2010.10.08 レアメタルを用いないクロスカップリング反応による導電性ポリマーの開発

薬学部 教授・北 泰行研究グループ
レアメタルを用いないクロスカップリング反応による導電性ポリマーの開発
-産学連携体制を確立 2011年度実用化予定-

薬学部 教授・北 泰行研究グループでは、レアメタル(パラジウム、ニッケルなど)を用いないクロスカップリング反応による導電性ポリマーの開発をしました。
この研究には、ヨウ素反応剤を用いたグリーンケミストリーなクロスカップリング反応を利用しています。
研究体制として、ナガセケムテックス㈱(本社:大阪市西区 取締役社長:毛利充邦)、長瀬産業㈱(本社:東京都中央区 代表取締役社長:長瀬 洋)との産学連携体制を確立しており、 2011年度中には実用化に向けて販売を開始する予定です。

1.本研究の目的

「クロスカップリング」は古くから日本が世界をリードしてきた研究分野であり、 様々な産業に応用可能な基礎技術です。しかしながら、この反応には、特定産出国へ の依存度が高いレアメタルが必要となります。

レアメタルは自動車や家電の生産に必要不可欠ではありますが、日本のような少資源国にとっては、 供給リスクが経済成長の制約要因となってきています。

 

図1

図1 レアメタル市場規模
レアメタル確保のための戦略的アプローチ 国際協力銀行 資源金融部長 前田匡史
財務省・財政投融資に関する基本問題検討会 産業投資ワーキングチーム(第7回)議事 資料より

北研究グループでは、上記のような経済的制約要因を打破するため、また、 有害物質を使用しないグリーンケミストリーの観点から新しい技術の開発に1985年頃より取り組んできました。

このたび、下記の通り、一定の研究成果が出ましたのでご報告いたします。

①日本が世界的な産出量を誇るヨウ素を触媒として用いた、 環境に優しいグリーンケミストリーなクロスカップリング反応を用いる技術開発。
②上記①の技術の応用として、新しい導電性ポリマーの開発。
③上記①の技術の応用として、新しい有機ELなど素材の開発。

 

図2 

図2 レアメタルを用いないグリーンケミストリーなクロスカップリング

 

2.本研究の特徴

 北研究グループの開発した技術のメリットは、以下の5点にまとめられます。

(1)高価なレアメタルを必要としない
(2)カップリングさせる複素環にあらかじめ官能基を導入する必要がない
(3)1工程で行うことが可能である
(4)反応産物が均一かつ高収率である
(5)これまで合成不可能な新規複素環化合物のクロスカップリング体の合成が可能である

上述の研究成果の1つの事例として、得られたチオフェン-ピロールカップリング体が導電性ポリマーの 素材として非常に有望であることから、本化合物を利用した新しい導電性ポリマー塗料の開発に着手しています。

図3

図3 複素環のクロスカップリング体のポリマー化反応

 

3.実用化に向けた今後の取り組み

 2010年度は、透明電極材料、有機EL(エレクトロルミネッセンス)の正孔輸送層、帯電防止コーティング材、 コンデンサーの機能性膜などに用いられる新規な導電性ポリマー塗料の開発に着手しています。
 これまでは、特に透明性が要求される光学フィルム等の帯電防止コーティング材用途として、ポリチオフェン 系導電性ポリマーが広く使用されています。しかしながら、ポリチオフェン系導電性ポリマーの大部分は水系分 散体であり、それを用いたコーティング材も水系となることから用途が限定されていました。
そのため更なる用途展開を目的として、有機溶剤系コーティング材、ひいては溶剤可溶性導電性ポリマーが求め られています。
これまで、各種の複素環化合物を酸化重合させることによる溶剤可溶性導電性ポリマーの合成研究は活発に行われ ていますが、導電性、溶剤溶解性、透明性などの物性をすべて満足させることのできるポリマーは得られていませ んでした。
これまでの経験から、異種の複素環化合物を共重合させると、これまでにない特性を有する導電性ポリマーが得ら れる可能性が高いと予想されましたが、構造の異なる複素環化合物は酸化重合における反応性が異なるため、導電 性ポリマーの高分子鎖中に均一に異種の複素環化合物を導入することは困難でした。
今回、当研究グループが候補となるクロスカップリング体のスクリーニングを実施しました。長瀬産業グループで あるナガセケムテックスは、スクリーニングで絞られたクロスカップリング体の詳細評価を担当しました。
この結果、特定の置換チオフェンと特定の置換ピロールのクロスカップリング体を酸化重合させて得られるポリマーが、 高い導電性と透明性のみならず、優れた耐酸化性や溶剤分散性を有することがわかりました。
これらの技術開発は、長瀬産業グループと共同で、1年後の実用化を目指しています。

 

【当該導電性ポリマーの特性と予定用途】
 ●有機溶剤系ポリマーである
   ・幅広い用途に対応可能
 ●透明性、導電性に優れている
   ・全光線透過率:86%(基材:90%)
   ・表面抵抗率 :1.0×106Ω/□
   ・ヘイズ   :0.5%(基材:0.2%)
     ガラス基板、乾燥膜厚0.1μm
 ●耐酸性に優れている
 ●実用化検討を行う予定の用途
   ・帯電防止ハードコート材、帯電防止粘着材
   ・導電パターン形成用のフォトレジストやスクリーン印刷用インキ
   ・透明電極用高導電コーティング材

※今回の開発技術については、複数の特許出願(申請中)を行っております。

 

【本件に関わるお問合せ先】

立命館大学総合理工学院薬学部 北 泰行 研究室
 研究室HP:https://www.ritsumei.ac.jp/pharmacy/kita/index.htm
立命館大学理工リサーチオフィス
 TEL:077-561-2802

 

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