コラム

キャンパスの謎エリア

 衣笠キャンパスの学生サポートルームに出勤するときに、いつも通る学内の道があります。ある場所を通過すると、しばしば足元から「ニャー」という声が聞こえ、見ると猫が植え込みの中で寝そべっています。ああ猫がいるな……と思いつつ、遅刻を気にして振り切るように通り過ぎていたものです。

 いつからか、その場所に小さな立て看板が置かれるようになりました。猫についての看板です。猫はひっかいたりするので、手を出さないでね、という主旨のかわいい看板でした。

 どうやら、あの小さい猫は、人にかまわれるのが嫌みたいです。誰かが実際にかまってみて分かったのでしょうか。でも、人に近づかれたくないのなら、どうして猫は、私が通りがかったときに、あんなにかぼそい声でわざわざ鳴いて、こちらを振り向かせるのでしょう。そして、いつまでたっても大きくならないのはなぜ? この看板を作ったのは一体誰なの?……様々な謎が謎を呼びます。

 謎めいた学内には、足を踏み入れたことのないエリアがたくさんあります。たくさんというより、ほとんどの場所が未知のゾーンです。なんといっても私はいつも、広いキャンパス内の決まった場所を通って出勤して、決まった場所に終日いるのですから。

 そうして学生サポートルームという決まった場所に一日いると、何人もの学生さんが訪れては帰っていきます。やってくる人たちは、服に葉っぱがついていることもありますし、真冬なのにコートを着ていないこともあります。鞄を持っていない人に「鞄は?」と、あるとき質問したら、「研究室に置いてある」ということでした。コートを着ていなかった人も、学内のどこかに置いてあったのかもしれません。
 
 学生さんたちは、それぞれ大学内のどこかに居場所があったり、慣れた場所があったりするのだろうなと思います。そのほとんどは、私が決して行くことのないエリアです。広いキャンパス内には、専門的な機材や膨大な資料があって、それらは一生私が目にすることのないものです。

 そんな中、多くの学生さんたちの語りを通して、少しずつ、未知のキャンパス世界のイメージは私の中に作られてきました。ある建物の中には、きっと近未来みたいなメカがひしめき、また別の建物の中では、世界中の言語が飛び交い……。見ることのない世界はとてもまぶしく思われます。

 でも、そもそも、私はどうしていつも同じルートを取って出勤し、昼休みもサポートルームの中にじっとしているのでしょう。外をうろうろしたっていいはずです。大学に勤務し始めてだいぶ経ってから、私は図書館で本を借りられることを知り、前から読みたかったたくさんの小説があるのを発見しました。他にももっと発見できることがあるかもしれません。大きくならない猫の謎もいつか解明されるのでしょうか。

 そして最後に一言。悩み事のある学生さんへ。学生サポートルームという未知のエリアに足を踏み入れることから広がる世界があるかもしれません。いつでも扉を開いてくださいね。

学生サポートルームカウンセラー