コラム

2023.10.26

見えるものと見えないもの

「昼のお星は眼にみえぬ。/見えぬけれどもあるんだよ、/見えぬものでもあるんだよ。」(金子みすゞ「星とたんぽぽ」)

「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない。」(アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『星の王子さま』)

「呑気と見える人々も、心の底を叩いて見ると、どこか悲しい音がする。」(夏目漱石『吾輩は猫である』)

 人間に限らず、生き物の大半が視覚にたよって生きています。地球上に生物が大繁栄したのは「眼」の存在が大きいようです。ところが、その眼球という器官は化石として残ることがないため、いつ・どのように発生してきたのか、依然として謎のままです(アンドリュー・パーカー『眼の誕生:カンブリア紀大進化の謎を解く』)。しかし、生き物が眼球を獲得したことで、さまざまな進化論的メリットを得たことは間違いありません。
 だからこそ、生き物は視覚情報を大きく信用し、耳で聞くより目で見たものを信頼しています。とくに人間は、ほかの生き物と異なり、嗅覚や聴覚がずば抜けて優れているわけでもないので、視覚に大きく依存しています。通常、人間が暗闇を恐れるのも、その視覚が有効に働かない状況だからでしょう。映画、写真、絵画、漫画、小説など、視覚から摂取される文化芸術の広さからも、「見えるもの」に私たち人間がどれほど左右されているのかがわかります。「百聞は一見に如かず」ということわざはそのことを端的に表しています。
 人間は見えるものを信用し、見えないものは信用しない。そういう傾向があるでしょう。ところが、困ったことにこの世のあらゆる事柄が、必ずしも目に見えるものだけではないのですね。「昼のお星」は目に見えないけれども、たしかに存在しています。キツネが王子さまに教えてくれたように「いちばんたいせつなことは、目に見えない」のです。そうです、ありきたりな表現かもしれませんが、心はその「見えないもの」の最たる例です。だから「心で見なくてはよく見えない」のですね。
 家族や友人との仲がこじれたとき、あるいは好きな人や恋人の気持ちがわからなくなったとき、私たちはその相手の心を理解したいと思うでしょう。でも心は見えないものですので、なかなか簡単にはわかりません。「あれこれ言うかげには愛情があったことを、見ぬくべきだった」(『星の王子さま』)としても、容易には見えないものです。「呑気と見える人々も、心の底を叩いて見ると、どこか悲しい音がする」のに、人は表面的なところだけを捉えて評価・判断しがちです。その相手と対話やコミュニケーションをとることを避けて、自分だけの思い込みで行動しがちです。人間誰しもそういう傾向をもっているでしょう。
 言うは易く行うは難し。わかっていても、相手のことを、相手の心を理解しようと、見ることは難しいことでしょう。そのためにはまず、自分の気持ちや心を見つめてみる必要があるかもしれません。問題と思っていた事柄の一部に、実は自分の捉え方や考え方が関わっている場合もあるでしょう。生き物の目はその構造上、自分の目そのものを直接見ることができません。鏡や水面に映さないと自分の目を見ることができないように、自分のことを話す相手が、相談する他者が存在するから見えてくるものもあるかもしれません。
 大学生活を送る上で、人間関係に悩んだり、学業で苦しんだり、就職活動で落ち込んだりする背景には、なにか自分の目には「見えないもの」が働いているのかもしれません。「なんだかモヤモヤする」とか「気分が落ち込んでばかりだ」とか、そういう気持ちの変化がひとつのサインである場合もあります。自分の気持ちを見つめてみるなかで、問題解決の糸口が見つかるかもしれませんし、誰かに話すことで気持ちが楽になるかもしれません。ほっと安心することではじめて自分の視野が広がり、これまで見えていなかったものが目に入るようになったり、これからどうすればよいのかが見えてきたりします。そのような一助として、学生サポートルームをご活用ください。

学生サポートルーム

2023.01.01

あなたのいばしょ

「あなたのいばしょ」、これは、チャットで相談できる機関の名前です。運営をしているのは、大空幸星(おおぞらこうき)さん。大学在学中の(慶應義塾大学総合政策学部在学中の)2020年3月にこの相談窓口を立ち上げました。

以下『あなたのいばしょ』HPより掲載
“いまの社会では、問題を抱えた時に奇跡的に信頼できる人に出会うことができれば助かることができます。しかし、多くの人はその奇跡が起きることなく、ひとりで苦しんでいます。中には命を断つほど追い詰められる方もいます。私もその中のひとりでした。複雑な家庭環境の中で、様々な問題を抱え、ひとりで苦しんでいました。しかし私は、高校の恩師に奇跡的に出会うことができたため、その問題を乗り越えることができたのです。こうした出会いを奇跡にしてはいけません。自ら命を断つほど悩んでいる方、虐待や暴力を受けながらそのことを誰にも話せない方など、全ての望まない孤独を抱えている方が確実に信頼できる人にアクセスできる仕組みを創ります。https://talkme.jp/about#message
(あなたのいばしょ https://talkme.jp/
365日、24時間いつでもチャットで相談できて、必要な機関につないでくれます。

