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2022.05.12

第44回AJI研究最前線セミナー開催:Dr. Ho Thanh Tam(立命館大学 アジア日本研究所 専門研究員)が持続可能な農業と政策について滋賀県の事例とともに発表(2022年5月10日)

 2022年5月10日(火)、第44回AJI研究最前線セミナーをオンラインで開催しました。Dr. Ho Thanh Tam(立命館大学 アジア日本研究所 専門研究員)が、“Sustainable Agricultural Practices (SAP) and Marketing Strategies for Certified Agricultural Products”と題し、環境保全型農業(Environmentally Friendly Agriculture: EFA)の実践を中心に、日本における持続可能な稲作について英語で発表しました。

 はじめに、Dr. Tamは、日本は世界で5番目に大きな温室効果ガス排出国であり、農業は地球温暖化の3番目に大きな原因であり、そのなかでも稲作がその原因の42%を占めているという点を取り上げました。さらに、Dr. Tamは、日本は世界で3番目に肥料を、2番目に農薬を使用している国であり、これらの化学物質は大気、陸、海を汚染するという問題点も指摘しました。特に、琵琶湖は1970年代から80年代にかけて、富栄養化(eutrophication)、赤潮、藻の発生、ピコプランクトンの大量増殖などの被害に苦しんできました。これらの深刻な環境問題に対処するため、日本政府は1992年に化学物質の使用を削減し、有機農産物を生産するためのEFAを通じて持続可能な農業を促進しはじめたという経緯があります。

 Dr. Tamによれば、政府が以上の政策のために補助金を出し始めたのは、滋賀でのEFAの実践の促進がきっかけとして存在し、後に全国的に実施されるようになりました。結果として、滋賀のEFAによって育てられた米は総米生産量の約33%に急増しただけでなく、琵琶湖への汚染が減少しました。しかし、SAPに取り組むには時間と労力がかかるだけでなく、EFA製品への認知度が低いため、必ずしも高い価格で売れるとは限らないという問題があります。この問題に対して、Dr. Tamは、EFAの実践を促進するために、マーケティング戦略を改善するための客観的な評価軸の開発に取り組むだけでなく、農家と消費者の双方の観点からSAPの普及が遅い原因を明らかにするために、以上のような研究を展開しています。

 発表後のQ&Aでは、持続可能な農業についての実践的な側面や有機米の健康面での利点などについて参加者からいくつかのコメントが投げかけられました。また、Dr. TamがJAや現地の農家に対してどのようなフィールドワーク調査を行い、どのようにバランスの取れた情報収集を行ったかについても議論がなされました。Dr. Tamはこれらのコメントや質問に丁寧に応答し、そのなかで参加者は大変重要で興味深い持続可能な農業についての知見を共有することができました。

44th Dr. Tam
発表を行うDr. Tam

過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/