「立命館白川静記念東洋文字文化賞(略称 立命館白川静賞)」について
---------- 制定の趣旨 ----------
日本の社会と文化の発展、また東アジアの交流と相互理解の歴史を顧みるに、漢字を中心とする東洋文字文化は大きな役割を果たしてきました。東洋文字文化はこれからも日本および東アジアの精神的支柱であり続け、その振興は重要な意義が有ると考えます。
この賞は、立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所が、東洋文字文化に関する研究、普及および教育活動等の奨励支援のため、優れた個人および団体の業績を表彰することを目的としています。日本社会・文化の継承と発展、東アジアの平和と繁栄のために本賞の制定がその一助となることを願っています。
<対象者>
- 立命館白川静記念東洋文字文化賞大賞特にすぐれた業績のもの
- 立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞教育指導ならびに
漢字文化の普及に貢献したもの - 立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞若手の研究者
第12回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」表彰式
第12回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の2件に贈ることを決定し、2018年5月26日、 立命館大学衣笠キャンパス 平井嘉一郎記念図書館カンファレンスルームにて表彰式を行いました。

立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞
受賞者 | 上野 誠(奈良大学文学部教授) |
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対象業績 | 『万葉集から古代を読み解く』ほか |
副賞 | 賞金 30万円 |
受賞者 | 松井 太(大阪大学大学院文学研究科教授) |
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対象業績 | 『敦煌石窟多言語資料集成』ほか |
副賞 | 賞金 30万円 |
---------- 授賞理由 ----------
(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞 上野 誠 氏
上野氏は、民俗学的解析を方法とし、その調査・研究を通して培った祭祀・芸能の具体的様相を観察する目をもって、
『万葉集』を対象とし、万葉文化論を構想し、その文化の具体相を解明することに成功した。
例えば、歌を書くとはどういうことか、歌集を作るとはどういうことか、『万葉集』とはどういうものか、等について具体例を示し、
巧みな比喩や図式化などによって明快に展開している。その際、考古学界における、近年の発掘や研究成果をも背景としてその実体が具体的に詳細に論述されている。
また、日本人の、外国文化である漢字を用いての多様な使い方・書きかたについて、それを辺境文化の創造性と評価し、思想面においても追求している。
すなわち、九州の太宰府に到着した[知]が、短歌体の中に凝縮されていると仮定し、万葉讃酒歌十三種の死生観は、『荘子』『列子』を淵源とする、
戴逵(中国・東晋時代の知識人)の分命論に近いとする解析は傾聴に値する。
さらに、六朝文学に親しんだ日本の文人官僚は、壬申の乱の出発点となった吉野を、天子と仙人とが出逢う神仙世界すなわち南山とし、
そこに七賢人が遊ぶと見立てて詩が作られたと説くところは、上野氏ならではの優れた考察である。
上野氏には、大量の研究業績があり、右に紹介した研究は、その一部にすぎない。
同氏の業績は、白川賞優秀賞に相当すると評価する。
(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞 松井 太 氏
松井氏は、敦煌を研究対象の中心とする。敦煌は多種多様な言語の重層地域であり、その研究は非常に困難である、
その多言語・多文字史料の内、松井氏はウイグルを中心にして、モンゴル・チベット・漢語の諸言語に精通し、大量の現地出土文献の調査・研究を蓄積してきた。
その研究中、特に評価したのは、敦煌石窟群に遺る多くの銘文資料の読解を進め、史料としての確定に貢献した点である。
松井氏は、多種類の言語・文字理解の上に立ち、先行研究諸文献を消化しつつ、特記すべきは、保存状態の良くない銘文の実地調査・研究に果敢に取り組み、
個別の正確な読解成果を生み出している。このような地道な作業の価値は非常に高い。
さらにもう一つ、高く評価すべきものがある。それは、研究の世界性である。百年以上にわたって、世界の研究者が行ってきた敦煌の文字資料現地調査は、
近年、当然なことながら、現地中国の研究者らの業績がいちじるしい。
しかし、松井氏の成果にはそれらを凌駕するものが多く、一文字たりとも見逃すまいとする厳密な注意力と、
先行研究手法に基づく成果とは、世界における研究水準を高めることに寄与するところ大である。
同氏の業績は、白川賞優秀賞に相当すると評価する。
-------- 立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会--------
委員長 | 杉橋隆夫(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長) |
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委員 | 加地伸行(白川静記念東洋文字文化研究所 研究顧問) 下中美都(株式会社平凡社代表取締役社長) 上野隆三(立命館大学文学部教授) 芳村弘道(立命館大学文学部教授) 萩原正樹(立命館大学文学部教授) ※順不同 |
第11回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」表彰式
第11回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の2件に贈ることを決定し、2017年4月22日、立命館大学衣笠キャンパス 平井嘉一郎記念図書館カンファレンスルームにて表彰式を行いました。