 大空さんは、上記にあるように自分自身の経験からこうしたアクセスが必要だと考えて、特定非営利活動法人を運営しています。

 サポートルームでは、HPに夜間や緊急時に相談できる機関を掲載しています。
どうしてもつらいとき、自分で抱えきれない感じがするときには、遠慮なく人に頼ってみましょう。そして、しんどそうな人がいたら、声かけしながら、ささえあっていきましょう。

学生サポートルーム

2023.01.01

たまには、ゆっくり、ほっこりと。

 秋セメスターがはじまって3か月。中間試験があったり、小テストがあったり、課題があったり、忙しい時間が続いていると思います。相談を通してみなさんの話を聴いていると、授業に出席して、課題をこなしていくだけでも、相当のエネルギーを使うし、疲労すると感じます。これをきちんとこなしていくのは、大変なことですね。わたしが学生だったら、うまくやっていけるかな、自信がないぞと思うことも多いです。
 さてさて、忙しい時間が続くと、ゆとりがなくなってきます。時間がないだけでなく、気持ちのゆとりもなくなります。さらに、がんばらないと、きちんとこなさないと、と思っている人も多いので、ますます自分を追い込んでしまいがちになります。こういうとき、うっかり忘れものをしたり、危ないことがおきたり、あせってミスすることも多いです。では、どうすればいいのかということになりますが、思い切ってしっかり休んだり、遊んだりして、ゆとりの時空間をつくることをお勧めします。限られた場所にきゅうきゅう詰められた、ブロックでいっぱいの空間に隙間をつくると、ブロックを動かしやすくなります。それと同じで、隙間をつくることでスムーズにうごきはじめることがたくさんあります。こういうのを遊びの空間といいます。
 息がつまりそうなとき、遊びの時間と空間をつくってみてはどうでしょうか。スイッチのオンとオフにたとえることもありますが、今は学びのスイッチ、今は遊びのスイッチというように、オンとオフの切り替え上手になると、きっと学業も充実してくると思います。
 もうすぐ冬休み。ゆっくり、ほっこりは、しっかり、きっちりの入り口になりえます。充実した休暇期間を過ごせるといいですね。なかなか、心身の緊張がほぐれにくい人は、こころの健康欄のリラクセーション*を試してみたり、月2回実施している「ほっこりリラクセーション」に参加してみてくださいね。
学生サポートルーム カウンセラー

2020.09.06

自分らしさって何だろう?

 自分らしさって何だろう?という問いは、誰しも一度は抱いたことのあるものではないでしょうか。今回のコラムでは、そのことについて考えてみたいと思います。
突然ですが、まずここで皆さんに質問です。次の画像の真ん中の黒い丸は、左側と右側のどちらの方が大きく見えるでしょうか?

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 この問いに対して、「右側の黒い丸の方が大きく見える」と答える人が多いのですが、実際はそうではありません。驚く方もいるかもしれませんが、「大きさはどちらも同じ」というのが正解です。左側の画像では、大きい丸に囲まれているので真ん中の黒い丸が小さく見え、右側の画像では、小さい丸に囲まれているので真ん中の黒い丸が大きく見えるだけなのです。これは心理学の「錯視」と言われる現象です。これは、ひとの脳が、無意識のうちに周りとの比較で、物を見てしまうということを表しています。
なぜこのような例を挙げたかと言うと、私たちも普段ついつい誰かと自分を比較して、一喜一憂していないだろうかと考えてみたかったためです。この画像の真ん中の丸を、あなた自身だと想像してみてください。左側の画像のように、優秀な人に囲まれていると感じると自分が委縮して自信がなくなってしまうことはないでしょうか?一方、右側の画像のように、周りよりも自分の方が優れていると感じると態度が大きくなってしまうことはないでしょうか?この錯視の例のように、我々は、無意識のうちに、周囲の人との比較で自分を捉えてしまいがちなのです。周りと比較することなく、自分らしくありたいと思っていても、自信が持てずに誰かと比べてしまいがちですし、ついつい周りに合わせてしまうものです。それでは、自分らしくいるためには、いったいどうしたらよいのでしょうか?

