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2023.06.22

【レポート】第55回AJI研究最前線セミナー:Dr.角田燎/戦後日本における旧軍人の戦争体験との向き合い方と記憶の継承をめぐって

 2023年6月13日(火)、第55回AJI研究最前線セミナーがオンラインで開催されました。今回は、Dr.角田燎(立命館大学アジア・日本研究機構 専門研究員)が「戦後日本における旧軍人の生き方と戦争体験の評価:陸軍将校戦友会の研究から」と題して、非常に興味深い発表を行いました。Dr.角田は戦後日本の戦友会における世代交代や、戦友会への元自衛官の参加に関する社会学的な研究を専門としています。

 今回の発表では、Dr.角田は、1952年に元陸軍将校を中心に組織された偕行社を事例として、組織内でいかに戦争責任や戦争の意味づけが歴史的に変化していったのかについて発表を行いました。はじめに、偕行社設立当初のメンバーの一人が元将校として抱える太平洋戦争への誇りと後ろめたさの葛藤が取り上げられました。また、この葛藤によって、元軍人の人々は、戦争に対して持続的な反省とともに向き合い続けていました。Dr.角田は、1950年代~60年代には、偕行社を構成する元軍人の人々が、戦後民主主義と市民運動の盛り上がりのなかで、戦争に対する強い反省の念を堅持していたことを強調しました。また、そのことで、日本の戦争遂行を積極的に肯定する方向に組織が傾いていくことに一定の制約がかけられていました。組織内のこうした制約作用は、1980年代にも持続します。しかし、戦後持続したこうした戦争との向き合い方は、1990年代に一変し、組織もいわゆる「歴史修正主義」のもとで、過去の戦争を肯定する方向へと傾斜していきます。Dr.角田の発表では、組織内での戦争への強い反省とその意味づけのバランスに基づいた記憶の継承という観点から、この変化がなぜ生じたのかに関して詳細な分析が示されました。

 発表後の質疑応答では、組織内の構成メンバーの世代区分、組織が活動するそれぞれの歴史的文脈や市民社会の性質の変容、その他の旧軍人が構成する組織との関係、旧軍人の個人史を通じた戦争に対する考え方の変容を捉えるための方法論などの多様な論点について、非常に活発な議論が交わされました。

発表を行うDr.角田
発表を行うDr.角田

過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/