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2023.10.17

【レポート】第60回AJI研究最前線セミナーを開催しました!米田優作氏「現代イスラーム思想のなかのサラフィー主義(運動):エジプトと湾岸アラブ諸国とのあいだの思想的共振/競合に着目して」

 2023年10月10日(火)、第60回AJI研究最前線セミナーがオンラインで開催されました。今回は、米田優作氏(立命館大学国際関係研究科博士課程後期課程)が「現代イスラーム思想のなかのサラフィー主義(運動):エジプトと湾岸アラブ諸国とのあいだの思想的共振/競合に着目して」と題する発表を行いました。米田氏は、特に2011年の「アラブの春」以降のエジプトにおけるイスラーム思想と政治運動の役割に関する研究を専門とし、そのもとで、同国におけるサラフィー主義勢力(いわゆる「宗教的厳格派」)の伸長について研究しています。今回の発表では、サラフィー主義の定義が中心的な論点となりました。

 今回の発表で、米田氏は、「アラブの春」以降、サラフィー主義運動が、エジプトにおいて政治組織として確立され、政治に影響力を及ぼしていく過程について研究報告をしました。最初に、米田氏は、通俗的なサラフィー主義の理解においては、その他のイスラーム過激派と一緒くたにされる傾向があり、また、過激派の温床であるとされたりすることを指摘しました。それと同時に、サラフィー主義について学術的に明確な定義が確立されておらず、その他の信仰形態との区別が明確ではないという問題点も指摘されました。米田氏の研究は、以上の問題のもとで、サラフィー主義の実像をエジプトの政治過程から明らかにしようとするものです。

 はじめに、サラフィー主義に関する米田氏自身の研究についての概略について明快な説明がなされました。米田氏は、サラフィー主義とは何かについて、テキスト分析だけでなく、フィールドワークを通じて、サラフィー主義の歴史的背景とローカルな実践を包括的に捉えることが研究の目的であることを強調しました。エジプトのサラフィー主義の代表的組織であるダアワ・サラフィーヤは、1970年代以降の政治・経済の自由化のなかで生じたイスラーム復興のなかで形成されました。もともと、これらの組織は、政治からは距離を置いていましたが、「アラブの春」以降、イスラーム主義政党であるヌール党を生み出し、積極的に政治に関わるようになります。米田氏は、エジプトのサラフィー主義を焦点化することによって、これまで見落とされてきたサラフィー主義の多元的な内実が見えてくることを強調します。また、米田氏は、多元的なサラフィー主義のかたちを生み出す根底には、「サラフの方法論」があると言います。「サラフの方法論」は、イスラーム初期の篤信のあり方を尊重する生き方を示す概念です。しかし、その方法論には、個人によってさまざまな広がりがあります。米田氏は、人びとがどのように「サラフの方法論」に向き合っているのかをさらに明確化していくことが、サラフィー主義の理解にとって決定的に重要であることを強調します。以上のように、米田氏の研究を通じて、エジプトにおけるサラフィー主義のローカルな発展のあり方に焦点を当てることで、過激派と分類される傾向がある思想・政治運動の多元的な姿が見えてくることが期待できます。

 発表後の質疑応答では、アラビア語に関する質問、米田氏がフィールドワークを通じて出会った現地の人々の思想的な背景に関わる質問、フィールドワークで得た知見と分析概念との関係、エジプトのサラフィー主義とそのほかの宗教・政治運動との関わり、今後の研究における焦点に関する質問など、多くの論点をめぐって刺激的な議論が交わされました。

発表を行う米田優作氏
発表を行う米田優作氏

過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/