 それを考えるために、今度はこの画像のうち、周りの丸を全て取り除いてみたいと思います。

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 すると、やはり真ん中の黒い丸は、どちらも同じ大きさの丸になることがわかると思います。加えて、もう一つ気づくことがあります。それは、その黒い丸が、大きいのか小さいのかどうかは、もはや判断ができなくなるということです。比較できる対象がないため、この黒い丸は、大きいでもなく小さいでもなく、「ただの丸」でしかなくなってしまうのです。

 あなた自身も、周りの人との比較をやめてみた途端、自分が優秀なのかそうでないのか、自分が明るいのかそうでないのか、自分が優しいのかそうでないのかなどが見えなくなり、自分が何なのかという手がかりがなくなるために、不安な気持ちに陥るかもしれません。誰かと大きさを競うことの方がずっとわかりやすく、単純なことに思えてくるかもしれません。ですが、それでも、周りの人との比較をやめて、自分自身を見つめていると、今のあなた自身の本当の姿が見えてくるのではないでしょうか?大きくもなく小さくもなく、「ただの丸」にしかすぎない自分自身の姿が浮かび上がってくるはずです。「ただの丸」でしかないという現実は厳しくもありますが、よい意味での諦めと軽やかな気持ちを同時に感じることになるのではないでしょうか?なぜなら、「ただの丸」でしかないということは、この先どんな形にもどんな色にもなりうる可能性も秘めていることに気づくからです。

 自分自身を見つめることは勇気がいる作業です。しかし、その作業を通して初めて、誰かと比べるのではない、「私だけの」「僕だけの」自分らしさを発見できるのかもしれません。同時に、自分が「ただの丸」でしかないことを確認できて初めて、そこに色付けをしたり形を変えたりして、自分だけの「何か」を作っていけるのかもしれません。学生サポートルームでは、悩みや困り事の相談だけではなく、こんなふうに自分らしさを見つけるためのお手伝いをさせていただくこともできます。いつでも足を運んでみてくださいね。

学生サポートルームカウンセラー

2019.04.01

”Finding who you are”「自分との出会い」

Hello. I am a counsellor from the Student Support Room. Welcome to Ritsumeikan University!
 For those who have just started college life this may be a very exciting time, as almost everything is new, or this may be a very stressful time, as nothing is familiar. If you are an international student, the excitement and anxiety can be doubled.
 My first experience staying in a foreign country was a 3-month ESL program in the US. It was just a fun time with no pressure – learning English phrases in both classroom and social settings. The second and third times were different. I was majoring in Psychology, and it required much more work. Not only the theories I had to grasp, but also counselling skills in English I had to acquire, which was a struggle for me. It seems like when your vocabulary is limited, so is your intelligence. While other Canadian students were addressing their ideas and thoughts, and demonstrating wonderful skills of counselling in practicum, I felt so idiotic, and thought “Why on earth did I come here? What am I doing here all by myself?”
 Thanks to the teachers, friends, and clients who continuously came to my counselling sessions, I started to realize “who I am.” Once I accepted who I was, although I was still struggling, I could appreciate what I had. If you would like to get the most out of their time here in Japan, and at Ritsumeikan University, please visit us at the Student Support Room. We are here to help you find “who you really are.”

 皆さん、こんにちは。学生サポートルームのカウンセラーです。立命館大学にようこそ!
 学生生活を始めたばかりの方にとっては、多くのことが新鮮で期待で胸がいっぱいかもしれません。一方で、初めてのことばかりでとまどっている方もいるかもしれません。留学生の皆さんは、わくわく感も不安も、日本人学生より多いのではないかと想像します。
 私にとっての留学体験は、3ヶ月の語学留学が最初でした。このときは、ただ英語を身につけることだけが目的で、何のプレッシャーもない、楽しい期間でした。でも2度目、3度目は正規生として心理学を学んでいたこともあり、勉強はなかなか大変でした。机上の理論だけではなく、英語でカウンセリングの実習をしなければならず、苦戦しました。語彙が限られると、知性も限られてしまうように思えてきたものです。他のカナダ人学生が、自分の考えを積極的に発言したり、カウンセリングスキルを発揮したりしているのを見ると、自分が無能な気さえして、「なぜ留学なんてしたんだろう」と考えたものです。
 しかし、先生や友人、そしてカウンセリングに来てくれるクライエントのおかげで、徐々に「自分らしさ」に気づくことができるようになりました。そしてその「自分らしさ」が受け入れられるようになると、まだまだ苦労はあったものの、何とかそれを生かしてのカウンセリングができるようになりました。日本での、そして立命館大学での学生生活をより充実させたいと思っている皆さん、どうぞ学生サポートルームにいらしてください。サポートルームが皆さんの「自分らしさ」発見の一助になれば幸いです。

              学生サポートルームカウンセラー