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理工学部の最先端研究

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ソフトマター研究室

  • 担当教員 深尾 浩次

「ソフトマター」のおもしろさに魅了され、日々、実験的な研究に取組んでいる。「ソフトマター」のなかでも、高分子を対象としたガラス転移、結晶化による構造形成、ガラスダイナミクス、dewetting現象に興味を持って研究を進めており、その研究意欲は衰えるところを知らない。

研究内容

私たちの研究室ではソフトマターと呼ばれる物質を対象とした実験的な研究を行っています。ソフトマターというのは「柔らかい物質」の総称であり、高分子、液晶、コロイド、エマルジョン(泡などです)、粉体などの広範囲に渡る物質群のことです。これらの物質が示す規則的な構造と分子運動性を中心とした物理に興味を持って実験的な研究を行っています。具体的な例をあげると、ソフトマターの代表である高分子が示す結晶化とガラス転移の問題です。中学・高校の理科で学んだと思いますが、物質には固体、液体、気体の3つの状態があるのは良く知られています。しかし、これは十分に落ち着いた平衡状態と呼ばれる安定な状態での話であり、様々な変化が生じている「非平衡」状態では奇妙なことが起ります。液体を冷却した時に、原子・分子が規則正しく配列された結晶状態へ変化する(これを結晶化と言います)ことが一般的に観測されます。しかし、冷却条件によっては、液体状態の乱れた構造を保ったまま、運動性のみの失われた状態へ「転移」することがあります。この状態のことをガラス状態と呼び、この状態への転移をガラス転移と呼びます。私は高分子物質を対象にして、結晶化およびガラス転移のメカニズムの解明と高分子の構造や様々なスケールの分子運動との関係を実験的に明らかにしようとしています。

具体的には高分子をナノメータスケールの薄膜状態にし、バルクの状態でのガラス転移との比較を行うことにより、ガラス転移のメカニズムに迫ろうとしています。また、これらのテーマ以外に、液晶やコロイドが示す相転移現象やエイジング現象などに広く興味を持って研究を行っています。

研究の特色

ソフトマターは私たちの身の回りにあふれている物質です。毎日必ず何らかのソフトマターを目にしていますし、そのお世話になっています。皆さんがスーパーでもらう袋はポリエチレンという合成高分子でできています。飲料水の容器のPETは、ポリエチレンテレフタレートと呼ばれる高分子です。また、焦げ付き防止にフライパンの表面に施されるテフロン加工にはポリテトラフルオロエチレンという高分子が使用されています。一時期流行した薄型のディスプレイに使用されていたのは液晶分子でした。多くの方が毎朝飲まれる牛乳はマクロには白い液体ですが、ミクロにはマイクロメータスケールのコロイド懸濁液から成り立っています。このように世の中はソフトマターで溢れかえっているのです。さらには、アクティブソフトマターという標語のもとに、自発的な活性をもつ高分子・ソフトマターを研究し、生命現象に迫ろうとする動きすら起こっています。

このようなソフトマター研究の特色を一言でいうと、とにかくおもしろいということです。
具体的なおもしろい例を一つあげます。高分子は一般に「粘弾性」という性質を示します。粘性とは、液体のネバネバ具合を表す物理量です。粘性が高いと、たとえば納豆のようにネバネバしています。粘性が低いと水のようにさらさら、あるいは、しゃばしゃばと流れます。ここで、弾性は固体が示すバネのような性質のことです。弾性率が大きいと、固いバネですし、弾性率が低いとよく伸びるばねということになります。しかし、いずれの場合にも、引き伸ばした後、手を離せばもとの長さに戻ります。高分子はこの液体としての性質と固体としての性質の両方を持っていて、条件に応じてそのいずれかの性質が顕著に現れるのです。液体だと思っていたのに、固体のような振る舞いをする、そんなときに私たちは「え、すごい!」と思ってしまうのです。Silly Pateというアメリカのおもちゃがあるのですが、「弾む液体」として知られており、粘弾性に関係したおもしろい現象を示すのです。このような系を対象にして私たちは真面目な研究をしています。

受験生へのメッセージ

皆さんは今大学入試を突破するために、ある限られた範囲を懸命に勉強しておられることと思います。しかし、大学での勉強にはここまで勉強すれば良いという境界はありません。このことは自由に勉学できるということを意味しますが、逆に自分でしっかりとした目標を持たないと何も得ることなく卒業するということになりかねません。今のうちから、「自分は何を学びたいのか」という問いかけを自分自身にして、その答えを持った上で大学に進まれることを期待します。理想的には、自分が将来何をやりたいのか、何になりたいのかを決めて、さらに、それを目指すために何を学ぶ必要があるのかを見極めて、大学に入学していただきたいということです。とは言いつつも、18才前後で将来に渡って自分のやりたいことを見出すのは至難の技です。漠然とした将来のイメージをもっていたら良い方かもしれません。

