この問題、あなたならどうする?

クマは、人の天敵ですか?

2023年度、クマが全国で大量に出没し、捕獲されたクマの数も、人身被害件数も、いずれも記録史上最大となりました。クマと人がこの国で共存していくのは、不可能なのでしょうか。クマと人が共存する社会を築くために何が必要なのか、考えてみましょう。

問題背景
自然環境の破壊など、様々な要因により、現在世界中の生物のおよそ3割が絶滅の危機に瀕していると言われ、生物多様性保全は喫緊の課題となっています。しかし、大型野生動物と人との共存は簡単ではありません。日本にはクマ類がツキノワグマとヒグマの2種類生息していますが、数年に一度、山から多くのクマが人里付近におりてくる、いわゆる大量出没が起き、その度に、多くのクマが捕殺され、同時に、多くの人々が人身事故に遭っています。
「野生動物と人が共存する社会」なんて絵に描いた餅で、実際は不可能なのでしょうか。我々はまず何から取り組んだらよいのでしょうか。

[この問題]⑨クマ01
思考のヒント
まずクマがなぜ大量出没するのか、その理由を考えてみましょう。直接的な原因は、ブナ科堅果類(例えばドングリなど)の豊凶具合によると言われており、簡単に言えば、森でドングリなどの実があまりならなかった大凶作の年に、多くのクマが食べ物を求めて、森から出てきます。一方で、クマの生息地や個体数の増加も大きな要因となっています。そして、集落環境にある食物資源への依存度も重要な要因で、例えば集落内にある柿の木などを対策せずに放置していると、クマが人の生活圏に侵入してくることになります。
このように、クマが出没する多様な原因を理解したうえで、解決策を考えて行く必要があります。

政策科学部での学び
政策科学は社会問題の解決を本気で考える学際的科学と言えます。問題の根本原因を理解するためには、様々なアプローチを用いて、調査をする必要があります。問題の解決に寄与する有効な政策を考えるためには、多様な学問を踏まえ、総合的に、立案する必要があります。クマと人との共存を考えると、まず上で述べた問題の原因について理解する必要があり、それは環境科学、生態学的な視点も踏まえ、クマという動物について、その生態について理解する必要があります。同時に、クマを人の生活圏に侵入させないための対策をするためには、集落に住む人々、研究者、行政など、多様な関係者が連携して、協働する必要があります。人々が協力し合い、参加型の野生動物管理を実行するためには、社会科学の知見が必要になります。そして最後に、子どもから大人まで、我々が同じ場所に住む野生動物について、共存するための術を学ぶための教育や普及啓発も必要でしょう。効果的な教育プログラムを考えるためには、教育学の知見も必要です。
こう考えると、人とクマとの共存はまさに政策科学で考えるべき、学際的な社会問題と言えます。

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執筆者紹介

桜井 良 准教授
SAKURAI Ryo

専⾨分野:野生動物管理における社会的側面(ヒューマン・ディメンション)、環境教育プログラムの評価、生物多様性保全、環境社会学、市民科学
学系:環境開発系

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