土橋 力也教授
研究テーマのことだけを
考える数年間。
大学院でしか得られない
貴重な時間です。
研究テーマ
プラットフォーム企業の競争戦略
動画配信サービスに対してテレビ局はどう戦おうとしているのか
私の専門分野は経営戦略論、特にプラットフォーム企業の競争戦略について研究しています。プラットフォーム(PF)とは「異なる２つ以上のユーザーを結びつけて価値を生み出すサービス」のこと。例えばYouTubeは動画配信者と視聴者を結びつけるPF、楽天市場も店舗と消費者を結びつけるPFです。ほかにもたくさんの例が思い浮かぶでしょう。これらのPF企業が、どんな戦略を持って活動し、競争しているかを研究しているのです。
現在の研究対象はテレビ局。動画配信サービスの台頭によって競争が激しくなっている業種です。Huluのようなビデオ・オン・デマンドサービスを傘下に入れたり、自社プラットフォームを立ち上げたり、さまざまな模索をしている最中。新しいプレーヤーにどう対抗しようとしているのか、まさに今目の前で起こっている事例を追っています。本来、経営戦略の研究は、勝者と敗者が決定した後にその要因を分析するのが基本。結果が出る前に同時進行で時代の流れを分析するのは難しいことですが、そこが面白さでもあると感じています。
新しい事象が次々起こりわからないことがあるからこそ面白い
私がPF企業に着目したのは、ちょうど大学院で学んでいた2000年代に新しいビジネスモデルとして現れ、「プラットフォーム」という概念を用いて表現されるようになったからです。それまで力を持っていた製造業のような既存の産業とはまったく異なる新しいビジネスモデルをどう説明すべきか、さまざまな研究者による検討がなされた結果、2005年あたりから「プラットフォーム」という概念で固定されていきました。その経緯を目の当たりにして興味を持ち、魅力的な研究対象だと感じたのです。
デジタルコンテンツはほぼPFだととらえられますし、新聞も、広告と読者をつなぐという意味ではPF、スポーツ界も今やPFとしてとらえられるようになっています。新しい事象が次々起こる分野だからこそ世界中で注目を集めますし、わからないこと、未開拓の部分があるからこそ伸びしろもある、本当に面白い分野だと思います。
世の中の流れや物事のメカニズムを理解し論文で表現できるのが研究の魅力
自分の好きなことを扱えるのが、研究者の仕事の面白さの１つです。私は昔からコンテンツ・ビジネスに関心があったので、いつか研究対象にしたいという思いがありました。
研究の醍醐味は、現実に起こっている現象を自分なりに調査し、仮説を立て、検証するというプロセスにあると考えています。世の中の流れや物事の起き方、メカニズムを理解し、それを論文として表現できるのが大きな魅力です。
大学院では、2年間、あるいは5年間、さまざまな知識を得ながら、自分で決めたテーマのことだけを考え、自分の中でストーリーを組み立てていく時間を過ごすことになります。それは人生の中でとても意味のある貴重な時間。誰に指示を与えられるでもなく、手探りであれこれ試行錯誤しながら、自分の中で一つのストーリーを組み立てていくプロセス、自分の判断で選択を重ねていくプロセスは、難しさもありますが、とても面白いものだということを伝えたいです。
おすすめの本
-
単行本
イノベーションのジレンマ
クレイトン・クリステンセン著
私の一番好きな本で、強く影響を受けましたし、今もよく引用しています。一見複雑な現象も、ひもとけばロジックは単純であり、同じような現象がさまざまな業界でも起きている。そのことを「イノベーションのジレンマ」という理論ひとつで説明されているという点に衝撃を受けました。表現の切れ味も良く、本当に面白い本です。ぜひ読んでみてください。
おすすめの映画
-
ソーシャル・ネットワーク
「経営戦略論」の授業でも見せています。PF企業の重要な概念に「ネットワーク効果」というものがありますが、それを生み出すために、Facebookの創業者、マーク・ザッカーバーグがどのようなことを行ったのかが描かれています。
メッセージ
大学院は難しそうという印象があるかもしれませんが、学部生の皆さんには、ぜひ学問の扉を叩いてほしいと思っています。「経営学って面白そうだから大学院に進学しよう」でいいのではないでしょうか。研究を進めるうえで最も重要なものは好奇心だと思います。ただし、研究を行うためには経営学の知識や、英語の論文を読むスキル、統計的なスキルも必須です。入学したら2年間は他のすべてを忘れ全力で研究に取り組んでください。そうでなければ進学した意味がありません。それは社会人になれば決して得ることのできない貴重な時間。私自身も大学院生に戻りたいと常々思っているくらいです。