立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞
受賞者 | 笹原宏之(早稲田大学社会科学総合学術院教授) |
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対象業績 | 国字の研究 |
副賞 | 賞金 30万円 |
立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞
受賞者 | 成田健太郎(東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄附研究部門特任研究員) |
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対象業績 | 『中国中古の書学理論』および王羲之・顔真卿関連の論考 |
副賞 | 賞金 20万円 |
---------- 授賞理由 ----------
(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞優秀賞 笹原宏之 氏
対象業績は、国字に関する日本語学界初の体系的な研究書で、学術的に極めて高い水準にあり、これを超える研究成果は発表されていません。これらは、日本語学界における国字に関する誤解等を修正するもので、漢和辞典等の記述をより精緻なものにすることに貢献するものです。今後、さらに国字研究を発展することが期待されます。
(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞 成田健太郎 氏
対象業績は、唐の張懐瓘による書論『書断』をベースとしながら、「勢」「訣」「風格」「筆勢」など、これまであまり取り上げられなかった視点から、深みのある考察を行っています。考察は、独創的かつスタンダードになりうる内容であり、今後、文字学・書道史を学ぶものにとって必読書となると思われます。
-------- 立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会--------
委員長 | 杉橋隆夫(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長) |
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委員 | 加地伸行(衣笠総合研究機構特別研究フェロー) 下中美都(株式会社平凡社代表取締役社長) 上野隆三(立命館大学文学部教授) 芳村弘道(立命館大学文学部教授) 萩原正樹(立命館大学文学部教授) ※順不同 |
第10回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」表彰式
第10回「立命館白川静記念東洋文字文化賞」は以下の3件に贈ることを決定し、2016年10月15日、立命館大学衣笠キャンパス 平井嘉一郎記念図書館カンファレンスルームにて表彰式を行いました。

立命館白川静記念東洋文字文化賞大賞
受賞者 | 上島有(摂南大学名誉教授) |
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対象業績 | ユネスコ記憶遺産として登録された国宝、 『東寺百合文書』の整理・研究 |
副賞 | 賞金 50万円 |
立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞
受賞者 | 冨谷至(京都大学人文科学研究所教授) |
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対象業績 | 簡牘、出土文献の知識の普及 |
副賞 | 賞金 30万円 |
立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞
受賞者 | 武内康則(京都大学白眉センター助教) |
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対象業績 | 契丹語、契丹文字の研究 |
副賞 | 賞金 20万円 |
---------- 授賞理由 ----------
(1)立命館白川静記念東洋文字文化賞大賞 上島有 氏
上島氏は、京都府立総合資料館所蔵の「東寺百合文書」の整理とその研究に長く従事され、日本の中世古文書学・中世歴史研究に多くの業績を打ち立て、多大な貢献を果たされている。同氏は、これまでに『東寺・東寺文書の研究』(思文閣出版、1998)をもって第21回角川源義賞、また密教学芸賞を受け、斯界に赫赫たる名声をすでに馳せておられるが、90歳をこえてなお大著『中世アーカイブズ学序説』を世に問われ、古文書学に新しい方法を提唱する旺盛な研究を示された。長年に亘る古文書研究は、広く日本の学問世界のみならず、文字学においても敬意を表すべきものであると、高く評価する。
(2)立命館白川静記念東洋文字文化賞教育普及賞 冨谷至 氏
冨谷氏の主著『木簡・竹簡の語る中国古代――書記の文化史』刊行の2003年当時、出土文献についての専門書は少なく、また体系的に論じる書はほとんどなかった。同書は、専門的な内容を含みながら、一般向けにわかりやすく解説され、難しい言葉にはルビや説明をつけるなどして読み易い。題名にある木簡・竹簡だけではなく紙以前の甲骨から紙への移行までを追って書かれており、多くの人への簡牘、出土文献の知識の普及という点においては大変優れた書籍である。
簡牘の内容が中国西北辺境の漢代の行政文書と限定的ではあるが、これまでに無かった辞典であり、文字学のみならず行政史の研究の上でも高い価値を有するものである。
(3)立命館白川静記念東洋文字文化賞奨励賞 武内康則 氏
武内氏は、契丹小字中の漢語軟口蓋音の音写を扱い、契丹語の軟口蓋音の1部を解明した。また、漢語史書における漢字による音写で記録された契丹語に着目し、契丹語の音声特徴、特に音素配列に関する重要な特徴を明らかにした。同氏の研究は一見オーソドックスな分析であるが、漢語音韻学・契丹文字、特に小字の構造・モンゴル諸語の音韻に精通し、データの丹念な検証なくしてはなしえないものといえる。契丹文字は使用された期間は短いものの、その研究はモンゴル諸語の古層、遼・契丹族の歴史と文化、疑似漢字の類型といった様々な研究に寄与する。若手ながら有意義な多くの論考を持つ研究は今後も
斯界に貢献できるものと期待できる。
-------- 立命館白川静記念東洋文字文化賞選考委員会--------
委員長 | 杉橋隆夫(立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所長) |
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委員 | 加地伸行(衣笠総合研究機構特別研究フェロー) 下中美都(株式会社平凡社代表取締役社長) 上野隆三(立命館大学文学部教授) 芳村弘道(立命館大学文学部教授) ※順不同 |