コラム

駅前の不動産屋さんで

 先日,南草津駅近くの道を歩いていたら,不動産屋さんがあって,立命館大学生向けと思われる大きな看板が立ててありました。それは,今住んでいる部屋から別の部屋へ引っ越すことを考えてみませんか?と誘う内容のもので,その理由としてふたつのことが掲げてありました。(一字一句は覚えていませんが)一つ目は「大学が思ったより遠かった!」というもの。これは納得です。毎日通う訳ですから,より近いに越したことはありません。2回生になる時とか,大学院に進学が決まった時とか,いろんな節目で多くの人が一度は考えそうな理由です。
 そして二つ目が「仲の良い友だちの部屋がすぐ近くだった!」。これは一瞬,反対の意味に取ってしまい,友だちの近くに引っ越したいということかと思って危うくびっくりしかけましたが,そうではなくて,友だちと距離を取りたいということですね。どちらかというと,こちらの方が納得はできます。プライベートはしっかり守りたいということでしょう。でも,せっかく仲の良い友だちなんだから,わざわざ引っ越ししてまで距離を取らなくても…という気もします。
特に僕は臨床心理士としてサポートルームでカウンセリングの仕事をする中で,「友だちができない」という悩みをたくさん,たくさん聴いてきたので,この宣伝文句には,なおさら印象深いものがあったのです。友だちって,作るのも大変だけど,出来たら出来たで,いろいろ気を遣うことがあるなあと。人と人との間の距離の取り方というのは人間にとって永遠の悩みの種ですね。
 ここから先は想像ですが,このように引っ越しをしてまで距離を取ろうとする友だちとも,例えばTwitter上ではリアルタイムにつながっていないとダメ,とかあるのではないでしょうか?Twitterはフォローする/しないの二択ですから,サッパリしているとも言えますが,mixiやFacebookとかになると設定もけっこう複雑にしようと思えば出来るので,これまたいろいろ気を遣うことがありそうです。実際,ネット上での友人(たち)とのトラブルや,そこで生まれた不信感といった話も,カウンセリングの中でよく出てくる話題のひとつです。
 大まかにいえば,リアルな(物理的な)世界では,きちんとした距離を取ってプライバシーを厳重に守りつつ,ネット上の(電子的な)世界では,出来る限りリアルタイムでつながっていたい(いないとまずい)というのが,多くの人たちの感じていることではないでしょうか。ネット上では発信する情報を意識的にコントロールできるというのが大きなポイントなのではないかと思われます。
 僕は評論家ではないので,こういった世の中の動きを,道徳的・教育的(その他,何的にでも)良いとか悪いとかで判断するのではなくて,こういった動きが今後,人の心にどういった変化をもたらすのだろう,ということを注意深く見ていきたい,そして「面白そう」と思ったら自分も参加していきたい,と考えています。ただ,良かれ悪しかれ,いろいろ複雑になっているのは確かなようで,その複雑さにどう対処するかというところに,その人その人の個性が表れる,ということは言えそうです。
 一方で,場所と時間を決めて,(物理的に)面と向かって,一対一で話し合うという,今となってはたいへん古風なカウンセリングの方法を,これからも大切にしていきたいと思っています。

学生サポートルームカウンセラー