この問題、あなたならどうする?

高齢者の公的年金はたいへんだ。もう、みんな自己責任で私的年金に加入するほうがいいんじゃない?

日本の年金制度では働く人や学生が年金保険料を支払い、高齢者の生活のために支給されています。しかし現在は、少子高齢化が進んで年金制度を維持するのが困難となり、改革することが必要となっています。この問題にどう応えていけばいいでしょうか?

問題背景
現在の日本の年金制度は、働く人や学生らから集めた年金保険料をリタイアした高齢者の暮らしのために使っています。高齢者が少なく若者が多い時代はよかったのですが、現在のような超高齢社会では今の年金制度は維持するのが困難になってきます。これに対して、貯金のように各自が将来使うであろう年金額を自分で判断して、それを若いときから私的年金として積み立てておけば、公的年金制度は不要となります。すべてが自己責任として処理されるからです。

しかし、私たちは将来必要となる年金額がいくらになるかを合理的に見通すことはできません。いまの公的年金は私たちが死ぬまで支給されるのに対して、私的年金は積立額までしか支給されません。年金は私たちが人生における「リスク」に備えるためであり、年金では「長生き」がこれに当たります。長生きできることは素晴らしいことですが、生きていくためにはお金も必要です。

[この問題]①年金写真01
思考のヒント
公的年金制度を考える場合、まずは「支える側」(現役世代)「支えられる側」(高齢世代)の二つの視点で考える必要があります。

現役世代はこの国で生きる高齢者全体の生活を支えています。高齢者はそれによって生きています。少子高齢化が進めば、この仕組みが立ちゆかなくなります。そこで現役世代からは公的年金を各自が積み立てる私的年金に変えてはどうかという意見があります。 

しかし、いまの就労者や学生が自分は何歳まで生きるか、そして、医療や介護などがどれだけ必要になるのかなどについて、合理的に見通すことは不可能です。心配性の人は将来使い切れないほどの私的年金を積み立てるかもしれませんし、楽観的な人は人生の途中でそれが枯渇してしまいます。将来の物価がどうなるかなど、不確定な要因も多くあります。公的年金制度の場合にはこのような問題はありません。昔のように現役世代が親を扶養しなくてよい理由も、いまの公的年金制度があるからです。

公的年金制度は社会全体としての親世代の扶養の仕組みになっています。その一方では、いまの公的年金の財政制度を維持するのがますます困難になっているのも確かです。
公的年金制度の仕組みと持続可能性の両方の観点から総合的に考える必要があります。

[この問題]①年金写真02
政策科学部での学び
政策科学部では、経済学関係の科目であるマクロ経済学、経済政策などとともに、社会保障に関連する社会保障論や福祉政策論などを学ぶことができます。これらの知識を使いながら、これからの公的年金制度を考えることが大切です。
科目名:マクロ経済学、経済政策、社会保障論、福祉政策論

執筆者紹介

森 裕之 教授
MORI Hiroyuki

専⾨分野:財政学、都市経済学
学系:社会マネジメント系

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