後藤 智准教授

MESSAGE

仕事も人生の一部だから、やりたいことから始めればいい
そんな理論を通して日本の働き方を変えていきたい

自分の中から新しい意味を生み出すことが
イノベーションにつながる

私は、デザインマネジメント、中でも「デザイン・シンキング」と呼ばれるデザイナーの思考方法について研究しています。特に焦点を当てているのが「意味のイノベーション」。ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ先生によって提唱された概念です。
従来の経営学では、ユーザーのニーズを外から取り込むことを製品開発の出発点に置くべきという考え方が常識とされてきました。私も前職で製品開発をしていたので経験がありますが、企業側の理論は「お前の欲しいものではなく、ユーザーが欲しいものを作れ」です。一方、ベルガンティ先生によってイタリアで生まれた「意味のイノベーション」は、デザイナーが、外からではなく、自分自身の中から新しい意味を生み出すことがイノベーションにつながるという理論です。私は、ミラノ工科大学と共同で、これを日本企業の中で実践できる理論として構築する研究を行ってきました。今では、日本企業の製品開発のプロセスにも導入されており、私もそこに企画段階から参加することによって、理論を現実社会で応用しています。

「意味のイノベーション」は
仕事を生きがい(IKIGAI)にする理論

この研究の面白さは、今後の日本の社会や働き方を変える可能性があるという点です。ユーザー中心ではない、人間一人ひとりを大切にする働き方につなげるというビジョンが描けるのです。
イタリア人は、企業の中にいても、自分の人生の中で何をつくりたいのか、どう働きたいのかという視点を常に持っています。それは、ブラック企業を生み出すような「個人を捨てて会社の一部として生きろ」という日本的なあり方とは対照的です。
「多様性を大切にする」とは何でしょう。外国人の採用や女性の登用だけでなく、目の前の人間が本当は何を考えているのかを知ることが重要なのではないでしょうか。一人の人間が人生の中で学んできたこと、経験してきたことを活かそうとしない。それが日本の働き方の一番の問題だと私は考えています。
「仕事だって人生の一部。だから、あなたのやってみたいことからスタートしてもいいんじゃない?」という考え方は、仕事とプライベートを分けるべきという発想とも違うものです。ミラノ工科大学のアレッサンドロ・ビアモンティ先生は「デザインとは生きがい(IKIGAI)だ」と言っておられます。「意味のイノベーション」は、仕事を生きがいにするための理論でもあると思います。

理論化によって自分の人生を言語化できる
それが大学院で学ぶ魅力

社会人となり、企業のアイデンティティに埋没してしまう前に、一人の人間として何がしたいのかを、理論を通して追究できるのが大学院の魅力だと思います。「自分はこう生きたい」「社会はこうあるべき」などの思いは、理論化の中で言語化されていきます。そして人間は、言語化によって内省が進み、自分自身を知ることになるのです。
自分の人生を言語化することを現在の企業は求めていません。しかし社会に出る前にその術を身につけていれば、後にそれを社会に還元することが可能な時代に来ていると私は思います。自分の思想を強く持つ人、持ちたいと願う人は、大学院で研究することも考えてほしいと思います。