コラム

実際のものに触れること

 先日、“Mamma Mia!”という映画を見ました。スウェーデンの音楽グループのABBAの音楽を何曲も使っているミュージカル映画です。ご覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれません。
 私はABBAはなんとなく知っていて、“Mamma Mia!”というミュージカルや映画がよく知られているのは知っていましたが、実際に映画を見て、これABBAの曲だったんだ!というのがたくさんありました。ABBAが実際に活動していた時期に私はABBAを聞いていたわけではありませんが、これだけ今も耳にする曲があるとは、当時もとても人気だったのでしょう。
 映画の中では主に俳優がABBAの曲を歌っているので、実際はどんな感じのグループなのだろうと思ってインターネットの動画でABBAの色んな曲の映像を見ました。外出しなくても、すぐ、ぱっと、見てみたい映像にアクセスできるとは、インターネットはすごい力を持っています。
 映画は映画で面白かったのですが、動画を見続けているうちに、体が動き出す感じもあって、ABBAのライブを体験してみたかったな、何かライブに行ってみたいな、と思いました。見たインターネットの動画はメンバーを近くで撮っていたものだったので、メンバーの表情など細やかなところまで様子がわかりますし、実際にライブに行ったらそこまでわからないだろうと思います。他のアーティストについても動画で見るのも面白いですが、動画で見て聞くのとライブで見て聞くのとはかなり違いますよね。
 ライブやコンサートに行くと、会場に入った時の空間の広がり、演奏される音楽が空間いっぱいに広がって体全身に響きが伝わってくる感じ、その音楽を聞きに来た他の人たちとその時間や空間を一緒にしている感じ、ライブやコンサート後は体の中に起きた高ぶりの余韻に浸る感じ、などがあり、映像を通して感じる音楽とは何か違うものがあると思います。音楽だけではなく、何かスポーツや展示などを見に行ってそれそのものを見るのは、実際に行って見るからこそ感じとれるエネルギーがそこにあるように思います。

 普段はテレビやパソコンやスマートフォンなどで動画を見たり音楽を聴いたり、と視覚や聴覚を使うことが多いのではないでしょうか。そこで得られる情報は、聴覚以外の感覚(触覚や味覚、嗅覚など)が抜けた情報です。
 春になって暖かくなり、冬で硬くこわばった体もゆるんできた頃かと思います。
 映像を通して色んなことを知って世界を広げるのも面白いですが、普段の生活の中で感覚を広げ、実際のものに体を通して触れてみるのもいいのかもしれません。例えば外に出た時、自分が普段歩く道にどんな手触りの葉をつけた木が立ち、どんな匂いのする花が咲くのか、春の空気の中、少し意識してみてもいいのかもしれません。それは、自分に何かすぐに影響を与えることではないかもしれませんが、自分の体のどこかにゆっくりと蓄積されていくことなのではないかと思います。

学生サポートルームカウンセラー