ある日トイレで
2016年07月01日
コラム
数年前のことですが、某百貨店のトイレが改装されました。洗浄ボタンや音出し機能が側壁にすっきりまとめられ、モダンに印象が変わり驚きましたが、使用方法がすぐ側に貼られていたため、使い方に困る人はいないだろうと思っていました。
それからしばらくしてそのトイレに行った際、事件は起こりました。
あるご婦人が手前の個室に入ったまま出てきません。具合でも悪くなったかと順番待ちの列がざわつき始めた頃、中から『〇〇ちゃーん!どうやって流したらええの!?どうするのこれ?!』と叫び声が聞こえてきました。何度呼んでも奥の個室にいるらしき〇〇ちゃんから返事はなく、奥と手前の個室は閉ざされたまま。順番待ちの列に「どうやってマダムを救出する?」と焦燥感が漂い始めたその時、先頭のマダムが個室に向けて助け舟を出しました。『右の壁に水洗ボタンがありますよ。使い方も書いてありますよ』と声をかける先頭マダムの勇気に感謝しこれで個室のマダムも救われるはず、と我々は安堵しました。ところが、かえって慌てたのか、個室のマダムは『〇〇ちゃーん!早よ来てー!』を繰り返し、先頭マダムのアドバイスはかき消されたのでした。
中央のトイレのみが稼動する中順番が来てしまい、個室のマダムのその後は分からずじまいとなりました。無骨なレバー方式や大きい押しボタンの水洗トイレの普及率に感心しながらバスに揺られる帰り道、ある夏の出来事を思い出しました。
その夏、私はニューヨークのバスの中で途方に暮れておりました。当時私は学生で、留学中の友人を訪ねて空港から移動中でした。目的地が近づくのに、降車ボタンが見当たらないのです。観察しても誰もそれらしき物を押す気配がありません。しかし、運転席上の画面にバス停の名前が点滅すると停車し、点滅しないバス停は通過されてしまうことは見ていて分かりました。焦った私は思い切って乗客に尋ねました。「どうしたら降りられますか?」と。尋ねられたニューヨーカーは何がわからないのかがわからない、とキョトンとしていましたが、すぐに表情が明るくなり『次、降りたいの?』と聞いてくれました。必死に頷く私を見てその人は『こうするんだよ』とある物を押してみせてくれました。皆さん、何だかわかりますか?それは車内の手すりに貼り巡らされた黄色と黒のゴムコードだったのです。ゴムコードが降車ボタンの役目を果たしていたのですね。灯台下暗しとはまさにこのこと。それは乗車中、私がずっと目にしていたものでした。
人が慣れ親しんだ形状からイメージを切り替えて、新しい様式に慣れたり取り入れたりしていくのにはそれなりに時間がかかるものなのでしょう。そして焦ると、目の前にヒントや助け舟が出されたとしても見落としやすくなるものですね。
さて、久しぶりに某百貨店に行く機会があり、あのトイレのその後が気になり寄ってみました。貼紙が・・・増えていました!扉の内側にも大きく使用方法が掲示され、ボタンの真上には『ここを押すと水が流れます』と書かれた矢印型テープが追加されていました。いまや貼紙だらけでスタイリッシュはどこへやら状態のそのトイレ、定着するにはまだまだ時間がかかりそうです。
それからしばらくしてそのトイレに行った際、事件は起こりました。
あるご婦人が手前の個室に入ったまま出てきません。具合でも悪くなったかと順番待ちの列がざわつき始めた頃、中から『〇〇ちゃーん!どうやって流したらええの!?どうするのこれ?!』と叫び声が聞こえてきました。何度呼んでも奥の個室にいるらしき〇〇ちゃんから返事はなく、奥と手前の個室は閉ざされたまま。順番待ちの列に「どうやってマダムを救出する?」と焦燥感が漂い始めたその時、先頭のマダムが個室に向けて助け舟を出しました。『右の壁に水洗ボタンがありますよ。使い方も書いてありますよ』と声をかける先頭マダムの勇気に感謝しこれで個室のマダムも救われるはず、と我々は安堵しました。ところが、かえって慌てたのか、個室のマダムは『〇〇ちゃーん!早よ来てー!』を繰り返し、先頭マダムのアドバイスはかき消されたのでした。
中央のトイレのみが稼動する中順番が来てしまい、個室のマダムのその後は分からずじまいとなりました。無骨なレバー方式や大きい押しボタンの水洗トイレの普及率に感心しながらバスに揺られる帰り道、ある夏の出来事を思い出しました。
その夏、私はニューヨークのバスの中で途方に暮れておりました。当時私は学生で、留学中の友人を訪ねて空港から移動中でした。目的地が近づくのに、降車ボタンが見当たらないのです。観察しても誰もそれらしき物を押す気配がありません。しかし、運転席上の画面にバス停の名前が点滅すると停車し、点滅しないバス停は通過されてしまうことは見ていて分かりました。焦った私は思い切って乗客に尋ねました。「どうしたら降りられますか?」と。尋ねられたニューヨーカーは何がわからないのかがわからない、とキョトンとしていましたが、すぐに表情が明るくなり『次、降りたいの?』と聞いてくれました。必死に頷く私を見てその人は『こうするんだよ』とある物を押してみせてくれました。皆さん、何だかわかりますか?それは車内の手すりに貼り巡らされた黄色と黒のゴムコードだったのです。ゴムコードが降車ボタンの役目を果たしていたのですね。灯台下暗しとはまさにこのこと。それは乗車中、私がずっと目にしていたものでした。
人が慣れ親しんだ形状からイメージを切り替えて、新しい様式に慣れたり取り入れたりしていくのにはそれなりに時間がかかるものなのでしょう。そして焦ると、目の前にヒントや助け舟が出されたとしても見落としやすくなるものですね。
さて、久しぶりに某百貨店に行く機会があり、あのトイレのその後が気になり寄ってみました。貼紙が・・・増えていました!扉の内側にも大きく使用方法が掲示され、ボタンの真上には『ここを押すと水が流れます』と書かれた矢印型テープが追加されていました。いまや貼紙だらけでスタイリッシュはどこへやら状態のそのトイレ、定着するにはまだまだ時間がかかりそうです。
学生サポートルームカウンセラー