私自身の経験を振り返っても、漠然とした将来に対するイメージの中で悶々とした大学時代を過ごしたように思います。もしはっきりとした目標を決めることができていたら素晴らしかったのにと今になって思います。目標を設定し、それを目指して頑張り、適当な時点で修正し、頑張り、また、修正し…と試行錯誤を繰り返しながら、本当の自分の将来像を探していくのが実際的なのかも知れません。皆さんが大学時代という20歳前後の人生でもっとも素晴らしい時期を充実して過ごせるように願っています。

研究室学生インタビュー

ソフトマター研究室を選んだ理由は?

私が物理科学科に来た理由は、モノの性質について興味があったからです。様々なモノの性質はどのようにして決まっているのか、どのようにして変化するのか、という事に疑問を持っており、研究室はそのような物性について研究している研究室に進もうと思っていました。
高分子は我々の身の回りの至る所に存在し、デジタル機器やコンピュータ機器などの電子部品としても応用されおり、現代社会にとても重要な物質であるという事で興味を持ち、研究室を選ぶ際、高分子の物性について研究しているソフトマター物理学研究室を選択し、配属されました。また、実験器具を好きな時に、自由に使う事ができる所にも魅力を感ました。教授や先輩の助言を頂きながら、各個人で研究を進め、成果を出すことで、自分の能力を高める事ができ、社会人として社会に出た時の役に立つだろうと感じ、この研究室を選択しました。

理工学研究科 基礎理工学専攻
物理科学コース 博士課程前期課程 1回生

今、取り組んでいる研究は?

高分子材料の温度を上昇させると、ガラス転移と呼ばれる、硬い固体状態であるガラス状態から、急激に粘度が低下し、極めて柔らかい液体のような状態に変化する現象が起こります。高分子が材料として応用される際、ガラス状態として応用される事が多く、このガラス転移という現象が起これば、高分子材料の欠点と成り得る事があります。
近年、高分子を薄膜にすることで、ガラス転移温度が変化するという現象が報告されています。しかし、その起源は明らかになっておらず、高分子薄膜と基板との相互作用や、高分子薄膜の表面作用など、様々な議論が行われています。私は、ガラス転移を支配している高分子の運動(ダイナミクス)について着目し、薄膜にする事によって、高分子ダイナミクスがどのように変化しているのか、また高分子ダイナミクスが変化する事によって、ガラス転移温度変化にどのような影響を与えているか、について研究しています。

研究をしていて楽しいときはどんなときですか?

研究をしていると、しんどい時もたくさんあります。実験に失敗したり、思うような実験データを得る事が出来ない事も、よくあります。しかし、その度に、どのようにしたら実験が上手くいくのかを考えたり、実験を繰り返していく中で、実験データが意味する事が分かったり、自分の考えと実験データが一致した時には、喜びを感じます。また、一人で黙々と研究するのではなく、研究室内のゼミで、教授や先輩方、後輩達と様々な意見を出し合って、ディスカッションを繰り返し、多くの意見を参考にしながら、研究を進めている時に、楽しさを感じます。
研究で成果を残す事ができ、学会に参加して、発表できた時には、特にやりがいを感じる事が出来ました。また、学会で多く方々が研究発表内容について興味を持って下さり、様々な意見を頂いた時は、今まで頑張ってきた事が認められたような気がして、とても貴重な経験をする事が出来ました。

将来の目標は?

将来の目標は、テレビで取材される事です!(笑) 社会に必要とされるような技術者となり、テレビで取材されるくらい大きな仕事を成し遂げ、ワールドワイドに活躍したいです。自分がいたから、成功を収める事が出来た、そんな仕事を成し遂げたいです。
そのために、社会人になる前に、時間がある学生である今だからこそ出来る事は、研究を頑張り、多くの成果を出す事はもちろん、ワールドワイドに活躍するための英語力を身につける事や、様々な事に挑戦し、経験する事によって自分の能力を高める事だと思っています。学生である今、社会に出るための準備をしっかり行いたいです。そして、社会を支え、世の中の人たちの役に立つようなモノづくりに携わり、どんな時でも、目標を持ち続け、その目標に向かって毎日精進し、社会に必要とされるような人材となって、最終的には、情熱大陸に出演して、ビッグな人間になりたいです!