大学食マネジメント学部教授、専門:西洋史学、食文化研究)(写真右上)

 その後、参加者から寄せられた質問には重要な論点がいくつもあり、時間が許す限りディスカッションタイムにて取り上げました。

参加者の皆さんから寄せられた質問(抜粋)

  • 人間が地球環境に最も悪影響を及ぼす存在であるにもかかわらず、その人間を肯定したうえで環境問題や倫理問題を構想することが果たして是とされるのか。むしろ倫理問題の立ち上がる根源的場において、自らが動物であったらどうかという仮定を構想できるのではないか。ここにヴィーガンのジレンマが存在するのではないか。こうした問題に経験科学は答え得ず、結局、データ至上主義は、功利主義のツールであり、私たちが求める正しさを構想するためのツールはいまだ存在していないのではないか。
  • 食を選択、消費する上で、一番重視するべき点はなんだとお考えですか?現在、有難いことに日本では食の選択肢が非常に多様です。スーパーや、コンビニ、レストラン、あるいは農家の直営店。一口にスーパーといっても健康志向のオーガニックスーパーから、業務用のスーパーまで多種多様です。そんな中、どのように毎日の食を選択したらよいのか迷います。例えば適正価格のものを選択したらよいのか、添加物が少ないものがよいのかなどです。ひとりひとりの消費者の選択が社会全体としての食に関わる問題の解決につながるのではないかと考えています。
  • 資本の論理が生命の原理を押さえつけ、ゆがんだ食を生み出しているのが現代だと思います。根本から解決するには、経済のありかたにメスを入れるしかないと見えます。これは地球環境問題や、貧困問題とも通じることだと考えています。このような壮大なテーマについて、何らかの方向性を示すことはできているのでしょうか。

参加者の皆さんから寄せられた感想(抜粋)

  • あるべき未来を構想可能なコミュニティ、アカデミアの協同ができれば良いと思います。
  • 農林水産業と市場との関わりなど、我々が見えない部分、直接関わりのない所で起きている問題を知ることができ、食について改めて考える機会となりました。また、ヴィーガンと培養肉など、なんのためにその行動を取るのか、それは正しいことなのかということについても、考えていく必要があるように感じました。
  • 家庭からの残飯がお金に換算すると11.1兆円であるという新山先生のお話にとても驚きました。私たちの生活を変えることで少しだけでもフードシステムを変えることができるのではないかと思いました。
  • 北山先生のお話の中で問いかけられた、命のない生き物を作っていいのか?ということを深く考えるべきだと思いました。今は、遺伝子組み換えの食べ物や培養肉が出てきています。しかし、食はじっくり味わって食べることが大切だと思います。単純に解決できる問題ではないと思いますが、これからの若い世代が考えていくべき問題であると思います。
  • 非常に興味深い話ばかりでした。特に「私たちが購入している食料品は適正価格なのか?」という問が、現在の貧困層を生み出している状況と深く結びつく問題で、考えていかなければならないものだと思いました。

 教養教育センターでは、学生のみなさんに大学で学ぶ面白さを伝えたい、先生とフラットに出会い自由に語り合う場をつくりたいと考え、「SERIESリベラルアーツ」を企画しています。今後も、身近なテーマを社会につなげて考える内容で実施しますので、ぜひ参加してください。

 本企画の録画映像は、編集のうえ、YouTube「Ritsumeikan Channel」にて公開を予定しています。
 公開日や、次回「SERIESリベラルアーツ:自由に生きるための知性とはなにか」の告知は、教養教育センターホームページ やTwitter でご案内します。Twitterアカウントお持ちの方は教養教育センターTwitterをぜひフォローしてください。

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