小林 磨美教授

MESSAGE

研究とは、論理的に
積み上げていくもの。
根拠をしっかり考えることが
大切です。

研究テーマ

コーポレートファイナンスのミクロ経済分析

投資家の行動が、企業の意思決定にどのような影響を与えるのか

私の研究は、企業の望ましい意思決定のあり方について、金融・ファイナンスの視点から理論分析を行うものです。特に、サブプライムローン危機に端を発する2007年から2010年の世界金融危機の際に、金融機関が自己の利益を最大化するため、いかに他の利害関係者を犠牲にしてきたかの分析を行ってきました。コーポレートガバナンスを保つためには、コーポレートファイナンス、つまり望ましい資金調達や投資を行うことも重要です。
現在取り組んでいるのは、投資家の視点を取り入れた企業の資金調達に関する研究です。たとえばCSRに特化した社債や環境対策事業に使途を限定した環境債など、投資家の求めに対応して発行される債権がありますが、これらは投資家によるコーポレートガバナンスととらえることもできるでしょう。しかし、投資家が常に正しいとは限りませんし、求めるものが変わっていく可能性もあります。こうした投資家の行動のバイアスが、企業の意思決定にどのような影響を与えるのかなどについて、ミクロ経済学的手法で理論分析を行っています。

薬学部時代の恩師の姿が私の研究に対する姿勢の原点です

こうした理論分析の分野と、データを用いる実証の分野は、お互い行き来しながら相互作用的に進んでいくものです。従来と異なるデータが出ると、これまでの理論で説明できないことも出てきます。そこで理論が改良されると、次はそれを実証するデータが必要になるという形です。事実としてのデータを、自分が構築した理論で説明できるところにこの分野の面白さがあると感じています。
私は薬学部を卒業して就職後、家業の経営に活かすことを目的に経営学部で学び、今に至ります。薬学部時代の実験は、失敗を重ねながらひたすらに続けていくものでした。予算のつきにくい難病治療薬の研究に取り組む恩師が、何度も何度も挫折しながら研究を続け、ついに創薬につながるものを発見されたこともありました。今、データを眺めながらあれこれ考えていると、一つの要素を変えるとすべての説明がつくのではないかということが見つかる場合があります。すると、その一つを変える理由を探す旅が始まります。こうしたことを延々続けるのが私の研究です。労多くして功少なしですが、考え続けることに研究の楽しさはあります。かつての恩師の姿勢が、私の研究に対する姿勢の原点になっています。

メッセージ

私はアメリカの大企業に勤務していた経験があります。MITやスタンフォードなど一流大学を卒業したエリートが多い中で、そんな基準から遠くはずれていても「これが自分の職場、ここが自分の居場所だ」と強く思っている人は不思議と生き残っていました。研究の世界も同じです。根拠がなくても「自分は研究ができる、やりたい」と強く思うことのできる人なら生きていくことができるのではないでしょうか。自分がその場所にピンとくるかどうかは、どんな職業でも大切なことなのではないでしょうか。

物を考える順序を整理できるようになるそれが大学院での学びの価値だと思う

大学院で学ぶことによって得られる最大の価値は、物を考える順序をきちんと整理できるようになるということだと思います。「なぜ〇〇は〇〇なのか」という一つのテーマに対して、まずは現実がどうであるか、過去にどのような視点があったのかに立脚したうえで、これまでに学んだ知識の中から追加的に「このように言えるのではないか」と、積み上げるような形で説明をする。説明がうまくできるかどうかに関わらず、このような考え方ができること自体が非常に重要だと思います。
今、社会的な問題を考える時、あるいは社会科学の世界の中でも「あなたはAですか?Bですか?」のように、まずスタンスを決めてから、それに対して好きか嫌いかのような議論があまりにも多すぎることに少し危惧を感じています。どんな意見であれ、自分の見解の根拠は何なのかをきちんと考え、論理的に説明することが大切。研究とは、論理的に積み上げていくものだからです。

おすすめの本

  • 黒木亮の小説

    黒木亮はロンドン在住の小説家。金融機関で勤務経験があり、投資銀行の話、サブプライムローンの話などについて非常に解像度の高い小説を書いています。時代設定がバブル期のものが多いので、学生の皆さんにとっては少し古臭く感じるかもしれませんが、こういう世界があるんだということが垣間見えると思いますし、とても面白いので読んでみてください。ニューヨークで在外研究をしていた時、冬は吹雪で外に出られないことも多かったので、この方の小説を買い込んで一人で楽しんでいました。