つれづれ映画評
第二回「ダウン・バイ・ロー」
2013年07月19日
コラム
就活についての話は時々耳にしますが、本当に大変そうですね。
数をこなさなければならないのも辛そうですが、自己アピールするだとか自分の長所や強みについて述べるだとか、文化的にあまり馴染みのない行為を強いられるのがまたしんどそうです。
僕自身の育ってきた環境(昭和世代・地方出身)のせいでそう思うんでしょうか。とにかく小中高と「自分のことを良いふうになど言うな」という文脈に身を置いてやってきましたから、仮に今いきなり自己アピールしてとか言われても、その場で固まっちゃうと思います。短所を五つ六つ並べて「それでも何とかやってます」ぐらいしか言いようがないというか。だいたい長所なんて人様から言ってもらう類いのもので、自らの内省によって得られるのは専ら短所だけなんじゃないかと思うんですが、どうなんでしょう。
まあとにかく、就活は本当に大変そうです。
そんなわけで今回ご紹介するのは、就活の「しゅ」の字もかぶってないような三人に男のダメッダメな有り様を描いた「ダウン・バイ・ロー」という作品です。1986年のもので皆さん生まれてもないですよね。古いです、すみません。しかも白黒。ストーリーは平坦で盛り上がりも特になく、アクション性も皆無。ロマンスもないです。シリアスでもないし、コメディに寄ってるわけでもない。
じゃあ見所は何なの、と言うとその何もなさと、それでも何とかやってますという有り様が淡々と、しかし自虐的にでなく、温かみのある感じで描かれているところでしょうか。言わば就活や仕事、人間関係に疲れた人のための、風変わりなおとぎ話といった作品です。
三人のうちのひとりが恋人と揉めるシーンから映画が始まるのですが、とにかく皆、何か失うばかりの寄る辺ない世界に生きている。家族も出てこないし親身になってくれる友人もいない。ひとりは外国人という設定で、コミュニケーションもままなりません。仕事とも呼べないような仕事をして、それがまた更なるトラブルを運んでくる。そんな具合です。
妙な巡り合わせから三人は一緒になりますが、うちふたりが意地っ張りでプライドも高く、全っ然仲良くなろうとしません。「オイオイこの映画は会話すらないんか」と逆にその辺りから面白くなってきます。普段、懸命に気を遣って身の回りのコミュニティを良好に維持しようと神経をすり減らしている人ほど、彼ら三人のやり取りがじんわり染みる清涼剤のように感じられるかもしれません。意固地、狭量、場の空気の読めなさ。そういった、一見短所と見なされる側面が生き生きと描かれ各々の場面を小気味よく繋いでいくさまは、おとぎ話的ではありますが、この作品の最大の醍醐味といえるでしょう。
というわけで最初の就活の話と繋がっているのか割と不安ですが、まあ誰だって長所だけで出来てるわけでもないですし。いずれにしても、長所はもちろん短所も隠さずにいられる誰かと巡り合えることは、本当に素晴らしいことだと思います。
「ダウン・バイ・ロー」 ”Down By Law”
監督:ジム・ジャームッシュ
キャスト:トム・ウェイツ、ジョン・ルーリー、ロベルト・ベニーニ
数をこなさなければならないのも辛そうですが、自己アピールするだとか自分の長所や強みについて述べるだとか、文化的にあまり馴染みのない行為を強いられるのがまたしんどそうです。
僕自身の育ってきた環境(昭和世代・地方出身)のせいでそう思うんでしょうか。とにかく小中高と「自分のことを良いふうになど言うな」という文脈に身を置いてやってきましたから、仮に今いきなり自己アピールしてとか言われても、その場で固まっちゃうと思います。短所を五つ六つ並べて「それでも何とかやってます」ぐらいしか言いようがないというか。だいたい長所なんて人様から言ってもらう類いのもので、自らの内省によって得られるのは専ら短所だけなんじゃないかと思うんですが、どうなんでしょう。
まあとにかく、就活は本当に大変そうです。
そんなわけで今回ご紹介するのは、就活の「しゅ」の字もかぶってないような三人に男のダメッダメな有り様を描いた「ダウン・バイ・ロー」という作品です。1986年のもので皆さん生まれてもないですよね。古いです、すみません。しかも白黒。ストーリーは平坦で盛り上がりも特になく、アクション性も皆無。ロマンスもないです。シリアスでもないし、コメディに寄ってるわけでもない。
じゃあ見所は何なの、と言うとその何もなさと、それでも何とかやってますという有り様が淡々と、しかし自虐的にでなく、温かみのある感じで描かれているところでしょうか。言わば就活や仕事、人間関係に疲れた人のための、風変わりなおとぎ話といった作品です。
三人のうちのひとりが恋人と揉めるシーンから映画が始まるのですが、とにかく皆、何か失うばかりの寄る辺ない世界に生きている。家族も出てこないし親身になってくれる友人もいない。ひとりは外国人という設定で、コミュニケーションもままなりません。仕事とも呼べないような仕事をして、それがまた更なるトラブルを運んでくる。そんな具合です。
妙な巡り合わせから三人は一緒になりますが、うちふたりが意地っ張りでプライドも高く、全っ然仲良くなろうとしません。「オイオイこの映画は会話すらないんか」と逆にその辺りから面白くなってきます。普段、懸命に気を遣って身の回りのコミュニティを良好に維持しようと神経をすり減らしている人ほど、彼ら三人のやり取りがじんわり染みる清涼剤のように感じられるかもしれません。意固地、狭量、場の空気の読めなさ。そういった、一見短所と見なされる側面が生き生きと描かれ各々の場面を小気味よく繋いでいくさまは、おとぎ話的ではありますが、この作品の最大の醍醐味といえるでしょう。
というわけで最初の就活の話と繋がっているのか割と不安ですが、まあ誰だって長所だけで出来てるわけでもないですし。いずれにしても、長所はもちろん短所も隠さずにいられる誰かと巡り合えることは、本当に素晴らしいことだと思います。
「ダウン・バイ・ロー」 ”Down By Law”
監督:ジム・ジャームッシュ
キャスト:トム・ウェイツ、ジョン・ルーリー、ロベルト・ベニーニ